第55話 動き出す2/7

3月28日(月)

 Sorelle6枚目のシングル制作と並行して、私たちのグループについて話し合いの場――会議が行われた。

 私は映画の撮影があるから忙しくて中々時間が取れなくて、春休みに入ったタイミングで漸くみんな集まることができた。

 本当は咲羅が活動再開してから話し合っても良かったんだけど、彼女が

「活休入る前に決められることは決めちゃいたい」

 って言ったのよ。

 いや、今話し合っちゃったら休んでる間にもグループのこと考えちゃわない? と私なんかは思うんですけどね。押し切られました……。


「おはようございまーす」

 駿ちゃん、咲羅と一緒に会議室に入ると、私たち以外のメンバーは揃っていた。

 長机の廊下側に琴美さん、アカ姉さん、翔ちゃん。窓側に松岡先生と加賀谷さんが座っていて、曽田さんはお誕生日席。

 みんな早いな。集合時間20分前ですよ。暇なの?

「なんか失礼なこと考えてない?」

 おっと、笑顔で琴美さんに鋭い指摘を受けてしまった。

「かっ……考えてないですよ」

「ふふっ、怪しすぎ」

 自分でもそう思います。すみませんでした。


「全員揃ったことだし、早速グループ名から決めようか」

 私たちが席についたタイミングで、曽田さんが口を開いた。

「そうですね、決めちゃいましょう」

 琴美さんが立ち上がり、後にあったホワイトボードにペンで『グループ名(案)』と書いた。

 うん、やっぱりこういうとき仕切ってくれるのは琴美さんなんだよね。流石Roseのリーダー。頼りになるう。

「なんか案ある人」

「……」

 無言。え、みんな希望なし? それじゃあ、

「私、好きな花があるんですけど」

 控えめに手を挙げながら口を開いた私に、みんなの視線が一斉に向けられた。

「はい樹里ちゃん、なになに?」

「シクラメンの品種で『ビクトリア』っていうのがあるんですけど、花弁が王冠みたいで、女王様がいるこのグループにピッタリだな、って思います」

 完全に咲羅のイメージなのは申し訳ない。でもしょうがないじゃん。私の一番は彼女なんだから。

 それに、この花は私が元々好きな花。お母さんが唯一家で育てている花なんだよね。


「凄く綺麗なお花なんです」

 そう付け加えた私に、

「うん、高貴な感じがする」

 ありがとう駿ちゃん。

 感謝を込めて微笑んだ私の周りで、各々スマホでどんな花なのか調べている。

 どうなるかな。事務所名が『フラワー・エンターテインメント』だから、ちょうどいいと思うんだけど。

「初めて見たけど、いいね」

「可愛いお花ですね」

 アカ姉さんも翔ちゃんも好感触。

「さくちゃんはどう思う?」

 隣の彼女に尋ねれば、

「樹里が好きな花でしょ。これにしよう」

 ちょい、それでいいのか。間違いなく公私混同してますよね!? 私も貴女に甘いけど、あんたも大概だなあ。嬉しいです。

「曽田さんは?」

 琴美さんが曽田さんに尋ねると、

「君たちの好きなようにしなさい」

 丸投げかーい。まぁいいや。仰る通り、好きなようにさせていただきます。


「よし。じゃあビクトリアで決定ね。カタカナよりも英語表記の方がかっこいいよね。どんな綴り?」

「V、i、c、t、o、r、i、a、です」

 私が言った通りにホワイトボードに書かれていく。

「うん。いい感じ」

 満足そうに頷く琴美さんを見ながら、私も頷いた。








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