第12話

 俺達含め、一年、二年の学生は寮の地下シェルターに避難した。厚い岩盤がシェルターを覆っているため、一番安全らしい。このシェルターは三つあって、二年生は別のシェルターに避難している。

 生徒の他に教師も何人か一緒に避難していた。指導役だろう。


 俺はハイガちゃんをチラ見した。

 敵が現れてから階段にたどり着くまで、およそ二分足らず。このシェルターに潜るまでで十分程。篭ってから約三分。この間、ハイガちゃんはずっと腕時計を確認していた。


「なんで、時計見てるの?」


 しんと静まり返った室内で、俺の声は思いがけずに大きく響いた。

 皆の視線が俺達に集まる。


 ハイガちゃんは答えなかった。もしかしたら答える気だったのかも知れない。けど、俺がそれよりも早く別の質問をした。

 ずっと気になって、仕方がなかったことを。


「ハイガちゃんって、何者なの?」


 春南ちゃん? 二等兵? 学生? それとも、リトナが言うように諜報員なのか?

 ハイガちゃんは覚悟を決めたように静かに口を開いた。


「私は……ハイガ・ウィンツです。位は二等兵。だけど、学生でもあります」

「どういうこと? 諜報員で時屡不を調べてたとか?」

「……想像力が豊かなんですね」


 ハイガちゃんは意外そうに目を丸くした。


「いや、俺だって考えるときは考えるよ」


 リトナの案だけど。


「ごめんなさい」


 ハイガちゃんは苦笑して、


「諜報員ではありません。時屡不のことも知りませんでした。おそらく、彼のことについて知っていた人物はこの学園内にはいないと思います」

「速水も?」

「マーム!」


 途中で入ったマネイナの横槍に、ふと乾いた笑いを漏らしてハイガちゃんは頷いた。ちなみに俺はガンスルー。


「はい。おそらく」

「でもマームは一番早く気づいてたよな? あんな段階で」


 天井攻撃なんて、ちょっと間違っちゃっただけかも知れないのに。


「あの演習場の上にあるものはご存知ですか?」

「えっと、確か、クローンの施設に保管庫」

「それとF・Bの発射台」

 セイラムが横から口を出した。

(でしゃばりめ)


 片方の眉を釣り上げながらセイラムを一瞥する。セイラムは俺には目もくれず、ハイガちゃんを真顔で見据えていた。


「はい。その三つを効率よく破壊出来るのが、あの演習場の天井を破壊することです」

「そうか。フロアが全部落ちて来るから」


「そうです。発射台は正確には落ちてはきませんが、膨大な費用が掛かっている発射台を壊すことは可能でしょう。もしかしたら芋ズル式にB棟そのものを倒壊させてだってしまえる」


「いや、それは無理だろう。あの建物はちゃんと基盤を岩盤に打ち付けてあるし、その基盤も非常に頑丈だ。破壊するのにも相当な力が必要だし、下から破壊しても、落ちてくるのは上階のみだ。全壊させるなら全部の床を貫かなきゃ」


 冷静に反論したリトナをハイガちゃんは真剣な表情で見据えて、恐ろしいことを口にした。


「でも、その一階分で敵には十分なほどの収穫です。しかも、あの場には多分精鋭が沢山向っていますよね。十分におびき寄せて、天井を破壊すれば落盤によって多くの犠牲者が出るでしょう。B棟の天井および床はリトナさんが言うように、総じて頑丈に作られていますから。おそらく歩神を着ていても、生き残る者はほぼいないはずです」


 ぞっと背筋を氷が這う。

 相手は機械。元々、自分達の命の心配なんてしなくたって良い。自ら巻き込んで、敵を打つ……。しかも、敵の武器も奪ってしまえる。

 その場の空気が一瞬にして固まったのを感じた。


「でも、じゃあそれ教えねえと!」


 思わず声を上げた俺をハイガちゃんは真剣な瞳で見据えた。


「大丈夫です。速水教官はもう気づいていると思います。それに、兵士の方に伝言は頼みましたから」

「あのときのアレ、そういうことだったんだ」


 ぽつりと零すと同時に、――ピピッと小さな音が聞こえた。ハイガちゃんと教師陣がインカムを押さえる。通信か。


 しばらく耳を傾けていたハイガちゃんが一言、「了解しました」と答えて、俺に向き直った。その瞳には、若干の緊張が見て取れた。ハイガちゃんは視線を逸らして辺りを見回した。


