第3話
気になるところではあるが、三谷はそれ以上詮索するのはやめておいた。
それにしてもよけいなこととは。
九津は以前何かやらかしたのだろうか。
あれだけスタイルが良くて飛び切りの美人。
おまけに表情は豊かとはいえないが妙に憂いがありなんだか色っぽい。
まだ二十代であの雰囲気をまとう女性は珍しいと言えよう。
色恋沙汰に関してかなりの手練れという印象を受ける。
ひょっとすると魔性の女なのかもしれない。
三谷はそう考え、魅力的な女ではあるが九津とは少し距離を取ろうと思った。
そんなある日のこと、また入居者が来た。
今度は男で三十代くらいに見えた。
目鼻立ちのはっきりとした個性的な顔の男で、特にその口が大きかった。
個性派男優としてやっていても不思議ではないほどの、かなり目立つ顔だ。
しかも三十代に見えるのに、昭和の少年のようなおかっぱ頭をしているのだ。
それが彼の顔に妙にあっている。
亀田又彦。
そういう名前だった。
声も大きめで、やけにはっきりと通る声をしていた。
演説とか実況でもすれば、ぴったりだと思える声だ。
部屋は四号室。
三谷の隣だ。
ひょっとして上の十号室に入るのではとも思ったが、二階で九津と二人きりになるのを管理人が避けたようだ。
――ちょっとにぎやかになって来たな。
三谷はそう思った。
ある日、三谷が玄関を出ようとしたら、管理人と亀田が話しているのが聞こえてきた。
その姿は建物の陰になって見えなかったが、二人ともよく通る声をしていたので、その内容はまる聞こえだった。
「そうなのよ。ほとんどアパートにいないのよ」
「それは大いに問題だなあ。どこかでなんかやらかしているんじゃないのか」
「やらかしているのはほぼ間違いないと思うわ。なにをやらかしているのかが問題だけど。とにかく心配よね」
「わかった。この俺が見張ってやるから、そんなに心配するな」
「それじゃあお願いね」
「了解、了解」
それ以降声は聞こえなくなった。
話の内容からして管理人と亀田はそれなりに親しい間柄であるということ。
そして亀田も九津を知っており、管理人と同様に九津を快く思っていないということだ。
管理人を含めて四人がこのアパートに住んでいるが、三谷以外の三人は顔見知りのようだ。
――みんな知り合いかい。
だからどうしたというわけではないが、三谷は少しのけ者にされたように感じた。
そしてやはり九津という女は気をつけなければならないと思った。
ある日の休日、三谷は釣りに出かけた。
釣りが大好きというわけではないが、たまにやりたくなるのだ。
釣り竿も持ってきていた。
アパートから歩いて五分くらいのところに、ちょっとした池がある。
そこにはフナやコイがいるようなのだ。
ため池に近くて水が澄んでいるとは言えないが、化学物質や廃棄物でそうなっているわけではないので、その点は心配がない。
三谷は前もって捕まえておいたミミズを餌に、釣りを始めた。
釣り針を池に投げ入れる。
もちろんすぐにあたりがあるわけではない。
そんなのはまれだ。
しかししばらく待っていると、うきが動いた。
――んっ、いやまだだ。
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