第46話 誰も見捨てない3/5
「新しいグループをつくることを提案したのは私です。夢物語と思われるかもしれませんが、私は死ぬまでアイドルを続けたい。男性アイドルは40代になっても続けられるのに、世間では『女性アイドルの賞味期限は2、3年』なんて言われてる。それが悔しいんです」
琴美さんも曽田さんから目をそらさず、睨みつけるように決意を瞳に、言葉に込めて言った。
「私は、樹里ちゃんたちと証明したい。新しい女性アイドルグループ像をつくりたい。女性アイドルにだって賞味期限なんてないって」
彼女の言葉は曽田さんに届いただろうか。真顔で腕を組んだままの彼からは、なにも伝わってこない。
「成程ねえ……君たちの想いはよくわかったよ」
背もたれにもたれていたカラダを起こして、机の上で手を組み
「だけどね、正直言って今新しいグループをつくるメリットなんてないんだよ。茜はお荷物、翔は心が弱い。樹里ちゃんだってSorelleの活動で忙しいだろ」
曽田さんの言うことはもっともで。反論の余地はない。だけど、みんなが自分の想いを逃げることなく口にしてくれたんだ。
私も闘わなくちゃ。
「爆弾がなんですか。心が弱いからってなんですか。アイドルだって人間です」
たとえ彼が咲羅にしか興味がなくっても、私たちのことを踏み台としか考えていなくても。
「最初は批判を受けると思います。曽田さんが言ってることは正しいです。でも、正しいことが全てじゃない」
私にとって、
「なんて言われようと、このメンバーじゃなきゃダメなんです。アカ姉さんは過去を受け入れて強くなりました。翔ちゃんは、自分の弱さを認めて、それでもステージに立ちたいって言ってくれました。琴美さんも、自分の考えをしっかり持って私の背を押してくれました。私は、我が儘な私を受け入れて一緒にアイドルをやっていきたいと言ってくれたみんなを、見捨てるつもりはありません」
傷ついて苦しんでも、もう二度と手を離さない。守り抜いて見せる。
全ての想いを込めてじっと曽田さんを見つめた。
「咲羅はどうなんだい」
そう来たか……。
「まだ話してませんが、絶対に説得してみせます」
「僕には説得できると思えないけどね。彼女は既にアイドル界のテッペンに到達してるよ。そんな彼女が、こんなリスクしかないグループに加入するとは思えない」
その通りだ。咲羅はSorelleとしてアイドル界の頂点に上りつめたけど、きっと私がいなくてもテッペンに立てただろう。
わかってるよ、ずっと傍であの子が傷つきながらも華開いていく姿を観てきたんだから。
曽田さんよりもわかってる。幼馴染を、恋人をなめんな。
「いいえ、説得します。私は、死ぬまで咲羅とアイドルをやりたいから。ずっと傍で歌っていたいから」
「樹里ちゃんさあ、はっきり言わせてもらう。君は正直咲羅の足を引っ張ってる。君がアイドルになるのを認めたのは僕だけど、もう君はいらな――」
「不要、だなんて言わせません。足を引っ張ってるのもわかってます。この一年間、言われ続けたことですから。それでも、私はあの子の傍にいたい。だから、もっと努力します。このメンバーの中で一番実力が劣っているから、今まで以上に練習を重ねます」
ぎゅっと両手を握り締める。
自分がアイドルとして遅れをとってることなんて、わかってるんだよ。
それがどうした。劣ってるからってなんだ。
私は咲羅の隣に立っても恥ずかしくないように、必死に追いつこうとしてきたんだ。これからも、同じように頑張るだけだ。
努力は必ず報われるとは限らない。でも、私が華開ける場所はここなんだ。咲羅の隣なんだ。
まだまだ追いつけやしないけど、こんな私の歌でも「好き」「元気が出た」って言ってくれるファンは沢山いるんだ。
みんなの気持ちを、応援を無駄にはさせない。
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