第8話

 それは、速水の試合開始の合図から、ものの数秒だった。勝負は一瞬でついた。瞬きする暇もなく、ポチトリチームは地面に沈んでいた。


 レシェフ、というより時屡不の腕が武器を装てんした光を放つと、文字通り矢のようにポチトリの連中目掛けて飛んだ。


 飛んだのか、走ったのか、跳躍したのか、俺の目では分からない。とにかくすごいスピードで、蒼人の少年はポチトリ三人を串刺しにしたんだ。といっても、武器がなんなのかは判らない。時屡不は俺らが愕然としてる間にすぐに武器を閉まってしまったから。


 ポチトリチームの三人は、縦に並んでいて、それぞれ腕を吹っ飛ばされいた。まるでレーザーか、巨大な矢で一直線に貫いたみたいに。


 ただ、幸いと言って良いのかは分からないけど、命は無事だ。

 この悲惨な光景に言葉を失ったのは俺だけじゃない。会場全体が、衝撃によって静まり返っていた。しかも、信じられねえことに、時屡不はポチトリチームを貫いたとき、顔色一つ変えなかった。その後も平然とした顔をしていた。


 おかしいのは、レシェフチームも同じだ。

 ひょろ眼鏡は顔を顰めてたが、石煌は無表情のままその光景を見てた。試合が終わったあとも、特にポチトリにもチームメイトにも声をかけることなく整列した。

 なんなんだ、このチーム……ぜってえ当たりたくねえ!


* 


ポチトリチームは呻き、苦痛に顔を歪ませながら担架で運ばれて行き、第一試合は終了した。速水は、何食わぬ顔で、「次の試合を始める」と、言い放った。


(カンベンしてくれよ。怪我とかぜってー嫌だわ)

「第二試合、アティス対エスラ! 前へ出ろ!」


 うげえ。心の準備が……。


「作戦、どうします?」


 ハイガちゃんが俺達を交互に見ながら訊いた。その声は何故か低声だ。


「そうね、本来なら先ほどの試合中にでも決めてしまいたかったんだけど……」

「今更そんなこと言ってもしょうがないでしょ。そんなことより、わたしに良い考えがあるけど?」

「なんですか?」


 マネイナが若干胡乱気な視線をセイラムへ送った。


「わたしと之騎が後方と近距離から速攻を仕掛けて、マネイナとハイガがサポートするのよ」

「それなら貴女より、ハイガに行かせた方が良いのでは?」

「俺もそう思うけど」

「なっ!? わたしにサポートに回れって言うの!?」


 セイラムがヒステリーに叫んで、ハイガちゃんがそれを宥めようと手を出しかけたとき、


「早くしろ! エスラ!」


 怒号が飛んで来て、俺達は一斉に肩を竦めた。


「今、作戦会議を開いてなんとする! さっさと来い!」


 速水は俺達を鋭い視線で睨み付けた。


「うっわ怖ぇ」


 思わず呟いた俺の肩に、ぽんと手が置かれた。見ると、ハイガちゃんが残念そうにため息をついていた。


「マームの仰ることは正論です。行きましょう」


 ハイガちゃんは俺達を力付けるように言った。でもなんとなく、それは自分に言ってるようにも聞こえた。


 そうだよな。ハイガちゃんだって怖いよな。ましてや女の子だぜ。男の俺が守ってやんなくってどうすんだよ。


(俺今女だけど。ハイガちゃんの方が何倍も強いけど……)


 内心の苦笑が俺の頬を持ち上げたとき、ハイガちゃんが付け足すように、


「とりあえずは、セイラムさんの作戦でやってみましょう。インカムで意思疎通を怠らないで下さい」


 そう言って、歩きながらセイラムを見据えた。


「今回の作戦はセイラムさんが言いだしっぺですから、セイラムさんがリーダーとなり作戦の指揮を取ってください」


 良いですか? と、俺達に視線を送る。


「俺は別になんでも構わねえよ」

「任せて!」

「……了解した」


 セイラムは誇らしげに胸を張って、マネイナは若干渋々感をかもし出して顎を引いた。


 ハイガちゃんはひとつ息をついて、陰鬱そうな表情をした。でもそれは一瞬で、俺が瞬きをしたときにはすでに普通のハイガちゃんだった。


(気のせいか?)


