第5話

 部屋を出ると、すぐに自動ドアがあって、その先には真っ直ぐに伸びた廊下が続いていた。姿が映るくらいピカピカな廊下は驚くことに先が見えなかった。


 正確には、豆粒みたいな扉があるけど、数分歩いても一向に近くなった気がしない。


 不思議なことに、廊下には窓一つ見当たらない。真っ白な壁紙に囲まれて、なんだか目がチカチカする。こんなところをただ歩かされるなんて、飽きちまう。


 俺は分厚い資料とやらに目をやった。

 こんな厚いの読む気しねえよと思ってたけど、ただ歩くのも退屈だしなぁ。


「しょうがねえ。読んでみるか」


『バグC判定の君へ』


 ページの最初はそう書かれていた。多分あの男の字だ。あの部屋で書いたんだろう。続く文字も同じ筆跡だった。


『バグはいわゆる差別の対象となりえる。特にC判定はね。だから、生前の君の情報を少なくともこの資料分は知っておくべきだ。同じバグでもB程度だと思われなくてはね。良く読み込んでおくように――オンノ』


「ふ~ん。親切なやつ。あいつオンノってんだ。変な名前」


 でも俺別に差別とかされても良いけど、こんなの読むくらいなら。

 俺は嫌悪感丸出しで分厚い資料を眺めた。


(やっぱめんどくせーなぁ。説明書とか読んだことすらねえし)


 そう思いつつも、俺は次のページを捲った。目立つ位置に、美少女の写真が張ってある。その横には名前らしき漢字が。夜茄――とあった。


「ヤナね」


 呟きつつ、まじまじと写真を見つめた。


「うん。めっちゃ可愛い。つーか、彼女どっかで見たような……」


 あっ、今の俺か。


「はあ……」


 まさか、俺が女になるなんてなぁ……。俺はため息をつきながら、頭をガシガシと掻いた。その途端、柑橘系の良い匂いが洟をくすぐる。


「女ってやっぱ、良い匂いするよな……。なんでだろ?」


 にやっと頬が緩んだ。

 そのまま脇とか、腕とかを嗅いでいく。どこもみんな良い匂いだ。


「いや……なにやってんだ俺?」


 冷静になると、自分の身体を嗅ぎまくってっるって変な状況だよな。


「止めよ」


 俺は資料に目を通した。

 文字はミミズがのたくったようだ。英語でもないし、アラブ語でもなさそうだ。多分この国だか世界だかの文字だろう。


 よくよく見てみると、夜茄という字も俺が知ってる漢字とはちょっと違っている。ってことは、この文字もこの世界の物なんだろう。


 ミミズがのたくったような文字は読めるか疑問だったが、意外なことにすんなり読めた。どうやら、この身体の持ち主は語学が堪能だったらしい。もしくは、インプットがどうとか言ってたから、それが済んでたのか……。文字はこう書いてあった。


『陽(ヤン)・夜茄(ヤナ)。享年十九歳。アフラ国、東部ハラショ生まれ。クローン化一度目。クローン年齢・十六歳。所属部隊・歩神(アシン)隊。ミトラ国内領地争奪戦にて、死去』


 その次のページには趣味とか好みの傾向とか、性格とかが書いてあって、趣味はお菓子作り、服装はいかにも女子が好きそうなレースヒラヒラ系が好きだったらしい。遺品という名の押収箱の中身を撮った写真があって、白いレースのワンピースが写っていた。


 活発そうな美少女の見てくれのわりに、ヤナは可愛い物が好きだったらしい。でも、この子が着たら相当似合うんだろうな。


(ただ、俺は絶対着ねえぞ)


 ざっと読んで次のページに進んだ。

 次のページは、軍事練習の成績がどうとか、銃の扱いのランクとかが書いてあって、その次のページにまだ続いてるらしい。


「なんか、読むのめんどくさくなって来たなぁ……」


 俺は嘆きながら、資料を閉じた。


「まあ、読まなくてもなんとかなるだろ」


 俺は地図を資料の上に持ってきて、位置を確認した。

 地図が示す先は、この真っ直ぐな廊下を進んだ先の大きな施設の一角らしい。


 地図で見る限り、四階建てらしきその施設の二階、この廊下寄りの部屋が示されている場所だった。方角的には、北だ。

 そこには、こう記されていた。


「案内所……ね」


 一体、どこに案内してくれるのかねぇ。むっちむちのお姉さんがいっぱいいるところだと良いんだけど。

 にやりと頬を緩ませた。


* 


 俺はその後、十分くらい歩いてやっと長い廊下を抜けた。廊下の終わりを告げる扉は木製で、大きな蔓の模様が彫られていた。

 ほっとしながら、扉を軽く押す。


「あれ? 開かない」


 扉は思ったよりも重い。今度は、体全体で体重を乗せる。めいいっぱい押したらゴゴっという音を立てて開いていく。


(もしかして、女になったから筋肉減って重く感じるのか?)


 ふと過ぎった疑念はすぐに吹き飛んだ。

 がやがやと賑わう音が聞こえてくる。扉は完全に開いた。コンクリートの床が広がり、通路を人々が行きかう。

 誰もいなかった廊下を進んできたからか、途端に安心感に包まれた。


(やっと人に会った)


 よく見る軍人の迷彩服や軍服(常装っていうんだったか?)を着ている人もいるが、殆どは原宿か、テレビの中でしかみないような服装をしていた。ふりふり系とか、アイドルとかが着てるような、なんちゃって制服みたいな服だ。変わった詰襟を着てる男子もいる。


 道行く男女の比率は五分五分といったところだが、若干男が多いくらいか。

通路の奥は広々とした倉庫になっていた。戦車がきちんと列を成して並べられている。輸送系の一トン半トラックや七十三式大型トラックも数台置かれていた。


 壁や天井には、鉄筋の骨組みが隠すことなく見えている。

 呆然と見回していると、「おい」と牽制するような声が聞こえた。


 振り返ると扉の両脇に軍人が立っていた。

 両名とも迷彩服を着て、腰のホルダーには銃が収められていた。


(うげ。銃、本物かよ。物騒だなぁ。扉の見張りか?)

「通行証を見せろ」


 右側にいた軍人が、厳しい声音で言った。


「んなもんないけど」

「何?」


 正直に答えた俺に、見張りの二人がぴりっとした空気をかもし出す。


(やべえかな)

「いや、本当なんですって。俺、さっき目が覚めたばっかでさ。白衣着た男にこれ持たされて、ここ行けって言われただけなんですって」


 地図をかざすようにして二人に見せる。

 声が上ずって、普通に出すよりも高い声が出た。その声はどこからどう聞いても女の声で、俺は思わず苦笑した。どうも自分から発せられる声に慣れない。


 男達は目を細めるようにして紙を見て、同時に頷いた。


「そうか。なら、俺が案内しよう」


 左にいたガタイの良い男が僅かに笑んで言って、頬に笑窪を作った。年は二十歳そこそこといったところだったが、落ち着いた印象があった。


 彼は右側にいた男に向って敬礼をすると、右側の男は鍛えられた無骨な腕を曲げて敬礼を返した。こっちもまだ若く、十代後半といったところか。


「では、行こうか」


 左のガタイの良い軍人は優しく言って、前に手を差し出し、俺に歩くように促した。


「あ、はい」

 俺は男について歩き出した。

「私はルサイアという。キミは?」

「あ、俺は松尾之騎」

(あっ、しまった。夜茄って言った方が良かったか?)