「私はこれから援護に向います。先生方、ここをよろしくお願いします」


 教師陣が敬礼したのが目の端に映る。けど、俺はハイガちゃんを凝視していた。


「ちょっと待てよ。援護って、あそこに戻るのか?」

「はい」

「そんな危険――」

「行って来ますね」


 ハイガちゃんは俺の制止を遮ってそのまま駆け出した。すでに開き始めていたシェルターの扉をすり抜けるようにして出て行く。


「ハイガちゃん!」


 後を追おうとした俺の腕を誰かが引っ張った。振り返ると、セイラムとマネイナが咎めるような表情で立っている。腕を引いたのはセイラムだった。


「止めんなよ!」

「止めるわよ!」

「命令違反になりますよ」

「命令違反がなんだよ? ハイガちゃんが危険なとこに行こうとしてんだぞ! しかもたった一人で! お前らだってさっきの話聞いてただろ!?」


「ハイガを止めてどうするんですか。軍では命令は絶対です。ハイガを止めれば、後でハイガ自身が積を負うことになる」

「……じゃあ、俺も一緒に戦う! 一人でなんて行かせらんねぇよ!」

「勘違いすんじゃないわよ! あの子は二等兵! 立派な兵士よ。学生のわたし達とは違うわ!」

「違わねぇだろ!」


「違います。二等兵といえば戦地経験もあるでしょう。一方自分達はただの学生。経験地もなく、まだ未熟。そんな自分達が行って役に立つとでも? かえって足手まといになり隊を乱すだけです」


「そうだよ。之騎ちゃん。二等兵とはいえハイガが先生達を差し置いて呼ばれたってことは、それなりの実績があるってことだ」


 リトナが冷静な声音で割って入った。


「マネイナが言うように、キミが行っても何も出来ないと思うな」

「……確かに、俺はハイガちゃんの足元にも及ばない」


 じゃあ、と促す顔つきのリトナを真っ直ぐに見据えた。


「頭はな。でも、彼女の盾にはなれるはずだ」

「……之騎、なんでそんなに」


 戸惑った声音を上げたセイラムに視線を移した。セイラムの眉は八の字に下がっていた。心配が顔に滲んでいる。セイラムがそこまで俺を想ってくれて、素直に嬉しい。だけど、俺は決めたんだ。


「ハイガちゃん――いや。春南ちゃんと一緒に帰るためだよ」

「本気で言ってるの?」


 セイラムは目を丸くし、マネイナは疑わしい者を見たように眉を顰めた。リトナは疑問符を顔に浮かべている。だけど、一切の曇りなく俺はセイラムをみかえした。

 セイラムはしばらくして首を振った。


「アンタって、本当に夢見がちな女の子なのね」


 呆れたような声音だったのに、表情は見たこともないくらい柔らかく微笑んでいた。セイラムでも、こんな顔するんだ……。思わず見惚れそうになって、ハッとした。


「だれが女だよ!」


 危うく聞き逃すところだったぜ!


「どっからどう見ても女の子じゃない」


 ため息をついて、セイラムは俺を引き寄せた。薔薇のような良い匂いが洟をくすぐる。


「行くんなら早く行きなさい。先生方は絶対にアンタを止めるわ。扉も閉まりかけてる」


 耳元で鳴った鈴のような声に一瞬くらっとしたけど、上がりかけた心拍を落ち着かせてちらりと扉に視線を送った。

 扉は既に半分以上閉じかけている。先生達もこっちを窺うように凝視していた。


「わたしが引き止めてあげる。合図したら走りなさい」

「ありがとう。でも、お前まで処罰されるんじゃないか?」


 小声に更に低声で返す。

 セイラムは自分でも意外って感じの顔つきをした。


「そういえば、そうね」


 利己的な部類のセイラムが、どうしてそんなに? 俺は問うようにセイラムを見据えた。


「良いじゃない。別に、そんなのどうだって」


 セイラムはぱっと俺から手を離して、ぽつりと照れくさそうに答えた。扉を一瞥し、視線を送ろうとした俺に、アンタは見ないでと素早く告げる。数秒の沈黙が流れた。そして、


「今よ!」


 俺はセイラムの合図と共に扉に向って走り出した。

 一番近くにいた数学の先生が駆け出してくるのが見える。歩神を纏った先生は生徒の間を縫いながら猛スピードで俺に迫ろうとした。が、セイラムに腕を取られて床に滑るように突っ伏した。他の先生も俺を引きとめようと走ってくる。


 でも、一人の先生は座っていた青鈴とジャーニスに足首を捕まれて転倒し、もう一人の先生はリトナが押さえた。


「なんだかよく分からないけど、行け! 之騎ちゃん!」


 お前ら……!


「だから、ちゃんは止めろっての!」


 自然に緩んだ頬を引き締めて、俺は閉じる寸前の扉に体をねじ込んだ。


* 


 闘技場に向う途中、辺りは嫌に静かだった。人っ子一人いない閑散とした廊下を歩神で駆けていく。途中、逃げてくる人にぶつかるかもと思った懸念は一切必要なかった。


 俺は敵にも味方にも出会うことなく、地下四階へ下りた。封鎖されていて四階のフロアがどうなっているかは判らない。もしかしたら、閉ざされた扉の向こうはもう跡形もなくなっているかも知れない。


 嫌な想像が頭を巡る。

 地下五階へ続く階段を駆け下りながら、緊張が心臓を囃し立てた。

 階段の踊り場を曲がると、演習場の端が見えた。


(良かった。まだ天井は落ちてきてない)


 ほっと息をついた瞬間、何かが俺目掛けて吹き飛んできた。咄嗟に避けると、踊り場の壁にそれは衝突した。

 兵士だ。


「ううっ……!」

「大丈夫ですか!?」


 駆け寄ると兵士はすぐに気を失った。

 不安が駆け上がってくる。


(ハイガちゃんは無事か!?)