 俺は疑問に思いつつも、前を見据えて気合を入れた。


「よし、行こう!」


 俺達は闘技場の中央に整列すると、アティスチームと向かい合った。ジャーニスと青鈴はマネイナとハイガちゃんに視線を送り、微かに笑った。ハイガちゃんも小さく笑み返す。マネイナはびくともせず、前を見据えてる。ちったー愛想を振りまけ女子!


 アティスチームのもう一人は男子で穏やかそうな地味青年だった。多分、顔のわりに頭が緑とど派手だから、クシィル人だろう。名前はサハだったか?


 このチームとはそんなにガチな戦いにはならないかも。ジャーニスと青鈴はこっちのチームに友達もいるし、男子は優しそうだし。少なくとも、前の試合みたいに悲惨な結果にはならないだろ。


 俺はどこかほっとしながら、戦いの合図を待った。


「両名とも、その名に恥じない戦いをしろ。では、行くぞ。――始め!」


 合図の瞬間、俺達は散会した。

 俺が速攻で前に出て、セイラムは後方へ下がった。マネイナは左、ハイガちゃんは右へ跳躍したのを目の端で捉えながら、俺は風を切り、武器を転送した。


 跳躍しながら、サブマシンガンで撃ちまくる。

 文字どおり飛ぶように走る俺と対照的に、敵チームであるサハとジャーニスが後方へ下がる。青鈴だけ残して、遥か後方へ。


 俺は青鈴に狙いを定めてマシンガンを撃った。その俺の横を、風を切ってロケットと小型ミサイルが一本ずつ飛んでいく。多分ハイガちゃんとマネイナのサポートだ。


「うわっと!」


 両側からの風に煽られて、後方へぐらつく。少しスピードを緩めた。ミサイルとロケットは、交差しながら青鈴目掛けてあっという間に飛んで行く。

 微かに窺える青鈴の表情は余裕。


(こりゃ、交わされるか防がれるな)


「C・B。オーバーソードナイフ」

『了解』


 その瞬間、物凄い爆音と爆風と共に、数メートル先の青鈴へミサイルは直撃した。目の前に白煙が広がる。


(やられたか? いや、避けた? 防いだ?)


 頭の中で思考と不安が入り混じる。俺は、腕の装甲からすでに生えていたオーバーソードナイフに一瞬目を落とした。


 オーバーソードナイフは、超合金で出来ていて、微振動している。『この継続する微振動が電動ノコギリのような切れ味を保障します』ってC・Bが説明してたっけ……。


 それを思い出して一瞬、ためらった。


(女の子の柔肌をこんなもんで傷つけたくねえよ)


 そのまま俺は白煙に突入して……。――ガツン! 鼓膜が破裂したかと思うくらいでかい音が耳を襲って、次いで衝撃が俺を弾き飛ばした。吹っ飛ばされて宙を舞い、背中を地面にこすり付けて止まった。


「……痛って」


 痛みが発生したのは、痛いって口をついてからだった。

 頭にズキンと重い痛みが走る。それがとめどなく。心拍数と同じ速度で響く。血が流れてるからだと悟ったのは、それから数秒もしないうちだ。


「松尾!」


 マネイナが叫んで、


「之騎!」


(セイラムか?)


 ふと、視線を前へ向けると、


「ひっ!」


 喉が鳴って悲鳴が溢れた。

 目前まで、砲弾が迫っている。


――ピピッ。ピピッ。


『前方、五メートル。柘榴砲。回避して下さい』


 警告音と共に発せられる平坦なC・Bの音声が気持ちを逸らせた。

 体を起こそうとしたけど、衝撃からか、震えてるからか、立てない。


(これ、ヤバ――)


「重力障壁(バリア)!」


 インカムから叱咤する声音がして、俺は我に帰った。


「C・B! 重力障壁!」


 叫んだのが僅かに速かった。柘榴砲は俺の目の前で無数の破片を貼り付けた。重力障壁が発生したんだ。ほっと胸を撫で下ろしたけど、俺のすぐ脇から数メートルに渡って、小さな鉄球や破片が飛び散って地面に刺さっていた。思わず背中に悪寒が走る。ぞっとした。


――ピピッ。


「うわっ」


 警告音が鳴って、思わず肩を竦めた。


『上空から、カノン砲接近』

「はっ!?」


 跳ね上げるように顔を上げると、今度は上空からカノン砲が迫っていた。


(全部で一、二、……四発!?)