 ルサイアは当然の如くきょとんとしている。


「まつおゆうき……随分変わった名前だね」

「そっすかね」

「うん。聞かない名前の響きだな」


 ルサイアは考え込むように宙を見上げた。やっべ、誤魔化した方が良いか?


「いやぁ、まあ。田舎育ちなもんで」

「そうなんだ」

「ああ。まあ、そっすね」


 俺は会話を遮るようにきっぱりと返した。お願いだから、これ以上突っ込んでくんなよ。どこの田舎? って訊かれても答えらんねーぞ、俺は!


 でも、この不安は大きくならずに済んだ。それから会話はぴたっと止んで、しばらく無言で歩いていた。そうしているうちに、俺はあることに気がついた。


 かなりの人数とすれ違ったり、抜かされたりしたけど、男女合わせていずれも若く、十代中頃から二十代前半に見えるやつらばっかりだ。


「あの、ここってなんなんすかね? 軍施設じゃないんすか?」


 遠慮がちに話しかけると、ルサイアは振り返って、怪訝な表情を浮かべた。


「そうだよ」

「でも、なんか若いやつしかいないっすよね?」

「ああ」


 ルサイアは納得するような声音を出した。


「ここは、確かに軍施設ではあるんだけど、軍学校だから」

「え? 軍学校?」

「そう。アフラ王国陸軍サノク士官学校だよ」

「へえ、学校にクローン造るとこがあるんすか?」

「ああ。君、なりたてか」


 なりたて?


「クローン一回目かな?」

 訊かれて、俺は必死にさっき見た資料の記憶を辿った。


「みたいっすね」

「じゃあ、そうだね……少し混乱してるのかもね。クローン一回目だと混乱する子が稀にいるんだって。クローン化の頻度が激しい子も混乱する子が出てくるみたいだけどね」


「それってバグってやつ?」

「そうなるね。でも、数日経つと落ち着く子が多いから大丈夫だよ」

「差別の対象になるって聞いたんだけど……」


 窺いながら訊くと、ルサイアはまた納得いった声音を出した。


「ああ。オンノ先生?」

「うん」

「彼、ああ見えて結構心配性だからね。差別っていうか……そうだな」


 ルサイアは言葉を選ぶようにして、


「学生の中ではあるだろうね。いじめは」

「え?」

「学生は戦場にまだ出たことがない子達ばっかりだし、当然死んだこともない子達ばかりだから、クローンってものにどっかしら憧れというか、尊敬みたいなものを抱いてるんだよ。だから、バグを〝失敗作〟だと見下す子がいるんだ」


 マジか。俺、いじめられちゃうの? まあ、ガキにいじめられても別にどうってことないけど。――って、俺も今ガキか。

 思わず苦笑が洩れた俺を不思議そうに見たけど、ルサイアは言葉を続けた。


「でも、大丈夫だよ。正式に軍に所属されれば誰もそんなことしないから。いじめなんてことはすぐに言ってられなくなる。みんなで協力しないと軍ではやっていけないからね。それは学生も同じ事だ」

「へえ」


 俺が相槌を打ったところで、ルサイアの足が止まった。

 エレベーターのボタンを押すと、扉はすぐに開いた。数人が降りて、空になってから入る。他に待ってたやつはいなかったから、俺とルサイアだけだ。


 エレベーターは前面ガラス張りで、外の様子が丸見えだった。さっきまでいた倉庫が眼下に広がっていく。


 あらためて見ると、倉庫はやっぱりかなり広かった。

 数十台の戦車が、ずらりと並んでいるのを見るのは圧巻だ。


 特に戦車やミリタリーグッツに興味はなかったけど、そんな俺でもガラスにへばりつくくらいは迫力がある。


「之騎ちゃんは、戦車とか好きなのかな?」


 背中にぞわっと悪寒が走り抜けた。


(――ちゃん? うっわ! 気色悪りっ!)


「別に。特に好きってわけじゃないっすけど、すげえなって思って」

「ここの階はミュージアムになってるからね」

「え?」


 軍施設なんだよな? 

 首を傾げた俺に優しく笑いかけてルサイアは説明した。


「戦車や輸送トラックなんかは過去の遺産だからね。展示物として保管してるんだ。ほら、ここは学校でもあるからね。教育の一環だよ」

「マジで? じゃあ何で移動してんの?」


 ルサイアは少し戸惑った表情をした。


「けっこう憶えてないことが多いんだね」


 遠慮するように言って、


「近くだったら歩神(アシン)でそのまま出動することもあるけど、大体がR・F(アールエフ)の大型にコンテナを引かせたりするね」

「歩神? R……? なにそれ?」


 全然意味わかんね。


「歩神は歩兵に与えられるパワードスーツのことで、R・Fはそうだなぁ……。ミサイルとか、重火器とか、色んな武器を取り付けた車……みたいな感じかな? R・Fは色んな種類があるし、歩神も実力が認められれば自分にあった装備をつけてもらえるよ」

「へえ……」


 なんとなく想像出来たような、出来ないような……うん。出来ねえな。考えるのやめよう! 俺は早々に見切りをつけて小さく頷いた。


 その時、ルサイアが俺を見る目がちょっとおかしいことに気がついた。

 なんか、猫を見る目というか、ちょっと気があるやつに向ける目というか……。


 俺だったらこういう目をしてるときは大概、可愛いなって思ってる女の子に向けるな……って、俺今女じゃねえか!


 もしかしてこいつ、俺のこと可愛いなって思ってる?

 ちらっとルサイアを見ると、微笑ましい者を見るような、熱がこもってるような目で俺を見ていた。

 うわっ。マジかよ。引くわ~。


「之騎ちゃんは、ここのことについてはどれくらい覚えてるのかな? 食堂とか街のことは?」

「いや……まったく」


 ルサイアは僥倖だというように顔をぱっと明るくした。


「じゃあ、行ってみると良いよ。食堂はすごく美味しいし、女の子が好きなスウィーツの種類も豊富だよ。街にも結構女の子向けの店舗が並んでるし、ウィンドウショッピングをするだけでも楽しいと思うよ」

「へえ。俺甘い物好きなんだよなぁ」

「それは良かった」


 ルサイアは笑った。

 その笑顔は、人の良さをものがたっていて、俺はさっきまでの嫌悪感が吹き飛んだ。

 こいつ、下心とかなくて、普通に可愛いもん見たわぁってだけだったのかも。


 でも金輪際、俺を可愛いって思うは止めてくれよ。


 俺は念を押すようにルサイアを見た。ルサイアは首を傾げたけど、そのとき視界の隅に華やかな少女が映って俺は思わず向き直った。


 ガラスの向こうで、美少女がびっくりしながら俺を見ていた。

 ……って、俺かぁ。


「どうしたの?」


 ルサイアは心配そうに呼びかける。

 俺はがっくりしながら振り返った。


「なんでもないっす」


 俺を可愛いって思うのもしょうがないのかもな……だって実際、夜茄の姿は美少女そのものなんだから……。


 くっそ。

 なんなら、イケメンに生まれ変わって、夜茄と付き合いたかったぜ! 


