クズとしがらみと女

 カーテンの隙間から差し込む日光で自然に目が覚めた。スマホに手を伸ばしまとめサイトを開くついでに時間を確認する。昼の12時過ぎだった。バイトの時間まで6時間ほどある。まとめサイトとyoutubeを往復しながらぎりぎりまで脳を使わずに過ごすいつもの昼だ。

 LINEの通知が来ていることに気付き開くと翠から「おはよう」とメッセージが届いていた。「今日もお仕事がんばってきます!」と朝の7時頃に1通。それから昼休みに入ってすぐ送ったのだろう。30分ほど前にも「しゅーくんはまだ寝てるかな?お仕事がんばってね」とスタンプ付きで送られている。「ありがとう」「翠ちゃんもお疲れ」「お仕事がんばって」立て続けに送信してすぐにアプリを閉じた。既読がついてやりとりが長くなるのは面倒だ。翠の事は嫌いではない。むしろ大好きだ。好きだが同時に煩わしさもある。翠が居なければ俺はもっと自由なのではないか、緑が居なければできることがまだまだあるのではないか。そんな思いが胸の深いところに沈むようになったのはいつからだろうか。ヘドロのような感情をいくら掬い上げても澄んだ思いが濁るばかりでいっこうに気が晴れない。――だから翠と離れてここに来た。LINEの通知が表示されたが、俺はバイトが終わるまで既読をつけないことにした。

 ある日のバイト終わり、由紀に声を掛けられた。珍しく彼女からの誘いでファミレスに行った。夜食のつもりでパスタ、それから二人分のドリンクバーを注文した。バイトの事で相談か、あるいは告白でもされるのか。期待に胸を膨らませていた俺は由紀の言葉に耳を疑った。

「芦葉さんは幽霊って信じますか」

「幽霊……ね。どうしたの、見たの?」

由紀が何を言おうとしているのか分からず質問で返した。が、由紀はうつむき加減に頷いた。意図せずしてこの質問は確信を突いてしまったようだ。

「信じますか?」

真剣な表情で由紀がこちらを見つめる。黒目がちな瞳から目をそらしたのは少し怖くなったからだ。

「あんまり信じてないけど、聞かせてよ。何があったのさ」

 深夜のファミレス。客は俺たちの他に2組だけ。BGMで流行りの曲が流れているが明るいだけでがらんとした店内にはどこかうすら寒い雰囲気が漂っている。

「もしかしたら幽霊とかじゃないかもしれないですけど」

そう前置きして由紀は語り始めた。

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