「ううわあっ!」


 俺は急いで立ち上がると、全速力で後方へ下がった。

 あらん限りの脚力で跳躍すると、数秒後にカノン砲が俺がいた場所へ直撃し、爆発炎上した。


 セイラムの位置まで下がると、状況を確認する。今、敵は俺達から見て前方、約五十メートルの位置に、三角形の配置をとっている。


 一番先端が青鈴。右側がサハ、左がジャーニス。カノン砲は十中八九この二人、ジャーニスとサハだ。カノン砲は重くて歩神じゃ持てるやつは限られてる。小柄な蒼人じゃまず持てない。四発来たから、一人ってことはないだろう。それに双方とも長い砲身が歩神の装甲でごつくなった肩に装着されている。が、念のため確認しとくか。


「C・B今のカノン砲はどっから来た?」

『ジャーニス・ハンソンと、サハ・ランティスからです』

「やっぱりな。柘榴は?」

『柘榴砲は、叙(ジョ)・青鈴からです』


――ピピッ。と、通信音が鳴って、冷静な声が届いた。


「大丈夫でした?」

「ハイガちゃんか?」

「はい」


 味方の位置を確認する。

 セイラムは俺の左隣、っていってもだいぶ離れた位置にいる。多連装ロケットランチャーを装備して打ちまくってるけど、ことごとくアティスチームの重力障壁でふさがれてる。


(どうなってんだ? あれ)


 普通、重力障壁は人一人分くらいの大きさで展開される。周囲が少し歪んだ感じになるだけで、視界はそう変わらない。だけど、アティスチームの障壁は規模が違う。セイラムの砲撃がぶち当たってる範囲を見た感じ、五メートルくらい重力の壁が展開している。


(俺はアレにぶつかってすっ飛ばされたわけだな)


 マネイナはセイラム側の少し前にいて、様子見しているみたいだし、ハイガちゃんは……。


 俺はハイガちゃんを追って弧を描くように顎を上へ向けた。

 彼女はひらりと舞うように、宙に半円を描いて俺の後方で着地した。怪我はないようだ。ほっとした俺と目が合って、ハイガちゃんはにこりと笑んで脚に力を入れる。

 こんなときまで反則的に可愛いぜ。


「さっきの重力障壁って?」

「私です」


 俺の問いにインカムから答えて、ハイガちゃんは俺の隣へすごいスピードでやってきて、ぴたっと止まった。


「ありがとう。指摘のおかげで助かった」

「いいえ。お気になさらずに。それよりも、これからです。油断はしないで下さい」

「はい」


 俺が敬礼を交えて潔く返事をすると、ハイガちゃんは俺を見ずにインカムをいじった。


「セイラム。聞こえますか?」

「聞こえるわよ!」


 少しヒステリーな声音で返答があった。


「作戦は?」

「遂行してよ!」

「だから、遂行して、今失敗したではありませんか」


 セイラムとハイガちゃんの会話に、マネイナが割り込んだ。ちょっとイラッとしてる口調だった。


「その後の作戦は? ということでしょう。そうですよね、ハイガ?」

「まあ、そうだね」


 ハイガちゃんは苦笑いを浮かべながら、インカムを離した。


「そんなの……ない、わよ」


 尻すぼみに小さくなっていくお嬢様からの返答に、マネイナのため息が合わさる。


(おいちょっと、今の良いぞ)

「なあ、マネイナ。もう一回ため息ついてくんない?」


 耳元でふ~ってやられてるみたいで、ぞくっとする。


「はあ!?」

「……」


 マネイナの怪訝な声音と共に、ハイガちゃんの白い目が俺に向けられた。


「いや。じょ、冗談だよ。冗談。本当だからね、ハイガちゃん! お願いだがら引かないでっ!」

「……大丈夫です。早く次の作戦を決めてしまいましょう」


 ハイガちゃんはまったく目を細めずに、口元だけでにこりと笑った。


(完全なセールストーク&笑顔だったな、今のは)