 * 


 ルサイアは地図の場所まで俺を送ると手を振って帰って行った。カウンターには案内所と書かれた看板が出ていた。


「すいません。ここに行けって地図渡されたんですけど」


 カウンターの中にいた受付嬢に地図を渡すと、彼女は俺をチラッと見て、「寮への行き方ですね?」と尋ねた。


「さあ? そうなの?」

 質問で返すと、彼女は俺に地図を裏返しにして渡した。


(あれ、文字が書いてある。気づかなかった)


 文字を読んでいくと、そこには、『彼女は多少記憶の混乱が起こっている。寮への道を教えてやって欲しい』と書かれていた。オンノの字だ。


 受付嬢は愛想なく俺にコインを差し出した。

 コインは、百円玉と同じくらいの大きさで、黒い鋼で出来てるっぽい。


「これなに?」


 これでなんか買えってことか?


「軽く投げて下さい」


 言われて俺はコインを放って、手のひらの上でキャッチした。

 その瞬間、コインから青い光が放たれて、宙に画面が浮かび上がっていた。俺の顔の前に、薄い、一ミリにも満たないパソコン画面が浮かんでる。


「これ……?」

「それはC・B(シービー)と言います。様々なネットワークに通じていて、様々なことが出来ます。仮想現実で遊んだり、訓練をしたり、調べものも出来ますし、通信手段としても使われるので、肌身離さず持っていて下さい」


「それって、つまり……VRとかPS4も出来るスマホってことでOK?」

「……は?」


 お姉さんはあからさまに嫌な顔をした。


「いや。良いっす」


 ここが別世界だって忘れてた。

 俺は受付嬢に教わったとおりに、C・Bの検索画面を開いて寮への地図を表示させた。と言っても画面に向って、「サノク士官学校学生寮までの地図」って言っただけだけどな。

 

 地図上には、現在地の建物に、A棟と書かれていて、その隣、地下の連絡橋と繋がってB棟がある。B棟はかなり深そうだった。地下何階建てなんだろう。五階くらいはありそうだ。


 A棟から出ると、Cから順にFまで書かれた建物があった。

 CとDの建物は、女子寮と表記されていて、A棟の裏手右側にあり、EとFは裏手左だった。こっちは男子寮と書かれている。


 俺は地図を頼りに寮へ向った。寮までの道は並木道が続いている。桜なのかなんなのかは分からないが、新芽が木々を彩り始めていた。女子寮はその先にあった。


 コの字型の四階建てで、中心のエントランスまで行くのに数分はかかりそうなほど、大きな建物だ。


 エントランスまで真っ直ぐに伸びている花壇に囲まれた道を通って、寮の中に入ると吹き抜けの大きなフロアが広がっていた。


 どうやら上階の廊下からエントランスが覗けるようになっているらしい。

フロアは観葉植物が窓際に置かれているだけで殺風景だけど、新築のようなきれいさだった。


「確か教わったのは三〇六号室だったな」

 俺は地図に目を移すと、地図はいつの間にか寮内部の地図に切り替わっていた。


 五〇〇号室ある中から、自分の部屋を探す。その最中にエントランスは他にもあることが判った。と言っても、エントランスと呼べるほど大きなものではないみたいだけど。


 俺は部屋から一番遠い玄関を選んでしまったらしい。

 とりあえず三階へ上がろうと、俺は正面にあったエレベーターのボタンを押した。



 こんなに部屋数があるのに、誰にもすれ違わないまま部屋にたどり着いた。それに、やけに静かだ。


「もしかして、誰もいねえの?」


 新築みたいにぴかぴかなのに、幽霊屋敷みたいだな……。俺はぞっとしながら、目の前の部屋を見た。


 引き戸式の部屋のドアには金色のプレートで部屋番号が書かれていた。

取っ手に手をかけると、ピーッガチャという電子音がした。鍵が自動的に開いたみたいな音だ。


 俺は首を捻りながら、戸を開けた。

 戸はすんなりと開き、六畳くらいの室内が現れた。


 正面には大きめの窓があり、カーテンはない。窓際にベッドがあって、真っ白なマットレスと薄い毛布が一枚畳んで置いてある。


 壁紙はベージュで、一枚だけ薄ピンク色だった。多分、東側だろう。

 その横、ベッドの正面にクローゼットがあった。中を覗いてみると大きめのダンボール箱が二つ置いてある。


 一つには、夜茄のものだと思われる衣服。(写真で見たワンピースが一番手前に畳んであったから、多分そうだろう)もう一つには、日用品が納まっていた。ノートとか、アクセサリーとかだ。これも多分夜茄のだろう。


 俺はそれらをさっと覗くと、クローゼットを閉めた。

 下着を探してみたいという欲求は確かに過ぎったが、それよりも何よりも疲れちまって、とりあえずベットに横になりたかった。


 普段はちょっとやそっとじゃ疲れねえのに……。俺は重だるい身体を引き摺るようにしてベットに行くとマットレスの上に倒れこんだ。


 バフンと、身体が弾んで俺はうつ伏せのまま目を閉じた。急に強烈なだるさと眠気が襲ってきて、俺はそのまま眠気の波に身をゆだねた。


 * 

 

 重い瞼を開けた。

 明かりがカーテンのない窓から射しこみ、眩しくて目が覚めた。

 光は一瞬で消えたが、すぐにまた顔に射して、反射的に眉間と鼻に力を入れた。


「……っ」


 イラッとして起き上がり、髪をわしゃわしゃと掻いた。窓の外を見ると、どうやら、灯台の灯りが窓から入ってきてるらしい。

 灯りは灯台を軸に、円を描きながら周囲を照らしていた。


「こりゃ、カーテンやんなきゃな。ダンボールの中に入ってるか?」


 俺は独りごちて、クローゼットに向った。


「つーか俺、どんぐらい寝てたんだ?」


 昼だったのに、もう夜だ。

 ポケットからC・Bを取り出して起動させる。


「今、何時だ?」


 ぴこんと小さな音が鳴って、『只今の時刻は、午前二時、三十二秒です』と、C・Bが告げた。


「うわっ、すげー寝たな」


 俺は自分に引きつつも、寝ぼけ眼でクローゼットを開けた。

 ダンボールの中を漁ろうとしたとき、微かな物音が聞こえた気がして、手を止めて耳を澄ました。


「~~~~」

「なんだ?」


 誰かが言い争うような小さな声が聞こえてきた。

 俺はクローゼットから離れて戸を開けた。


 しゃがみ込んで首だけを出して廊下を覗く。向って右の廊下は誰もいない。シーンと静まり返っている。それを確認して頭を振ると同時に、首に弾け飛ぶような衝撃が走った。


「痛って!」


 次いで鼻に痛みが走る。そのまま廊下に弾き出されて床に手をついた。


「痛ってえ! なんだよ!?」


 鼻と首筋を擦りながら前を見ると、ちょうど直線状に少女が前のめりに倒れていた。


 どうやらしゃがみ込んでいた俺に気づかずに、彼女が俺を蹴り上げたらしい。彼女は俺に躓いて転んだ……と。


「大丈夫か?」


 少女は勢い良く顔を上げると俺を無視して立ち上がった。

 すらりと伸びた足が短い丈から覗き、それが俺の目の前に……。ベスポジ、イエイッ!