 駆け出して演習場へ出ると、そこは戦場だった。


 上がる悲鳴。銃撃音。衝突音に、炸裂音。

 やかましくて、けたたましい音の波に俺は思わず両耳を塞いだ。


 ディーディルサイトもビーディーもさっきより明らかに多い。ざっと見ただけでディーディルサイトが二十体、ビーディーが三十匹くらいいる。一方こっちは、さっきまでいなかったF・Bが二体。歩神が三十人程度だ。圧倒的に味方が少ない。


(本拠地なのになんでこんなに少ないんだ?)


 俺は焦りながら視線を這わせた。


「ハイガちゃんは?」


 混戦する戦場で、俺は時屡不を捉えた。

 時屡不は、速水の部隊と戦闘中だった。


 部隊は速水を入れて六人。

 二人が右のディーディルサイトと抗戦中で、もう二人が左にいるディーディルサイトとビーディーと対戦中だった。


 速水と残りの二人は時屡不と戦っている。一人は見覚えがあった。

 速水と初めて会ったときに速水と一緒にいた男だ。もう一人は後ろを向いていて顔は分からないけど、女っぽかった。紅い歩神の装甲がやけに目立つ。


 時屡不のことは気になるけど、ハイガちゃんを探さなくちゃ。

 俺は目を凝らして見回した。だけど、それらしき影すら掴めない。


「どこ行ったんだよ。ハイガちゃん」


 焦りが募る。そのとき影が差した。振り返ると、目の前に巨大な山が見える。


(――ディーディルサイト!)


