@ogiso4d

第1話

「お前は誰だ」

面白半分で鏡にそう尋ねると、醜い笑みを浮かべた女が現れた。

「私はあなたよ」

ニコニコしながら鏡の中の私…この際「鏡子」と呼ぼう。鏡子はそう言った。

怖くなかったといえば嘘になるが、恐怖3割、不気味さ3割、嬉しさ4割といった割合で私の心は満たされていた。

というのも、私は友達が少ないというか0に近いため、学校に行っても誰とも話すこともなく一日を終えることが殆どで、たまに授業の一環で行われるくだらないペアワークなどが本当に苦痛だった。

「誰だよマジで」というような奴

と会話するのが嫌だったのではなく、

「私と会話なんかして楽しくないだろな。可哀想に。」

という感情が生まれてしまうのである。

そんな訳で、親しい人間との会話がほぼ無かった私にとって、鏡子の存在が「不気味なやつ」から「親友」になるのに、そう時間はかからなかった。

といっても、大した話をするわけでもない。

朝起き、洗面台に向かい、「おはよう」というとそれが鏡の中から返ってくる。

そして学校から帰り、今日あったこと、というより愚痴に近いものを鏡子に聞いてもらう。

これを繰り返す日々だった。

半年ほど経ち、いつものように朝の挨拶を鏡子と交わし、学校へ行き、帰ってくる。

すると母が箒とちりとりを手に持ち、洗面所へ入っていくのが見えた。

嫌な予感がし、現場へ直行すると鏡が、鏡子が割れていた。

「おかえり。なんかいきなりすごい音がして、びっくりして行ってみたらこれよ。」

母によると、鏡子は突然割れたらしい。

危ないから入るなという声は私にとって意味を成さなかった。泣きそうになる。話しかければ、小さくなった鏡子が出てくるかもしれないだ思ったが、そんなことは無かった。

何故だろう?と私は考えた。

理由は自分でも分かっていたのに。私は鏡子に愚痴や不満などを半年間に渡り語り続けた。嫌な顔ひとつせずに親身になって聞いてくれた鏡子だったが、今になってみれば、それこそ鏡子にとってストレスだったのではないか。

少なくとも逆の立場なら私はそんなことはできない。

そのストレスに耐えきれず割れたのではというオカルティックなことを感じてしまうほどに私は参ってしまっていた。

鏡子にも話したいことや聞きたいことがたくさんあったかもしれないのに。

「ごめんね。」

そう呟き、私は自室に戻る。机の引き出しを開ける。鏡子と出会ってから、すっかり使わなくなってしまった手鏡を手に取る。

「…お前は誰だ…」

希望と諦めが半分ずつ篭った声で私はそれに話しかける。

…………そりゃそうだ。

手鏡を引き出しに戻そうとした時だった。

「私はあなたよ」

そこには笑みを浮かべる私が映っていた。












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