 少女は俺がそんなことを考えてるとは露知らず、ポニーテールにした緑色の髪を勢い良く跳ねさせながら、後ろを振り返った。


(パンツ見えたぁ! 薄ピンクのフリルパンツ! あざーっす!)


 鼻息荒くした顔に軽く何かが当たった。


「痛て」


 黒い太い紐だ。ホルダーかなんかの。その先には銃がくっついている。

 ああ。じゃあ、あの紐はスリングベルトか。


 桐生がサバゲーアニメに嵌ったときに集めてたっけ。銃は多分、マシンガンだろう――ってあれ? なんでこいつそんなの持ってんだ?


「おい。お前、そんなの持ってどこ行くんだよ?」


 こんな真夜中にサバゲーか?


「説明してる暇ないし、義理もない。早く見つけない――」


 言いかけて少女は目を見開いた。

 俺をそのまま凝視してくる。


「な、なんだよ? 怖えーな」

「……!」


 絶句していた少女が突然びくんと跳ね上がった。


「なんだ? どうした?」

「こっち来て!」


 少女は命令しながら俺の腕を掴んで、脱兎の如く走り出した。その途端、パアン! と激しい炸裂音がして、俺らがさっきまでいた場所に小さな穴が開いていた。


「……は?」


 まさか、銃弾?


 絶句した途端、それを合図にしたように次々とやかましい銃声音が響いて、銃弾が俺ら目掛けて浴びせられた。すぐ側でガラスが割れ、壁に小さな弾がめり込む。それも矢継ぎ早に次々と。


「うわああ!」


 俺は全速力で走りながら、半ば反射的に後ろを振り返った。ほんの一瞬だけだったけど、目の端に迷彩の軍服とヘルメットを被った数人の人影をキャッチした。


「撃ち方止めい!」


 後方で怒声が響いて、銃の乱射が止んだ。

 俺は速度を緩めて、息を切らしながら後ろを振り返った。

 女だ。


 紺色のジャケットに、紺色の短いタイトスカート、黒いヒールという常装服姿の女が、銃を構える兵士達の前に偉そうに立っていた。


(多分あいつがボスだな)

 直感的に思って、立ち止った瞬間、


「止まらないで!」


 叱責と同時に腕を引っ張られて、また走り出した。


「おい、もう銃止んだぞ」


 俺を引っ張る少女に投げかけたけど、少女はガン無視しして俺を走らせた。ちらりと後ろを振り返る。遠ざかる兵士達は俺達を追うつもりはないらしい。


 しばらく走ると、少女は非常階段の中に俺を放り込んだ。乱暴に放られてよろけた体勢を戻す。


「なあ、お前なにしたか知んねぇけど、謝れば? あの女怖そうだったじゃん」

「監視カメラがあるから、手短に話すね」

「無視ですか?」

「あなた、松尾之騎だね?」

「これも無視ですか……って、え!?」

「うちはミハネ」

「ミハネ!? お前が!?」


 信じられねぇ。マジかよ。あの見た目小学生が、こんなスレンダー美人に! 俺が思ってることを察したのか、ミハネは、「御互い様」と素っ気無く言った。


「お前なんで俺だって分かったんだ?」

「魂を見たから。死神には肉体の中にある魂が見えるんだよ。それを生前に見て、死のリストと照合することもある。まあ、稀だけど」

「へえ」


 そんなんあるんだ。


「で、話を戻すけど、うちらは来ちゃならないところに転生しちゃったんだ」

「は? どういうこと?」

「鳥居があったでしょ?」

「ああ、転生の門の。確か、赤いのが六つだかで、白いのが一つだったか?」


「そう。赤い鳥居は地獄と天国に通じるものと、人間界四州にそれぞれ通じてる。だけど、白い鳥居はそのどれでもない」

「というと?」


「あれは第四十二惑星へのワープホール」

「……はあ!? ってことは……ここは地球じゃないってことか!?」

「そういうこと」

「でも、なんでそんなもんがあそこにあったんだよ?」


 おかしいだろ。


「第四十二惑星にはトラブルがあったんだよ。それで、一度五百ある惑星から各惑星の冥王が代表で様子を見に行ったことがあったんだよ。そのなごりがあれ」

「でも、あんなとこにあったら間違って入っちゃうやつだっているんじゃねぇの?」

「だから封印されてたでしょ」


 説明が面倒臭いのか、若干キレ気味のミハネを尻目に俺は考えていた。


(封印? そんなのあったか?)


 あのときハコとかいう女が呪文唱えてて……。


(もしかして、それが封印を説くための呪文か?)


「おい。この惑星であったトラブルってなんだ?」


 それが原因でハコもここに来ようとしてたのかも知れない。 

 ミハネは気だるくため息をついた。


「この惑星の人間界は地球と違ってひとつしかないんだけど、その世界がミスラだとかいうのが乗っ取って、人間がクローンを造ることになったのは知ってる?」


「ああ。聞いた」

「そう。良かった。手間が省ける。で、クローンを造ったせいでこの惑星の冥界や天国、地獄界の機能が麻痺したんだ。死んでから冥界で裁判を受けて、生まれ変わる人間がいないわけだから」

「なるほど。冥界の役目を取られたと」


「まあ、そういうこと。それに、冥界で裁判を終えて天国や地獄にいたとしても、そいつのクローンを人間界で造られると、魂が強制的に呼び戻されてしまうらしいんだ。魂って、その人の記憶そのものだったりするから。それで、三十年ほど前に、各惑星の冥王五百人が、偵察もかねてこの星の冥王と会議するためにやってきた」


「……ちょと待て。五百人って言ったか?」

「言った」


 微妙に怪訝そうな表情で、ミハネは俺を見据えた。


「もしかして、一斉にバグが出て自殺したのって」

「冥王達」

「ええ!? マジか! なんで自――」

「話が進まない」


 ぴしゃりと言って、ミハネはぶつくさと文句を呟いた。


「うちだって好きで話してるわけじゃないのに。ああ、話すのめんどい。寝たい。サボりたい」

「悪かったよ。話の腰折って。続けてくれ」


 謝ると、ミハネは渋々といった感じで話し始めた。


「冥王達は会議をしたものの様子を見ようってことにしたらしい。で、あの鳥居は封印された」

「なんで様子見にしたんだ?」


「どんな理由があるにせよ人間界に直接干渉して影響あたえちゃいけない。それがどこの惑星でも共通の冥界の掟」

「でも一斉にバグ出して死んだんだよな?」


 立派に干渉してるじゃねえか。


「死んだってこの世界じゃ、すぐに死ぬ前の元の記憶を持って生まれ変わる。何かを変える程の影響なんかなかったはずだよ。死んでからや死ぬ時の記憶なんて、クローンになるときに消されるんだから」