 ぞっとした瞬間、ディーディルサイトの顔面が割れて、何かが飛び出してきた。


 俺は咄嗟に跳躍した。地面に槍のような物が突き刺さる。ディーディルサイトの割れた顔面から鋭利な舌が伸びていた。


「きっしょくわりぃ!」


 悪態つきながら、マシンガンを装てんし、やつの顔面に撃ちまくった。が、弾は金属音を響かせながら、兆弾した。


「ゲッ! マジかよ!」


 あらぬ方向へ飛んでいく弾のひとつが、離れたところにいたビーディーの足に直撃して、やつは悲鳴を上げて崩れ落ちた。そこを味方の兵士が切りつける。


「ラッキー! って、言ってる場合じゃねぇ!」


 落下し始めた俺目掛けて、長い腕が伸びてくる。


「C・B! オーバーソードナイフ!」

『了解しました』


 手に捕まる直前、オーバーソードナイフが現れた。

 ギャギャギャッ! 凄まじい音をたててディーディルサイトの腕が竹を割るように両断されていく。地面に着地すると同時に、その場を離れた。


「すっげー。このナイフってこんなにすごかったんだ……」


 空中に飛び上がりながらまじまじと見てたら、背中に何かがぶつかった。空中で振り返ると、振向きざまの彼女と目が合った。


「ハイガちゃん!」

「……松尾さん!?」


 落下し始めた俺達は、ヘルメットからはみ出た髪を宙になびかせた。思わずハイガちゃんの腕を掴む。


「良かった! 無事だったな!」

「……何故、ここに?」


 ハイガちゃんは混乱した表情で俺を凝視した。

 そこで俺はあることに気がついた。ハイガちゃんの歩神の装甲がいつもと違う。いつもは皆と同じ黒っぽい紺色なのに、今は真紅の歩神を纏っていた。

 武器も違う。


 ハイガちゃんの武器は、いつもはミサイル数種類とマシンガンだけだ。だけど、今はアイアンクローみたいな武器を腕、というか爪に装着していた。


 そもそも学生は改造や改良は許可されてるが、基本的に学校から指定される武器しか使わない。学校側があらかじめ身体測定で得た情報から生徒に見合う武器を持たせるからだ。


 生徒自身がその数種類の中から自分が扱い易い武器を使うってのがもっぱらだったんだけど、ハイガちゃんにこんな武器は支給されてないはず……。


 俺の訝しがった視線に気がついたのか、ハイガちゃんは苦笑いを浮かべた。同時に着地し、周囲を警戒すると俺に向き直った。


「どうしてここに?」

「ハイガちゃんを守りに!」

「……」


 ハイガちゃんは目を丸くして、苦笑する。


「え~と、なんて言ったら良いのか……。嬉しいんですけど、危険なので戻っていただけますか?」


 笑ってはいるけど、迷惑だってありありと顔に浮かんでた。そりゃ、そうかもなんだけど……。


「いや。悪いけど俺は戻らないよ」

「……なんでですか?」

「春南ちゃんを連れて帰るから」

「……」


 ハイガちゃんは一瞬驚いて、咎めるような目つきで俺を見据えた。


「私は、ハイガです。春南じゃないって言いましたよね?」

「言ったよ。でも、俺はそうだって思ってる。違ったら違ったでごめんだけど、でも今はそうとしか思えないんだよ」

「どうして?」

「似てるんだよ。物言いとか、考え方とか」

「分かるんですか? 長い期間一緒にいたわけじゃないのに?」


 どこか探るような目でハイガちゃんは俺を見る。


「うん。分かる」


 きっぱり言って、俺はすぐにヘらっと笑った。


「――と、思う」


 ハイガちゃんは僅かに息を呑んで、泣き出しそうな表情をした。そのとき、ピピッと小さな音がした。


「ハイガ・ウィンツ! 何をしている! 戻れ!」


 耳元で怒鳴り声がして俺は思わず顔を顰めた。


「ハッ! 速水准尉!」


 ハイガちゃんは応えて、インカムを離してマイクを手で覆った。通信を遮ったんだ。


「ごめんなさい、松尾さん。私行きます。貴方は戻ってください」

「でも――」

「でもはありません。良いですか? ちゃんと戻ってください」


 珍しくぴしゃりと言いつけて、ハイガちゃんは駆け出した。風のような速さで時屡不に突っ込んでアイアンクローを喰らわせる。金属音が響いて、時屡不は後退した。そこへ、庇うようにディーディルサイトが二体割って入った。


 良く見えなかったけど、さっき時屡不の腕の皮膚が裂けたように見えた。

 だけど、血が噴出した様子はない。


「やっぱ、ロボットか」


 確信を得て、俺は足に力を入れた。一っ跳びで速水隊の後列へ着地すると、目の前にいた速水が振り返った。


「……貴様、何をしている?」


 ドスの効いた声音に内心ちょっとびびったけど、咳払いをして気持ちを整えた。


「申し訳ありません。マーム。加勢に参りました」

「加勢だと?」


 更に声を低くして、速水は俺を睨み付けた。

(うわ~。怖ぇえ。やっぱ、苦手だよこの女)


「貴様など何の役に立つ! 学生の分際で図に乗るなよ!」

「ハッ! 申し訳ございません!」


 速水は探るように視線を上下に動かして俺を見た。深くため息をついて、


「しょうがない。お前も隊へ入れ。だが、くれぐれも勝手な行動はするなよ」

「ハッ!」

(よっしゃ!)


 内心でガッツポーズを繰り出して、俺ははっと冷静になった。


「そういえばマーム。なんで味方がこんなに少ないんすか? それに出入り口は守った方が良いんじゃ?」


 マームは俺を鬱陶しそうに見て、


「ここにいるのは全員精鋭だ。と言ってもこの学校内での話しだが……。ここは学校だからな、元々常備兵が少ない」

「それでか」


「もっともまだ兵はいるし、指揮官もいるが。それぞれがそれぞれの配置についている。我々に課せられた任務はこの場を死守すること。時屡不モドキに天井を破壊させず、敵全てを殲滅することだ。出入り口に気を配っている余裕はない。それに敵も兵士が現れてからこの場を離れようとしないしな」


「やっぱり、ハイガちゃんが言うように一網打尽を狙ってるわけか」

「だろうな。そろそろ敵も本気で天井破壊に乗り出すだろう」

「そっか……」


 ん? なんか引っかかるな……モドキ? 今、速水、時屡不モドキって言ったか?


「あ~、モドキって――」


 なんのことだ? と聞こうとしたら速水に遮られた。


「貴様にはハイガ・ウィンツとガイクの援護をしてもらう。くれぐれも邪魔のないように動けよ」

「ハッ」


 敬礼をしてハイガちゃんの方を見ると、ハイガちゃんは相変わらず時屡不と交戦中だった。速水と出会ったときに一緒にいた兵士と連携を取っている。あの男がガイクだろう。


 俺は早速時屡不に向けてミサイルを発射した。

 ハイガちゃんとガイクの間を縫うようにしてミサイルは時屡不に命中した。   

 黒い煙幕がモクモクと立ち上がり、ハイガちゃんとガイクが驚いて振り返った。

 俺はハイガちゃんに駆け寄った。


「援護せよ! って言われたから。よろしくな!」

「……」


 ハイガちゃんは呆れたような、がっかりしたような目を速水に送って俺に向き直った。真剣な表情で、


「自分の命を最優先に考えてくださいね」

「うん。もちろん。でも、ハイガちゃんのことも守るからな。安心しろ」

「……」


 冗談交じりな感じで言ったら、ハイガちゃんは照れたように唇をぎゅっと動かした。でもほんの少しだけ、なんとなく不安げというか、嫌な事を思い出したような表情を浮かべた。

 どうしたんだ? そう訊く前に、ハイガちゃんは了承した。


「分かりました。じゃあ、援護よろしくお願いします」

「おう!」


 返事を返すと同時に、煙幕の中からぬっと白い腕が伸びてきた。俺は反射的に跳躍しようとしたが、跳びあがる寸前で巨大な手が俺を覆った。


〝ディーディルサイトの腕に捕まらないで下さい。圧死しますよ〟


 ハイガちゃんの言葉が瞬時に頭を巡る。


(死ぬ?)


