第5話

それに毎日散歩をしているようだ。

散歩と言っても道ではなく、アパートの北、東、西にある森を歩いているようだ。

健康的で紳士的な人だと三谷は思った。

ただ他の住人と同じで、仕事は何をしているのかは全く分からなかったが。


三谷の仕事は相変わらずだ。

上司二人で半分は事務、半分は商品の移動だ。

上司は無口で大人しい人で、感情を表に出すこともほとんどない。

一緒にいてストレスを感じることはないが、刺激も一切ない。

周りも自然だけは豊かだが、都会的なものや文化的なものはまるでない。

三谷は出張一か月で、もう地元に帰りたくなっていた。


そんなある日、妖怪荘にまた新たな住人が入ってきた。

それを一目見て三谷はびっくりした。

小柄でスレンダーな体の上にある小顔が、とてつもなく可愛い。

目も鼻も口も可愛らしく、それが合わさるとさらに可愛さが増している。

年齢は二十にいくかいかないかぐらいに見えた。

笑顔も可愛らしく、まるで無垢な少女のようだ。

三谷は生まれてこのかたリアルでも芸能人でも、こんなにも可愛いらしい女性を見たことがなかった。

名前は猫山みみと言う。

名前の通り、どこか子猫を連想させるところもある女の子だ。

「猫山みみです。よろしくお願いします」

声も人気声優のようだ。

そうかと言って思いっきりアニメ声と言うわけではなく、自然で聞き心地が良い声だ。

「どうも、三谷です。こちらこそよろしくお願いします」

三谷はそれだけ言うのが精いっぱいだった。

三谷は一目で恋をした。

二十四歳の男性にしては異性に対する興味が若干薄い三谷だったが、そんなことはなかったかのように猫山みみに対して興味があふれんばかりにわいてきた。

綺麗に言えば恋心。

言い方を変えれば下心。

二十代の男性が究極に可愛い女の子に会ったのだ。

そうならない方がおかしい。

おまけに同じアパートに住んでいるなんて。これをチャンスと言わずしてなんと言おうか。

――出張はいつまでだったかな?

数日前まで地元に帰ることを考えていたのが嘘のようだ。

一か月や二か月で出張が終わるわけがない。

おまけにここに来てからまだ一か月だ。

それなのに少し焦り始めている自分に三谷は気がついた。

――落ち着け、落ち着け。

がっついては駄目だ。

そんなのは嫌われるだけだ。

三谷はスマートにゆっくりと彼女と親しくなることを考えた。

恋する若い男性。

もうだれにも止めることはできない。

猫山の部屋は二号室だ。

管理人の隣。

管理人をはじめここには四人すんでいるが、いまだに二階にいるのは九津一人だった。


三谷は仕事以外のほとんどの思考が猫山みみでしめられてしまった。

しかも他の住人よりも猫山に会う機会が多かった。

仕事の帰りや買い物などでアパートを出入りするときなど、とにかくよく猫山に会った。

もちろん猫山をストーカーしていたわけではない。

そんな無粋なことは、三谷はしない。

偶然なのだが、恋する三谷は必然を感じ始めていた。

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