 がっくりと肩を落としている暇もなく、けたたましい音を響かせてジャーニスからカノン砲が放たれた。


『着弾予想――』

「はい。はい。俺らのとこだろ」


 向きからして。


『マネイナ、セイラム双方の中間地点と推測』

「は?」


 俺は跳躍しかけた足を止めた。カノン砲は、途中で向きを変えマネイナ、セイラムの方向へとぐんと曲がった。

 だが、二人ももう逃げる体勢を取っている。


「よし」


 安心したのも束の間。


――ピピッ。


 警告音が耳元で鳴った。目の端に、新たな文字が浮かび上がる。


〝八十一ミリメートル迫撃砲〟


 マネイナ達に向ったカノン砲に紛れて、迫撃砲が放たれていたんだ。ぎょっとして息が詰まった。俺は跳躍しかけた足を動かして、後方へ飛んだ。その瞬間、


「松尾さん、後ろ!」


 ハイガちゃんが焦った声を上げながら、右へ跳んだのが見えた。


「後ろ?」


 呟きながら振向きかけて、心臓が一気に高鳴った。


「ヤバッ!」


 壁がすぐ後ろに迫っていた。


「チッ!」


 足に力を込めた。ここで緩めたら壁に激突しちまう。壁ぶっ壊してなんとか衝撃抑えねえと!


「うらああ!」


 俺は思い切り壁を砕いた。瓦礫のいくつかが顔や体をかすめて吹っ飛んでいく。壁を突き抜けて、地面のコンクリートが僅かに削れた感触がする。


 壁の一部を崩壊。地面のコンクリートを五十センチくらい削って俺は止まった。


 ほっとしながら、何故か手のひらを確認していた。痛みはない。全身のどこも痛くない。歩神に守られてるせいか、アドレナリンだかが出てるせいかも知れんが、今はどうでも良い。


 俺は立ち上がって、試合会場全体を見回した。

 その時、


「らちが明かないわ」


 セイラムのイラついた声音がインカムから流れた。


「確かに。向こうは障壁から自分達を攻撃出来るけど、こちらはそうはいかない。攻撃しても重力障壁に阻まれてしまうし」


 マネイナの声を聞きながら、ピンと閃いた。


「じゃあさ、弾切れ狙えば?」

「弾切れ?」


 セイラムとマネイナの怪訝な声音が合わさる。


「向こうだって無限に弾持ってるわけじゃない。こっちも制限あるように、向こうだってあるわけだし。追加弾の転送許可は出てねえし、攻撃避けきっちゃえば後はこっちのもんじゃね?」

「そうなっても向こうには防御があるのよ。それじゃあ、イーブン。勝てないわ」


 セイラムの冷静で強気な発言がインカムから流れる。


「でも、じゃあどうすんだよ」

「セイラム、今まで攻撃した中で何か判ったことは?」


 マネイナの平静な声のあと、少し沈黙が流れて、


「重力障壁の展開エリアは幅五メートル、地表から天井まであるわ。横から狙った攻撃は青鈴に打ち落とされた。重力障壁の装甲は厚いわね。三人分を合わせてるだけのことはあるわ。いっそのこと、一点にだけ集中的に銃撃して重力障壁の突破を狙うって手もあるわね」

「ひゅう~♪」


 出来ない口笛を口で拭いた。もちろんセイラムに聞こえないようにインカムを塞いで。聞こえると色々面倒そうだからな。


 バカスカ打ち込んでるだけじゃなかったんだなぁ。セイラムって案外色々考えてんだ。


「確かにそれも良いと思いますが、カウンターを狙うという手もあるでしょう。障壁を展開しているのに向こうが攻撃出来るということは、その間はアティスチームは重力障壁を解除、もしくは緩めているはずです。攻撃を仕掛けてくるタイミングを狙って攻撃を仕掛けるというのも一種の手では?」


 分析するような口調で言って、マネイナはそのままハイガちゃんに話を振った。


「ハイガは何か案がありますか?」

「この試合のリーダーはわたしだけど?」


 ぼそっとセイラムの嫌味が交ざる。


(あいつ、マネイナに変なライバル心持ってないか?)