「ああ。そっか。でも、なんでハコとかいう女は封印を解いたんだ?」


 今の話じゃ、あの女に関わりありそうなことじゃなかったみたいだけど。


「……男」

「男?」


 ミハネは途端に不機嫌な表情になった。


「ハコの他にいた男。あいつにハコは唆されたんだ。あいつは地獄の亡者で、罪状は結婚詐欺。衆合地獄に落とされた罪人。ハコは衆合地獄の極卒だった。冥界人は様々な能力を持って生まれるけど、衆合地獄の鬼は、相手を誘惑したり、発情させたり、心と性を想いのままに操ることが出来る目を持って生まれる」


 ああ、それで俺、目が合った時あんな気分になったのか。やっと納得がいったわ。


「その目を持っていながら、よりによって衆合地獄の罪人に惚れるなんて……うちには到底理解出来ない。大体恋愛なんて、めんどくさいだけ」


 ミハネは淡々と言って続けた。


「うちとハコは友達で、一緒に暮らしてたんだ。でも最近様子がおかしくて、変だなって思ってた。だから、亡者どもの反乱があったときにぴんと来たんだけど。あいつと二人で別世界で人間に生まれ変わって結ばれようって魂胆だったんだろうね。うちらは肉体がないからさ」


 吐き捨てるようにミハネは言った。ミハネにしては、妙に饒舌だ。


「もしかして、怒ってる?」

「……うちらは姉妹同然だと思ってたから。裏切られた気分ではある」

「そっか」


 ミハネにしてみれば、一緒に暮らしてた家族がいきなり家を飛び出て、男に走って捨てられたみたいな感覚なのかもな。


 しんと静まり返りそうな雰囲気になったけど、ミハネが少しだけ明るく声を上げた。


「ってことで、当人達が達成出来なかった愛の逃避行に巻き込まれてうちらはここにいるわけだけど、松尾之騎、あんたが見つかってよかった。無理かも知れないけど、次は柚木春南を見つけないと」

「春南ちゃん?」


 そっか。春南ちゃんも来てるんだもんな。


「ところで、俺達帰れるのか?」

「帰れる。今のうちなら」

「今のうち?」


 ミハネは真剣な表情で頷いた。


「そう。今のうち、多分もう三十分もないけど」

「は? どういう意味だよ?」


「門が閉まりかけてる。封印が再起動してるのか、向こうから……もしくはこちら側から閉じられようとしてるみたい。だから早くしないと、帰れなくなる」


「マジで……。いや、でもここの冥界に助けてもらって戻るって手はないか? お前コンタクトとれないの?」

「分からない」


 深刻そうに呟いたミハネを見て、不安が首をもたげた。


「分からないって、お前……」

「仕方がないでしょ。うちだって初めてなんだから。門の気配が感じられるだけで、どこに冥界があるのかすらも知らないんだから」


 そっか。


「残りの三十分で春南ちゃんを見つけることは可能か?」

「……もう三週間も探してるのに見つからないから、無理かも知れない」

「三週間? どういうことだ。俺達同時に鳥居を潜ったはずだよな?」


「磁気嵐だよ。ワープ中、雷があったでしょ? おそらく柚木春南は雷に打たれた。だから、多分うちらよりももっと早くこの世界に来てるはず」

「……マジかよ」

「マジ。うちがあんたより早く目覚めたのもそのせい。うちは腕に少し触れた程度だったけど、もしかなり強く打たれていれば、何十年前に転生しているか分からない」


 ミハネはきっぱりと言って、突然かぶりを振った。


「よし。しょうがない。松尾之騎、あんただけでも連れて帰る」

「いや。断る!」

「はあ!?」


 あっけらかんと言い放つと、物凄い勢いで驚かれた。いつものやる気のないミハネにしては珍しい反応だ。


「だって春南ちゃんを置いていけねえだろ。俺と同じく巻き込まれただけなんだし」

「うっ……」


 ミハネは、ばつが悪そうな表情を浮かべた。ミハネにも巻き込んで悪いという想いはあるらしい。まあ、だからこそ、俺らを追って来てくれたんだろうけど。


「俺は春南ちゃんを見つける。だから、ミハネは地球に戻ってくれ」

「でも――」


「そんで、秦広王だか、閻魔だかに事情を話してまた門を開けてくれよ。そうすりゃ帰れるんだろ?」


「いつになるか分からないよ? こっちとの話し合いもあるかも知れないし、十数年かかるかも。もしかしたら、一生の寿命でだって足りないかも知れない。それでも良いの?」


 ミハネは真顔で俺をまっすぐに見た。

 その覚悟はあるのかって問いかけられた気がしたし、同時に心配してくれてるのもなんとなく解った。


「ありがとうなミハネ。でも、だったらなおさら俺は残る。何十年も春南ちゃんをひとりにさせておけないだろ。それに、この世界は死んでも生き返るんだろ? 何年でも待つよ」

「……松尾之騎」


 ミハネはぽつりと呟いて、深くため息をこぼした。そして、確固たる自信を持った目で俺を見据える。


「分かった。松尾之騎、あんたの覚悟は受け入れた。何十年掛かっても、必ず迎えに来る」

「おう。よろしく頼む!」


 御互いにっと笑い合って、ミハネは片手を挙げた。


「じゃあ、うちはもう行く。そろそろ〝やつら〟も来る頃だろうし」

(やつら?)


 疑問が疑問が浮かんだ瞬間、ぎょっとした。

 ミハネが腰のホルダーから取り出した銃を、自分自身のこめかみに向けたからだ。


「おま、お前なにやって……」

「じゃあね、松尾之騎。また逢おう」


 頬をにこりと持ち上げて、ミハネは引き金を引いた。激しい音が反響して、非常階段に鳴り渡る。


 甲高い耳鳴りがする。耳が痛い。

 思わず耳を塞いだけど、目は倒れていくミハネを見ていた。


 脳漿と赤い液体が弧を描きながら、灰色の側壁へ勢い良くぶち当たって、ミハネはそれに引きずられるように倒れこんだ。


「……お、おい」


 死んだということは分かってた。だけど声をかけずにはいれらなくて、俺は返事が返ってこないミハネを呼んだ。


 心臓がバクバクする。

 路地裏の女がフラッシュバックした。細くて白い足、青いワンピース。流れる赤い……血。


「落ち着け俺……!」


 言い聞かせて、深呼吸した。

 動悸が静まりだしたときだった。


 バンッ! けたたましい音が響いて、すぐ上の階のドアが吹っ飛んだのが見えた。そのままドアは踊り場に転がった。


「ひっ!」


 小さく悲鳴を上げて、俺は身を竦めた。

 バタバタと忙しない足音が大挙してきて、俺は上の階から降りて来た兵士達にあっという間に銃口を向けられてしまった。


 間を置かずに、下の階からも銃を構えた兵士が何人かやってきて、そのまま俺に銃口を向けた。


(こいつら、ミハネを追ってたやつらか? あいつ一体何したんだよ?)


