第55話 動き出す6/7

「樹里」

「はっ」

 また思考が空の彼方へぶっ飛んでた。ありがとう咲羅。現実に引き戻してくれて。

 そんなことを思っていたら、彼女が私の服の袖をくいくいっと引っ張るので「ん?」と咲羅を見つめたら、

「2人ばっかり見てないでよ」

 耳元に口を寄せられて小声で言われました。オーマイガー。

 彼女の熱い吐息が甘い痺れとなって、一瞬でピリピリと全身を駆け巡った。

 撃沈。机に突っ伏してしまったのは許してください。無理無理無理。


「こらーそこっ、イチャイチャしない」

 琴美さんが怒っていますが、すみません。今は顔を上げられないです。真っ赤になっている自覚があるので。

「にゃははっ、耳めっちゃ赤いよ」

 大きな声で言わないで、咲羅よ。全員にバレちゃったじゃん。

 馬鹿。咲羅のバーカ。

「んふっ、じゃあ樹里ちゃんは黄色ってことで。決定!」

 駿ちゃんが勝手に話をまとめて、パチパチ拍手してますね。はい、もう黄色でいいです。異論はございません。


 てか、アカ姉さんと翔ちゃんも、駿ちゃんも松岡先生も甘い雰囲気出してたのに、私たちだけ怒られるっておかしくない?


「あっ、大事なこと決めてない!」

 今度こそ会議終わったかなと思って顔を上げたら、珍しくアカ姉さんが大きな声を出した。

 んにゅ? なにごと。

「リーダよ、リーダー」

「おっと。忘れてた」

 琴美さん、私も忘れてました。そう言えば決めてないですね。

「でも、もう決まってるじゃん」

「ん?」

 まさか、私が思考をぶっ飛ばしている間に決まってました? いやいやいや、ホワイトボードには書かれてないから、それはないな。

 頭の中で?マークを浮かべている私に、全員の視線が向けられた。

「えっ」

 なにその期待が込められた目。嫌な予感。

 アカ姉さんがゆっくりと口を開き、

「リーダーは樹里ちゃんね」

「は!?」

「言い出しっぺだもん」

「ねー」

 アカ姉さんと翔ちゃん、頷き合わないでもらっていいですか。琴美さんも微笑んでないで止めてくださいよ。

「いいんじゃない」

 ちょおおい、咲羅も乗っかるのか。

「それじゃあ、決定で」

「え、マジですか。私でいいんですか。え、ホントに?」

 話を締めくくろうとする琴美さんを必死で止める。

「いいよね、駿ちゃん」

「うんうん。言い出しっぺだもん。責任もって頑張りなー」

 微笑む咲羅に、微笑み返す駿ちゃん。2人とも可愛い……ほら、松岡先生の目が溶けてなくなっちゃってるよ。私も同じ目をしている自覚があります。

 ……じゃない!

「オーマイガー!」

 私の叫び声を無視して、みんな帰り支度を始めました。何故だ。ここにきて冷たすぎるじゃん。悲しいです。


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