「……そうだね。じゃあ、誰かが囮になって相手がこっちに攻撃を仕掛ける、もしくは仕掛けてるときを狙って、一点突破でっていうのはどうかな。セイラム?」

「良いわね」


 セイラムの満足気な声音が聞こえてきたけど、俺は斜め前にいるハイガちゃんの背中を見つめた。なんか……変な間があったな。


「ハイガちゃん、大丈夫?」

「え? はい。問題ないです……よ?」

「そう」


 インカムから戸惑う声音が聞こえてきて、俺は小さく頷いた。考えすぎか。


「では、そうしましょう」

「じゃあ、開始するわよ。囮はマネイナ。タイミングはわたしが合図する」


 投げるように言って、セイラムが意気揚々と反撃ののろしを上げた。


「散って!」

「ハッ!」


 一斉に応えて、俺は走り出した。同時にみんなが駆け出すのが見える。セイラムは斜め後ろへ飛んで中央へ。青鈴と対峙する。


 ハイガちゃんは、猛スピードで疾走と跳躍を繰り返して進む。マネイナは左へ飛びながら攻撃を仕掛けた。多連装ロケットランチャーから勢い良くロケットが飛び出して行く。


 何発かが重力障壁へぶち当たり、破裂して爆煙を撒く。その隙に、二発のロケットが障壁を回りこんでジャーニスへと猛スピードで迫った。


「ジャーニス!」


 青鈴が声を上げて、ジャーニスは即座に振り返り、ロケットを打ち落とした。青鈴、ジャーニス、そしてサハの目が俺達から離れたその一瞬。それを、セイラムは見逃さなかった。


「かかれ!」


 インカムから威勢の良い号令がかかる。

 俺は一番後方を疾走しながら、迫撃砲をぶちかました。狙いは誰に言われないでも分かってた。それはハイガちゃんも、マネイナも同じだったみたいだ。俺達は、セイラムが陣取ってる正面――青鈴目掛けて一斉攻撃を放った。


 轟く衝突音の合間に、微かにヒビが入る音が聞こえた気がした。

 その時だ。重力障壁が収縮を始めた。それは一気に中心にいた青鈴へと集まる。


 一瞬だった。

 爆煙がアティスチームを包み込む。


「どっちだ? どうなった?」


 俺はぼそっと独りごちた。


――ピピッ。通信が入って、「松尾さん」ハイガちゃんの柔らかな声音した。それが、耳元で真剣な調子へと変わった。


「突撃してくれますか?」

「……うん!」


 ハイガちゃんの指示を聞いた途端、俺は走り出した。


「C・B、オーバーソードナイフ」

『了解』


 風のような速さで、俺は爆煙の中へ突っ込んだ。

 白い視界に覆われる。


(何も見えねえ!)


 そう思った瞬間、あっという間に視界が晴れて、青鈴が目の前に現れた。

 不敵に笑う青い瞳が、思い切り見開かれる。

 俺はそれ目掛けて、オーバーソードナイフを振り下ろした。


――ギャイィイィイ!


 耳を劈く甲高い音が響く。オーバーソードナイフは抵抗によって空中でその動きを止めている。


(やっぱり重力障壁あったか!)


 青鈴の顔が驚きから切迫へと変わる。

 不意に抵抗力がなくなって、オーバーソードナイフは青鈴の頭上へ落下しだした。


(ヤバッ……!)


 俺は咄嗟に腕の軌道を変え、外へ薙ぐ。青鈴が反射的にしゃがみこんだ。俺はそのまま、青鈴へのしかかるようにして落ちた。


 気がつくと、青鈴の顔が目の前にあった。苦しそうに目を瞑っている。俺は慌てて起き上がって、オーバーソードナイフを突きつけた。彼女が瞼を開いて青い目で俺を見る。


(良かった。どこも切ってない)


 青鈴をまじまじと見て、俺はほっと息をついた。


「終了!」


 速水の凛とした声音で、はっとした。辺りを見回す。ジャーニスの前にはマネイナがいて、装備している多連装式ロケットランチャーの銃口を向けていた。

 サハの前にはハイガちゃんいる。マシンガンの銃口を突きつけていた。


「制圧か……」


 ふと誇らしい気持ちが洩れて独りごちた俺の目の端に、真っ白い手のひらが映った。青鈴が爽やかな笑みを浮かべている。


「完敗だわ」

「いや。俺はかなりヤバかったよ」


 ふと笑みが零れて、青鈴もふふっと笑った。差し出された手を握る。


(いやあ……青春だねぇ)


 俺は、爽快な気分で辺りを見回した。目に映るのは半壊した闘技場。

これ、次の試合どうすんだろ?



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