 脳裏に刺されたときの記憶が蘇ってくる。背中の痛み、男の必死な形相。流れ出る女の血……。冗談じゃない。


「うわああっ!」


 俺は一心不乱にオーバーソードナイフを振り回した。ナイフはディーディルサイトの手のひらを滅多切りにした。やつの装甲は、重い音を響かせて地面に落ちた。


「松尾さん!」


 ハイガちゃんの声で我に帰る。俺はその場を離れた。

 心臓がバカ高く鳴り響いて、肩で息をしていた呼吸を整える。

 完全にパニックだった……。冷静になれ。自分に言い聞かせて、深く息を吐き出した。装備してたのがマシンガンじゃなくて良かった。あの状況でマシンガンを撃ちまくってたら兆弾で死ぬとこだ。


「大丈夫ですか?」


 ハイガちゃんが駆け寄ってきて、俺を覗き込んだ。


「ああ。大丈夫。ごめんな」


 視線を前へ移すと、煙幕から出てきたディーディルサイトはガイクと速水が相手していた。一体だけじゃなくて、三体も集まってきていた。それにしても、煙幕の先にいるのは時屡不だったはず。倒したのか?


 疑念が過ぎったとき、三体のディーディルサイトの先に時屡不を発見した。外装が半分剥がれ、機械の体がむき出しになっている。人間の顔の半分が機械ってのは思ったよりも気色悪い。


 時屡不は無表情のまま、ゆらりと両腕を前へ構えた。

 そこに、敵をあらかた始末した兵士達が走り寄ってきた。左右や無防備な背後から味方の兵士が時屡不目掛けて攻撃を仕掛けた。


「俺達も!」

「待ってください」


 駆け出そうとした俺をハイガちゃんが止めた。


「あの構えは……」

「構え?」


 呟いた瞬間、轟音が響き、突風が駆け抜けた。激しい突風に吹き飛ばされそうになって、全身で踏ん張る。ふと、体がよろけた。急に抵抗力がなくなって、前のめりに倒れ込む。


 風が凪いでいた。

 顔を上げると目の前にハイガちゃんが立っていた。重力障壁が風を防いでいる。


 ほんの一瞬だけ吹き抜けた突風の後には、信じられない光景が広がっていた。


 味方の兵士の殆どが爆風によって飛ばされ、地面に倒れていた。無事だったのは、速水とガイクと俺とハイガちゃんだけだ。


「何が起こったんだ?」


 視線を這わせると、倒れていたのは味方だけじゃなかった。ビーディーやディーディルサイトも風に巻き込まれて倒れていた。ビーディーの何匹かは血を流して倒れ、ディーディルサイトは故障していた。呆然と視界を一周させると、ある一箇所が、僅かにたわんだ。


 時屡不のすぐ近くの空間が歪んだような気がして、目を凝らしたけど特に変わった様子はない。


(気のせいか?)


 首を捻ったとき、


「松尾さん。突っ込んで行ったらダメですよ」


 冷静な声音で告げて、ハイガちゃんは時屡不を睨み付けた。


 時屡不は両腕を前に突き出したまま、フリーズしたように突っ立っている。


「今、巨大な重力障壁が発生しています」

「え?」

「ハイガ・ウィンツ。今の状況をどう読む?」


 突然回線が入って、俺の驚きをかき消した。

 ハイガちゃんは冷静な声音で、


「今の突風は味方のミサイル攻撃が重力障壁で防がれ、爆破した爆風です。倒れている者が、時屡不の円形状にいることから、重力障壁は円形で展開してるものだと推測されます」


「防御力はどれくらいだと見る?」

「おそらく、アティスチーム並か、それ以上かと思われます。あれだけの攻撃を防げる重力障壁はそうありません」


「……何故、やつが使える?」

 速水は悔し気な声音で、自問するように言った。


「彼が着ているのは歩神ですから。歩神であるのならば、どの歩神にも重力障壁は装備されています。しかも時屡不は機械です。人間よりも扱いに長けていると見て良い。敵に重力波の応用武器が渡ってしまえば、厄介です」