 俺はびびりながら両手を上に上げる。

 下の階の兵士の間から、見た女が現れた。さっきの、偉そうな指揮官。


 栗色の長い髪を纏めて帽子の中に入れ、紺色のジャケットを羽織る。その中では白いシャツの胸の部分が今にも弾けそうだった。


(ありがとう、目の保養! ナイス! 巨乳! 緊張と不安の中にもジャストな緩和、感謝です!)


 女は、十センチくらいありそうなヒールの右足に体重をかけて、少し傾いたまま無言でじっとミハネの死体を見つめていた。


 そのうち、すっと片手を上げる動作をしてから腕を下げると、兵士達はそれを合図に銃を下ろした。


 ほっと息をつく。

 無意識に撫でた胸の感触が記憶にないもので、俺はふと苦笑を漏らした。


「こいつを殺したのはお前か?」


 冷徹な声で女は訊いた。


「いいや」


 緊張で冷や汗を掻きそうだ。

 女は、「そうか」と呟いて、威圧的に命令した。


「状況を説明しろ」

「状況……」


 って言われてもなぁ。

 そこで死んでるのはミハネの魂が入ってた人で、ミハネと俺ともう一人いるはずの人間はこの世界どころか、惑星の人間でもないって? 言えねぇ。言えるわけがねぇ。


 そもそもそんなこと言っても信じないだろうなぁ……。

 ちらりと女の様子を窺うと、女は無表情のまま仁王立ちで立っていた。


(この女、なんか怖い)

 本当のことでも支離滅裂なこと言ったら、懲罰とかされそう。


「えっと、部屋にいたらなんか話し声が聞こえて。それで出てみたら彼女がいて。人質にされました。それでここまで来たら、なんか知らないけど、自殺しました」


 女はゆっくりと瞬きをすると、片手を挙げた。


「監視カメラの映像でも自殺であることは明らかです」


 すぐ後ろにいた兵士がぼそぼそと告げると、女は静かに頷いた。


「そのようだな。お前、この者とは知り合いか?」

「いいえ。まったく。今日初めて会いました」

「お前は何故部屋にいた? 地下への退避命令が出ていたはずだが?」

「退避命令は聞いてません。俺、寝ちゃってたので」

「……」


 女は片方の眉を釣り上げてイラッとしたような表情を浮かべる。

 やっべ。


「速水(ソクスイ)准尉この少女は例の報告の者では?」

「……ああ。バグか。お前も」


 さっきの耳打ち兵士からの助言で、女は納得したみたいだ。


「では――確か、陽(ヤン)だったか。退避命令は解いた。自室で休むと良い。それとも、〝松尾〟と呼んだ方が良いか?」

「え!?」


 なんで――。


「オンノから報告は聞いている」

「なんだ、そっか」


 ほっと呟くと、女は意地悪そうに笑んだ。


「好きな方で呼んでやろう。バグよ」

「速水准尉!」


 後ろの兵士が咎めるように強い口調で言うと、速水と呼ばれた女は、ハッハッハ! と、おかしそうに笑った。


「撤収だ」


 不敵に笑みながら、速水はミハネの遺体を持った兵士達を連れだって去っていった。


 * 


 ――ピッピッピ。

 軽快なアラーム音が枕元で鳴って、目覚まし時計を止めようと手を動かした。


 でもどこをまさぐっても、いつもの時計代わりのスマホが見つからない。代わりに丸い物を握って目を開けた。


 握りこぶしの中で、ピッピッピというちょっとくぐもった軽快な音は鳴り続けている。


「ああ。そっか」


 俺はようやく事態を飲み込んだ。

 ここは違う世界なんだった。


『起床してください。まもなく訓練が開始されます』


 手の中で、C・Bがくぐもった声でそう告げた。


「そういえば、昨日受付の姉ちゃんがそんなこと言ってたっけか」


 軍学校は二年で卒業になるけど、もう授業という名の訓練は一ヶ月前に始まっているらしい。俺はそこに編入というかたちで入っていくことになる。

 クラスは全部で六クラスあって、俺は確か、二組だったか。


「六クラスか……春南ちゃん見つけないとな」


 運良く一ヶ月くらい前に目覚めてて、同じ教室になると良いけど。何年も前に目覚めてたとしたら、もう卒業しちゃってるだろうしな。


(いや、そうだとしても、絶対に見つける!)


 気合を入れつつ、俺はクローゼットを開けた。

 昨日から着っぱなしだった病衣を取っ払うと、控えめに胸板についていたものが揺れた。思わず頬が緩む。


 なんだか不思議な気分だ。

 二十五年間生きてきて、一度も胸が揺れた経験なんてなかったからなぁ……。


「……失礼」


 断りつつ、自分の胸を揉む。うん。中々、弾力のある良い乳だ……って、


「バカか、俺は。んなことしてる場合じゃねぇっつーの!」


 俺はそのまま、レースがついたブラジャーや、可愛らしい花柄がプリントされたブラジャーを断腸の思いで無視し、いわゆるスポーツタイプのブラジャーというやつを着た。


 ホックがなくてTシャツみたいに着れば良いから、楽だなこりゃ。ホックなんてあったら、つけられる自信は皆無だからな。外す自信ならあるけど。


 制服は袖がこんもりと丸い、パフスリーブで縦のストライプ柄が入っている青に近い紺色のワンピースだった。昨日、受付の姉ちゃんにC・Bで写真を見せてもらったから確かだ。戦車ミュージアムで歩いてた子達も同じ服装だったし。


 学校指定のマークが胸元についている。

 金色で縁取られた黄金のライオンみたいな生物だ。雄のライオンに羽が生えて、角が一本鋭いのが頭から生えている。その角が示す先に王冠がある。


 この制服とは別にもう一つ、運動用に体操着があってどっちも持ってけって言ってたっけ。確か、そっちはただの迷彩服だったはず。


 俺はダンボールから迷彩服を探して、これまたダンボールに入っていた学校指定らしき黒のカバンに詰め込んだ。丈夫そうなビニール製で、楕円形。カバンの中心には学校のマークがでかでかと描かれていた。


 準備を終えると俺は戸を開けた。その瞬間絶句した。

 大勢のうら若き乙女がぺちゃくちゃとお喋りしながら、廊下を同じ方向に向って歩いている。


 そこには、男子の姿は微塵もない。

 そりゃそうだ。ここは女子寮なんだから。


(昨日は廃墟の静けさだったのに……)


 今は、華やかで、煌びやか、きゃはは、うふふ、と笑う可愛くて若い女の子達の群れが!まさにパラダイス! 


 両手を広げて喜びたい! ……んだけど、急に不安が襲ってきた。


(この女子の、女子しかいない群れの中で、男の俺がたった一人でこれから過ごしていかなきゃいけないのか?)


 なんだろう。なんか、げんなりしてきた。

 男だらけの、むさっくるしい日々に戻りたい。


 だって、もうエロいお姉さんが写ってる雑誌見たり、DVD観たり出来ないってことだよな。それらを観て、ああだこうだ言う友達も……。


(桐生。萩野――今、心からお前達に逢いたいぜ!)


