第55話 動き出す4/7

「え、まさかの私ですか」

「あーそうだね。樹里はダンスが売りだし、それプラスアクロを修得できたら最強だと思う」

「さくちゃんも乗っからないで」

 貴女は私の可能性というか、伸びしろを過信し過ぎなのよ。

「いいじゃん。樹里ちゃんならできるよ」

「琴美さんまで!?」

 待って待って。私の味方はいないんですか。無理ですって。

「バク宙は難易度高いけどさ、バク転とか片手側転なら咲羅が休んでいる間にマスターできるっしょ」

 おおおおおい駿ちゃん、あんたがアクロバット得意なのは知ってるよ。現役時代、松岡先生とバチバチにキメてましたもんね。

 だからって簡単に言うな。私は一回もやったことないんだからね!?


「頑張ってね、樹里」

 首をコテンと傾けて語尾に♡マークつけたように言わないでえ。可愛いから。無理。可愛すぎて。そんな風に咲羅に言われたら断れないじゃん。

「じゃっ、そういうことで」

「待った待った待った」

 アカ姉さん、話を勝手にまとめないでください。もう私がアクロバットに挑戦するのはわかりました。受け入れます。

 けどさ、

「私一人だけじゃバランス悪くないですか。せめてもう一人ぐらいアクロ担当いた方が……」

「「たしかに」」

 また駿ちゃんと松岡先生がハモりました。仲いいなあ、おい。そんでもって加賀谷さんよ。さっきからずっと黙って口元隠してますけど、2人の方見て目を細めてニヤついてるのバレバレだからね!

 はあ、2人が仲間から愛されているようでなにより。


 違う。話がそれてる。

「誰が適任かなあ」

 ありがとう琴美さん、軌道修正してくれて。

「樹里がやるなら私もやるよ」

「およ、さくちゃんマジ?」

「大マジ」

 いえーい。咲羅と一緒だっ。これは素直に嬉しい!

 勝手に盛り上がってハイタッチする私たちに、

「でも咲羅一応休みでしょ。アクロの練習してたらゆっくりできないよ」

 加賀谷さんの意見、ごもっともです。折角の休みだもん。ちゃんとゆっくり過ごしてほしい。

 ハイテンションだった気分が急降下していますが、こればっかりは仕方ない。咲羅以外の人にアクロ担当してもらおう。

「いや、まるっきり練習しないわけじゃないし。ボイトレもダンスレッスンも頻度は減らすけどやるし。どうってことないよ」

 咲羅は加賀谷さんの目を真っすぐ見て言った。

「あんたがそう言うなら……別にいいんじゃない」

 ぶっきらぼうな言い方だけど、アカ姉さん、言葉に優しさがにじみ出てますよ。

 不器用だなあ。もっと素直になったら、とは思いません。これでも十分、フィオにいた頃よりも丸くなった方ですから。

 ちょっとずつ自分を変えようとしてくれていることが嬉しい。なんてたって、彼女は私の一番最初の推しだもん!


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