「いくつかデータが渡ったと見て良いな」

「残念ながら」

「重力障壁の突破は出来るか?」


「私がアティスチームに使った戦術はおそらく有効でしょう。けれど、緻密さや精確さは、やはり機械の方が上です。おそらく多少の不可が掛かってもコントロール出来るようにしているでしょうし、安定させるようにプログラムも書き換えていると思われます。アティスを破った程度の重力では微塵も揺るがないはずです。ですが、こちら側の出力を上げれば、可能性はないわけではないと思います。でも、その場合私が危惧したことのパーセンテージは格段に上がります」


「磁場に与える影響か」


 感慨深げに速水は呟いた。

(もう難しすぎて、何言ってるか全然分からん)


「はい。この場の重力が増すことでどうなるのかは解りません。前にも言ったように、どのような影響を与えるかは、ゼロから百通りまであります」


「では、歩神を強制離脱させれば良いのでは?」

 聞きなれない男の声が通信に割って入る。多分、ガイクだ。


「もうとっくに要請は出している」

 速水のイラついた舌打ちが耳元で鳴った。こんなときになんだけど、不快半分、ときめき半分で複雑な気分だ。


「司令室に要請を出していても外されないということは、ロックをかけたか、妨害を受けているかですね」

「おそらくどっちもだろう。妨害など、考えたくもないが」

「妨害なんて、ありえない。重力波通信は妨害を一切受けないはずだろ」


 ガイクのタメ口を咎める声はしなかった。思わず飛び出した独り言だというのは誰が聞いても明らかだったからだ。動揺したガイクに速水は毅然とした声音で告げた。


「ありえないなんてことはありえない。過去に成し得なかったからといって、現在もそうとは限らない。現に今起こっている。現実を見つめろ、ガイク。そして一番良い選択を選び取れ。でないと、生きては帰れんぞ」

「ハッ」


 ガイクは短い返事を返す。気持ちが落ち着いたのは声音から察せられた。速水は深い息を吐いた。耳元で風の音が鳴る。


(ああ、良い)


 思わず身悶えた俺は白けた視線をキャッチして振り返った。ハイガちゃんが冷たい目で俺を見てる。


「いや、ちょっと待って。違うからね!」

「では妨害電波の解除を試みますか?」


 ハイガちゃんは俺を無視して話に戻った。

(ああ~嫌われたぁあ!)


「いや。それは司令室でやっているはずだ。それに妨害電波がどこで発生しているのか、何が影響しているのか、今の段階では判らない」

「確かに、そうですね」

「それに、あんまり時間もなさそうですよ」


 緊張したガイクの声に促されて、俺は時屡不を捉えた。

 時屡不は突き出していた腕の片方をだらんと下ろした。


「跳ぶ気だぞ」


 ガイクの強張った声が耳につく。

 もう片方の腕が下ろされたとき、やつは跳躍する。跳んで、今度こそ天井をぶち抜く気だ。


「やばいじゃねえか」

 身震いが全身に走った。


「狙い目は今だ。重力障壁が安定し、自動で展開されれば付け入る隙はなくなるぞ。良いか、私の合図で一斉に重力を叩き込むぞ。遠慮も躊躇も許さん。良いな?」


 速水の力強い声音に、俺は頷いた。


「重力障壁を突破した者が順々に攻撃を仕掛けろ」


 速水の声が妙に耳にこびりつく。緊張で胸が圧迫された。少しの間を置いて、


「行け!」


 指示が飛んだ瞬間、心臓が跳びはねた。それと同時に駆け出す。隣をハイガちゃんが並走して行くのが見える。

 ひたすら時屡不を真っ直ぐに見据えた。やつは、突き出したままの指を浮かした。


(まずい。腕を上げる気だ)


 やつを飛び立たせるわけにはいかない。俺は更に足を踏み込んだ。ぐんっと加速する。前を走る者はもう誰もいない。

 俺はそのまま時屡不に突進した。


「C・B! 重力波解放! 最大限放出する!」

『了解』


 重力障壁にぶつかる直前、俺は重力を放出させた。どしっと体が重くなる。かと思えば、後ろへぶっ飛ばされそうなほど正面から何かが迫ってきた。目には見えないけど、重力同士のぶつかりあいが起こってるんだ。


「ぐっ!」


 激しい反発に吹き飛ばされそうになる。ぐっと足を踏ん張ったとき、重い衝突音が響いた。少し離れたところにハイガちゃんが突っ込んでいた。そしてすぐに二撃、三撃と衝突音が響いて、空間がたわんだ。


 四方に散った形で衝突した俺達の攻撃は、空間に波紋を起こした。ぐにゃりと曲がったかと思うと、まるで波のようにうねりだす。


 気分が悪い。

 洗濯機に入れられたみたいに目が回る。


 体中の水がぐるぐると回されてるみたいだ。向こう側にいたガイクが膝を折ったのが見えた。


「うっ……おええっ!」


 気持ち悪さに耐え切れなくなって、俺は胃の中の物を全部吐き出した。足が震えて膝をつきそうになる。だが踏ん張った。


(負けてたまるかっ!)