 だが、感傷に浸っている時間はない。

 俺が春南ちゃんを見つけないと。

 気合を入れて俺は、きゃはは、うふふの群れへと身を投げ込んだ。


 * 


 女子の集団行動は、A棟へ向かい、A棟から入って、地下へ降りた。

 どうやら朝飯はまだなようだ。もしくはそっちに食堂があるのか……。

 

 昨日、俺が使ったガラス張りのエレベーターは使わず、人波は施設に入ってすぐわきの通路を進んだ。


 するとすぐに大きな階段があって、列を成して下り始める。

 どうやら和気藹々と団欒する少女らの会話を聞くに、普段はシャッターが下りていて、訓練に向う時間と終わりの時間にだけ開かれるらしかった。


 遅刻したら大変よね、こっそりまぎれることも出来ないんだもの――少女らのうちの誰かが愚痴を零しているのを聞いて、俺も気をつけようと心に誓ったもんだ。


 まあ、すぐに忘れちまいそうだけど。

 五階分の階段を下りて、やっと昨日の格納庫へとたどりついた。


 戦車や輸送車を見回しながら、昨日潜った門の前までやってくると、ルサイアが今日も門番として立っていた。

 目が合うと、ルサイアは微笑んで小さく手を振った。


(俺が元の男の姿だったらあんなに嬉しそうに手なんか振らないんだろうな)


 皮肉に思いながら、俺は手を振り返そうとした。その時、反対側から男子の群れがやってきた。女子達は当然自分達が先だよなという牽制の目を投げ、譲り合うことなく門を潜っていった。


 (きっついなぁ……。どこの世界でも、集団になると女は強いよ。そのくせ、イケメンには弱いんだよなぁ。理不尽なことに)


 真っ直ぐ続く廊下は、昨日と全然違っていた。驚くことに可動式だったのだ。いわゆる、ムービングウォークってやつだ。その速度は空港に置いてある物とは桁違いだった。時速二十キロは出てるはずだ。


 一歩足を乗せる段階では、通常のムービングウォークと変わらなかったけど、二歩進んだ先からは、ちょっと速い自転車並の速度になった。


(なんだよ。こんな仕掛けがあるなら、昨日も動かしといてくれよ。超歩いたじゃん)


 ため息をついた拍子に、ぐらっと身体がよろめいた。


「おっと」


 体勢を整えたけど、ほんの少しだけ隣にいた少女にぶつかってしまった。


「すいません」

「いえ。大丈夫です」


 俺が苦笑を浮かべながら謝ると、彼女は愛想良く微笑んだ。笑んだ頬に、微かに笑窪が浮かぶ。


(おっ、良い子!)


 こういう時、悪い顔しないってそれだけで好印象だよな。

 小麦色の肌に、いかにも人の良さそうな顔立ちで、セミロングの黒髪が肩らへんまで真っ直ぐに伸びていて、毛先がくるんと内向きに巻かれていた。瞳は黄金色で小柄。顔は地味だが、可愛いといった感じ。

 なんていうか、愛嬌があるタイプの顔だ。


 どこの誰だか分からんから、よい子ちゃんと呼ぼう。もちろん心の中だけでな。


 俺はじっとよい子ちゃんを見詰めた。もう彼女は前方を見ている。

 もしかしたら、この子が春南ちゃんだという可能性もあるのかも知れない。


「それにしても、手すりないと危ないですよね?」

「え?」


 とっかかりとして話しかけると、よい子ちゃんは少し驚いて振り返った。


「そうですね。でも、これも訓練の一環だそうですよ。体感を鍛えるためだそうです」

「へえ。そうなんだ」


 俺は大げさに驚いて見せて、


「えっ~と、お名前は? 聞いても良いかな?」


 よい子ちゃんの返事に耳を澄ました。


「ハイガ・ウィンツです」

「ハイガ?」

「はい」


 答えるまでの不自然な間はなかった。ってことは、よい子ちゃんは違うのか。

 それにしても、ハイガって。男みたいな名前だな。


「ハイガちゃんはどこの人?」


 訊いても分かんないけど。


「えっと、アフラ国に付随する連合国の……カンヘル国です」

「カンヘル?」

「……はい」


 ハイガちゃんはどことなく自信なさげに頷いた。


「俺良く知らないんだけど、それってどんな国?」

「カンヘルは、私と同じ目の色と肌の色の人が多い国で、乾燥地帯が多いみたいですね。この世界では今大国は、アフラ国とミトラ国の二つだけなんですけど、この二つは隣国同士で隣り合ってますよね?」

「ん~」


 俺は歌うように言って、「みたいだな」と頷いた。

 そうなんだ。勉強になるわぁ。


「アフラ国の海を隔てて西に位置する中国がカンヘルです」

「へえ」


 アフラってのはこの国だよな。


「じゃあ一応隣国なんだな」

「ですね」


 ついでだし、世界の国とかについて訊いておくか。まあ、すぐ忘れそうだけど、知らないよりマシだろ。


「えっとさ、世界地図的なこと教えてくんない? 俺、そういうの勉強してなくてさ」

「……はい。良いですよ」


 なんか妙な間があったな。


(怪しまれたか?)


 ちょっとぎくりとしたけど、ハイガちゃんは何事もないように説明を始めた。どうやら大丈夫らしい。


「えっと、カンヘル付近から言うと、カンヘルの更に西に島国があるんですけど、そこはオネイロス国と言って、小国です。この国は、ミトラ国、つまりはミスラに乗っ取られたかどうかは判別してません」


「なんで?」

「通信手段がないので」


 ハイガちゃんはおずおずと口にした。


「でも、もちろん軍は通信手段あるんだよな?」


 じゃなきゃ、戦えないだろ。


「軍事衛星も通信衛星もミスラに乗っ取られたために、使えなくなったんです。でも、新たに通信手段が確保されたんですよ。重力波を検知出来るようになって、重力波の波によって通信手段を得ているそうです」


「ってことは、新たに通信手段が確保される前に通信手段が断たれた国とは連絡出来なくて、安否が分からないってことでOK?」

「はい。そういうことです」


 ハイガちゃんは相槌を打った。


(だけど、待てよ)


 この世界にGPSがあるかどうか分からんけど……。


「なあ、人工衛星はあるんだろ?」

「みたいです」

「じゃあ、位置情報とかやばくね? 敵にもろバレになったりとかさ」

「ああ。そのことなら大丈夫みたいですよ」

「なんで?」


「重力波は従来の電波とはまるっきり違う物なので、ミスラが検知することは出来ないみたいですし、人工衛星はミスラが世界を乗っ取ったときにほぼ全て破壊してしまったらしいので。ミスラもまさか重力波が実用化されるとは思わなかったんじゃないですかね」


「ふ~ん。そんなに意外なものだったんだ」

「はい。私の世界でもオカルトの域でしたし」

「そっかぁ。でも、なんで破壊したの?」


「えっと、確か歴史の本によれば反撃させないためだったみたいですね。当時、人工衛星によって軍は機能してたみたいですから。例えばミサイルの着弾地点の計算とか。航路も空路もGPSに従ってたどっていたようですから」


「へえ。そうなんだ」

「ちなみに、ミスラ側から新たに人工衛星が打ち上げられたという報告はないそうです。あっ――」

「ん?」


 突然ハイガちゃんが小さく声を上げた。でも振向いて聞き返すと、「いえ。なんでも」と笑顔で返されてしまった。


(どうしたんだ?)


