第2話
三谷の視線に管理人が気付き、慌てた顔のままその場から去った。
窓を開けて首を突き出して周りを見たが、管理人はもういなかった。
――……まさかな。
人間が首だけで散歩するわけがない。
光の加減で首から下が見えなかっただけだ。
三谷はそう思うことにした。
そしてそう思い続けていると、本当にそうだったんだと謎の確信を持つようになった。
翌朝、三谷が仕事に向かおうとすると、管理人はいつのも声でいつもの笑顔で「行ってらっしゃい」と言った。
その様子はこれまでとなんら変わりがない。
管理人の様子に一ミリの変化もなかった。
――やっぱりただそう見えただけなんだ。
三谷は改めてそう思い、なんだかほっとした。
そんなことがあった数日後、この妖怪荘に新たな住人が入居してきた。
二十代後半の女性。
名前は九津まさみ。
いわゆるボンキュッボンのスタイルで、管理人のような派手な顔立ちではないが、きれいに整った顔立ちのかなりの美人だ。
人口が数十万人の都市に住んでいた三谷が見たこともないような美人が二人現れ、しかもそれが同じアパートにいるのだ。
――ここはパラダイスか。
本気でそう思った。
九津の部屋は二階の西の端の六号室。
管理人の真上の部屋だ。
そりゃまあそうだろう。三谷のような若い男のすぐそばの部屋になるわけがない。
大人しい感じの女性で、管理人ほどではないがそれなりに愛想はよかった。
ただ気になることがあった。九津は管理人と二人で三谷のところにあいさつをしに来た。
その時管理人が二度ほど九津を見たのだが、管理人はその二回ともなんだか嫌そうな顔をしたのだ。
――二人は知り合いか?
と三谷は思った。
しかし三人でしばらく話をしたのだが、そんな話は一切なかった。
九津が住み始めてしばらく経って気づいたのは、九津がほとんど部屋から出てこないことだった。
月曜日から金曜日までは三谷も仕事なのでその間のことはよくわからないが、三谷が部屋にいるときは九津も部屋にいるようなのだ。
九津が来て十日ほど経ったが、九津がどこかに出かけているところを見たことがなかった。
食糧その他の買い出しくらいはするのだろうから全く出かけないということはないと思うのだが、仕事をしているようにも見えなかった。
今の時代、仕事によっては在宅でできる仕事も多い。
現に周りは山と空き地だらけのこのアパートにもWi-Fiがある。
とにかくいろいろと気になるところではあるが、まだ二十四歳の男が二十代後半の女性のことを根掘り葉掘り聞くわけにもいかない。
三谷は九津のことは気にしないようにした。
しかししばらくすると、今度は九津がアパートにほとんどいないことに三谷は気がついた。
女だし飛び切りの美人だ。
若い三谷には気になるところではある。
たまたま管理人に会った時、これくらいならいいだろうと思い、三谷は聞いてみた。
「九津さん、最近よく出かけているみたいですね」
すると管理人は普段見ないような嫌な顔をして言った。
「ほんとにねえ。よけいなことをしていなければいいんだけど」
派手な顔立ちの管理人が嫌な顔をすると、けっこう迫力がある。
三谷はそれを聞いて確信した。
管理人と九津は知り合いで、なおかつ管理人は九津にいい印象を持っていないという事実を。
そうかと言って「お知合いですか」と聞くのも気が引ける。
どういった間柄なのか、過去のこの二人に何があったのか。
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