 気合を入れたときだった。苦しさがふとなくなった。気分が瞬間的に楽になり、妙な高揚感が俺を包んだ、その一瞬。目の前が真っ白になった。


 * 


 ぼんやりとした目が天井を映した。鉄筋がコンクリートの天井を補強している。ごつごつした印象の天井。見慣れない、だけどなんだか懐かしい。あれを、守らなきゃいけないと思ってたような気がする。


「……あっ!」


 慌てて飛び起きた。

 そうだ。あの天井を死守しなくちゃ!


「うっ!」


 急に頭がくらっとして、俺はまた地面に伏せそうになった。咄嗟に手をついてなんとかそのままの体勢を維持する。

 上半身を起こしたまま、辺りを見回した。


 だいぶ吹き飛ばされたらしい。俺は遠く離れた壁際にいた。ちょうど反対側の壁、かなり離れた場所にガイクが横たわり、その数メートル先に時屡不が倒れていた。時屡不の横、と言ってもだいぶ離れた場所に速水がうつ伏せになっている。


 ハイガちゃんはどこだ?


 首を振るとすぐにハイガちゃんを捕らえることが出来た。俺の横、数十メートル離れた壁際に寄りかかるようにして座っていた。


「ハイガちゃん」


 俺は重い体を起こしてハイガちゃんのもとへ向った。

 ハイガちゃんに近づくにつれて、嫌な予感が胸を騒がせる。寄りかかっていたと思ってた壁は大きな亀裂を起こし、ハイガちゃんの頭がある周囲が崩壊しかかっている。

 よっぽど強い力でぶつかったんだ。


(もしかして……死んだんじゃ?)


 ぞっとした悪寒が体を支配した。


「ハイガちゃん!」


 鼻と口に手を当てて、息を確認する。


「良かった。息はある……」


 だけど、かなり弱々しい。早くなんとかしなくちゃ。とりあえず壁の瓦礫が落ちてきて顔に直撃しないように、ハイガちゃんを壁から出して地面に仰向けに寝かせる。


「そうだ! 意識は?」


 俺はこれ以上頭を揺らさないように、手を振れずに声をかけた。


「ハイガちゃん。聞こえる? ハイガちゃん!」

「……うっ」


 ハイガちゃんは呻き声を上げて、僅かに目を開いた。


「ああ! 良かった! ハイガちゃ――」

「――って」

「え?」

「たすけて」

(――え?)


 苦しさにあえぐ、その表情に見覚えがあった。

 助けて。

 路地裏で、そう告げた女性の姿が俺の脳裏に蘇る。

 俺は、とっさに叫んだ。


「ああ、任せろ!」


 なんでそう言ったのか解らない。でも、彼女とハイガちゃんがリンクして見えて……。

 ハイガちゃんは俺を見て、僅かに笑むと、すぐに気を失った。


「もしかして、ハイガちゃんは……いや、春南ちゃんは……」


 その可能性に気づいた時、殴られたように俺の目が覚めた。憶測の域を出ないはずなのに、俺はそれを確信したんだ。そのとき、


「……松尾」


 インカムから苦しそうなあえぎ声が聞こえてきた。


「速水教官?」


 振り返ると、速水がふらふらと立ち上がっていた。俺は速水を真っ直ぐに見つめたまま訊いた。


「この状況は?」


 速水はふ~っと深く息を吐き出して呼吸を整えてから、毅然とした口調で言った。


「重力のぶつかり合いで重力障壁が一気に決壊したんだ。その爆風で我々は吹き飛ばされた」

「時屡不も?」

「ああ。内にも外にも爆風は向ったのだろう。中心にいたやつはひとたまりもなかったはずだ」

「そっか。じゃあ、もう大丈夫だよな」


 ほっと息を吐いたときだった。

 目の端で何かが動いたのが見えた。嫌な予感がして、急いで振り返った。


「嘘だろ」


 愕然と正面を見据える。

 時屡不が脚にショートした電流を走らせながら立ち上がっていた。


「やつは、まだ任務遂行を諦めていない。阻止するぞ」

「……ハッ! マーム」


 緊張が瞬時に体を駆け巡る。


(二人だけであんなん相手すんのかよぉ。まだやつの攻撃が見えない理由も解ってねえってのに。速水達と対峙してた時屡不は明らかに手を抜いてたからなぁ……)


 弱気が過ぎったが頭を振った。


「いいや、俺、良く考えろ。相手は満身創痍。こっちもまあ、満身創痍っちゃ創痍だが、向こうは一人、こっちは二人。なんとかなんだろ。よし、行ける!」


 気合を入れた直後、タイミングよく速水が号令をかけた。


「行くぞ!」

「ハッ!」


 一斉に駆け出すと、それに気づいた時屡不は跳び上がろうとした。だが、跳び上がった直後に左に傾きながら落下した。上手く着地すると時屡不は右足をじっと見つめるしぐさをした。

 どうやら右足は完全に故障したらしい。


(ラッキー!)