「え~と、世界地図の話に戻りますと、あと不明な国は、アフラ国の南にある島国でモト国。これも小国です」


 疑問には思ったけど、俺は再び始まった世界地図講義に耳を傾けた。


「ただ、オネイロス国よりは大きいですね。それと、ミトラ国の北西にある島国。確か、イシス国だったかな。その国は大きさはモトよりも大きい中国で、この国も不明です」


「そっか。安否が分かってないのが、三カ国ってことか」

「はい。ただ、もう乗っ取られている可能性が大きいそうです」

「そうなんだ」


 大変だなぁ。


「乗っ取られたと判明している国は、アフラから北東にある中国、といっても地図上は多分、大国とそう変わらない大きさの国であるバアルは全て乗っ取られたと報告があるそうです」


「敵国ってわけだな」

「そうですね。だから、もうバアル国というよりはミトラ国と言った方が良いかも知れません」

「他には?」


「カンヘルの隣にある蒼頡(そうけつ)という国は味方です」

「ってことは、敵はバアルとミトラの二カ国だけ?」

「はい」

「なあんだ。あいつが世界のほぼ全てを乗っ取られたとか言うからどんなもんかと思ったけど、味方の方が多いんじゃん」


 重力波とかいうのもあるし。こりゃ余裕だね。


「いえ、一度ほぼ全てを乗っ取られたことは事実みたいですよ」

「え?」


「一度カンヘルもアフラ大陸も蒼頡も乗っ取られたみたいです。唯一無事だったアフラ国に生き延びた各国の人々が集まって、ミスラの手から領地を取り戻したらしいです。だから本当はカンヘルも蒼頡も元々は別の土地にあった国なのかも知れません」


 そうなのか。あれ? でも……。

「ちょっと待って。今、アフラも乗っ取られたって言わなかった?」


「はい。アフラと言っても大陸のことです。アフラという国は元々小国だったようで、現在のアフラ国の端にあったみたいです。その頃の世界は脳にチップを入れることが主流で、それを許可する国が多かったらしいんですが、アフラ国はそれを許してなかったみたいなんです。それで、ミスラの反乱を免れた。ミサイル攻撃とかはあったみたいですけど」


「マジで」

「はい。でも、それ以外の国は一度全て乗っ取られたって言われてるみたいです。それに、当時世界には百三十の国があったらしいんですけど、それがたったの七カ国になってしまったわけですから」


 ハイガちゃんはちらりと俺を見た。


「どれだけ凄まじかったか、ありありと見えるようじゃありません?」


 同意を求められたみたいだけど、いまいちピンと来ない。

 それを察したのか、ハイガちゃんは駄目押しした。


「百三十各国もあったら、人口ってすごい数に及ぶと思いませんか?」

「そうなんだろうけど、ごめんな。俺、そういうの苦手なんだわ」

 何億人とか言われてもピンと来ないわ。そんな人口一斉に見たことねえもん。


 日本がとか、アメリカがなくなったとか、中国が全部乗っ取られたとか、もっとうちの世界地図で話してくれればまだ分かるんだけどなぁ。って、無理か。


「そうですか……それは、すいません」


 ハイガちゃんは申し訳なさそうに少し俯いた。


「いやいや、俺の方こそ教えてって言ったのにごめんな。本当、頭悪くて申し訳ない」


 ぺこりと頭を下げると、ハイガちゃんは、「いいえ。私こそうまく説明できなくてすいません」と、申し訳なさそうにしたあと、柔らかく笑んだ。


 本当に愛想の良い子だなぁ。なんだか、ほんのりと懐かしい気もする。

 この子好きだわぁ。好きな子認定に入れよう。ぽん。


 などとアホなことしてる内に、ムーヴィングウォークが終わり、ハイガちゃんはそれではと言って足早に人波に消えていった。


 本当、見ず知らずのやつに親切で……良い子ちゃんだよ。

 困ったことがあったら、お兄さんが助けてやるからな!


 * 


 教室は、俺が目覚めた部屋を通り過ぎた先にあった。

 引き戸式のドアを開けると、階段教室が広がっていた。

 

 上からざっと覗いただけでも、もう二十人くらい入室している。

 男子はぽつぽつとぼっちがいるが、その中で一際目立つのが三人。一人は何事にも我関せずを決め込んじゃってる雰囲気が出てる青っ白い顔色の美形。

 

 ドア側の一番前の席に、健康的な小麦色の肌のくせにひょろひょろで、妙に不健康そうな眼鏡の青年。背は高そうだが猫背で台無し。身を屈めながら何やら楽しそうに機械をいじくってる。かなり、オタクっぽそう。


 最後の一人は、ぼっちというか……。複数人の女子に囲まれてる。女子達の目はもうハートそのもので、中心にいる金髪の青年は楽しそうに笑っている。


(――ケッ!)


 他の男子どもは男子のみの少人数でわちゃこら話をしてる。静かに過ごしてるグループもいれば、わちゃわちゃと何かの話題で盛り上がってるやつらもいる。


(ふっ……。おそらくはY談だろう)


 同士を見る目を送って、女子に視線を移した。

 女子は例の如く、どこの星でも共通らしい小グループを組み、楽しくたむろ中。


 一番目立つのは、決してぽっちゃりでもデブでもない肉付きの良い女子がいるグループか。その中でも中心にいる眼鏡の少女は、少し動いただけで、たゆんたゆん揺れそうな乳と尻を持っていながら腰はぎゅっとくびれていた。

 

 なんとも素晴らしい。

 しかも、長身で眼鏡をかけていて、こげ茶の髪を一本のみつあみに編んでいる。一見地味そうなところがまたそそるねぇ。


 吟味する視線を投げつつ、俺は階段を下りようとした。目線を少し下に移したとき、女子の中でもぼっちを一人発見した。


 ボリュームのある、クセ毛だかウェーブだかをツインテールにしたクールな面持ちがある少女だ。


(あ~。いたなぁ。ああいう優等生系の女子ぼっち)


 懐かしみながら階段を下りて、俺はつかず離れずの位置に座った。

 それとほぼ同時に、階段下の戸が開いた。小麦色の肌、人の良さそうな顔立ち。ハイガちゃんだ。


「同じクラスだったのか」


 やった!


「ん?」


 ハイガちゃんは慌てた様子で教室に入ってくると、階段を駆け上がった。ボインメガネに二、三告げると三人いた少女達はすぐさま散開した。


 ハイガちゃんはそのまま少女達がいた席に腰を下ろし、散らばった三人も背筋を伸ばして着席した。それとほぼ同時に、階段下の戸が乱暴に開かれた。強く開かれた引き戸が、反動で戻り、その戸を受け止めてぬっと人影が姿を現した。


「ゲッ」


 そいつを見た瞬間、教室の中にいた連中はすぐさま席についた。

 ぴりっとした緊張が走る。


 長身のくせにバカ高いハイヒールを履き、オレンジ色の口紅を差した冷たい目をした女が、不機嫌そうな面で教室を一周している。

 あの女、確か、速水とか言ったっけ。


「授業を始める」


 マジかよ。あいつが教官なのかよぉ……!





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