 ぐんぐんと時屡不に近づきながら、俺は迫撃砲を発射した。

 時屡不は易々とそれをかわし、ミサイルを撃ち込んできた。俺はそれを避けながら更に迫撃砲を撃つ。だが、今度はタイミングよく撃ち落された。


 そこに真横からミサイルが飛ぶ。速水が撃ち込んだミサイルは避けようとした時屡不をかすって、時屡不の左腕の半分をそげ落とす。バチバチッと火花が散った。ショートした腕を庇おうともせず、向ってきた速水を迎え撃つように時屡不は走り出した。


 猛スピードで速水に接近し、二人は互いをすり抜けた。途端、速水がバランスを崩してスピードが出たまま転倒した。ごろごろと勢い良く転げまわり、うめき声を上げる。俺は、いったん止まって、速水の様子を確認した。

 腹から血が出ている。


(時屡不の槍にやられたか?)


 停止している時屡不の矛先を見た。僅かに血がついてる程度だ。


(まさか、速水は最初から怪我してたのか?)


「マーム。大丈夫ですか?」

 時屡不を見据えたまま、俺はインカムごしに速水に話しかけた。


「大丈夫だ。かすっただけだ」

 苦しそうな声だ。相当ひどいか?


「マーム、もしかして爆風に吹っ飛ばされたときに?」

「……おそらく、肋骨何本かな……ゲホッ!」

「大丈夫っすか?」


 慌てて振り返ると速水は吐血し、激しく咳き込んで力なく地面に伏せた。駆け寄ろうとしたとき、目の端で時屡不が動いたのが見えた。瞬時に振り返る。

 時屡不は槍を盾に突進してきていた。


(そうか、大きい方の矛に頭を突っ込むことで空気抵抗を減らしてるのか)


 真正面で攻撃を受けて初めてそのことに気がついた。


「いや、違う」


 思わず呟いた。


 そう。そうだ。違う。真正面から見たから判ったわけじゃない。やつのスピードが格段に落ちたから判ったんだ。それに、さっきなんだか妙な違和感があった。


 俺はさっきの攻撃を知ってる気がする……。必死に頭を回転させる。ふと、記憶が呼び起こされた。


 そうだ。あの感じ、リトナと対峙したときに似てた。

 それに気がついたとき、俺は時屡不のからくりに気づいた。


 やつの技の正体は、リトナと同じだ。ただし、やつは機械。熱を放射する機械を足かどっかにつけて時間制限を無くしたんだ。リトナが言ってた。自分の足は機械だから、本気を出せば百キロだって出せるって。


 時屡不はおそらくそうしていたんだ。百キロよりもっと速く歩神と機械の足を使って、肉眼じゃ見えない速さで走った。ってことは、やつの足さえ奪えば、勝てる!


 俺は確信に胸を逸らせながら、突進してくる時屡不のタイミングに合わせて上へ跳んだ。時屡不は闘牛みたいに俺を通り過ぎて、踵を返し俺を追って跳躍する。


 落ち始めていた俺は上がってくる時屡不にマシンガンを浴びせた。甲高い金属音を響かせて、時屡不の皮膚が剥がれ落ちていく。

 あっという間にむき出しの鉄の頭蓋骨が現れた。


「きっしょ!」


 突き出された槍が俺に向って迫る。緊張と恐怖で胃が圧迫されるのを感じながら、俺は突き出された槍をマシンガンで払った。

 鋭い音が耳を突く。

 すれ違いざまに空中で体を捻らせ、真上になった時屡不に照準を合わせた。脚に何発か撃ち込む。ボンッ! と音を立てて、時屡不の足が火を吹いた。


「痛って!」


 突如、背中に衝撃が走った。いつの間にか地面に背中を叩きつけたらしい。歩神の装甲のおかげで大した痛みじゃなかったけど、びっくりした。


 体を起こそうとすると、真横に重苦しい音をたてて時屡不が落ちてきた。

 もうどこからどう見ても、ロボットにしか見えない。金属の骨格を持った人間のまがいもの。


 そこかしこから壊れた音を出しながら、時屡不は残った右腕と上半身をバタバタとさせた。起き上がろうとする意思に寒気が走る。俺は急いで立ち上がると、マシンガンをオーバーソードナイフに切り替えた。


 馬乗りになる。ガラス球の目玉だけが妙に生々しくて、恐怖心が駆け上がってきた。


 俺は思い切り息を吸い込み、呼吸を止めた。そして、オーバーソードナイフを一気に振り下ろした。


 時屡不の顔面は縦に真っ二つになり、ほんの数秒小さく体を動かした。そして、完全に動かなくなった。



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