第39話 向き合う1/4
四月一日さんの事務所を出た後、私は駿ちゃんに送ってもらって、都内の撮影スタジオへと向かった。
「樹里ちゃん、頑張ってね。俺っちは応援することしかできないけど、君ならきっと翔ちゃんを説得できるって信じてるから」
車を降りる直前、駿ちゃんは運転席から後部座席へカラダを向けて言った。
「ありがとう。応援してくれるだけで十分だよ。心強いよ」
私の言葉に、なにを言うわけでもなくふにゃっと笑った彼の目は、とても優しかった。
数十分後。昨日駿ちゃんが言った通り、翔ちゃんがスタジオから一人で出てきた。帽子被ってるけど、顔出てるから。すぐにわかった。
本当に歩いて帰るんだね。サンキュー、駿ちゃん。
彼女は周りを見渡すことなく、少し俯いたまま歩いて行く。ヤバっ。このままじゃ話しかけるタイミングなくなっちゃう。
慌てて、
「翔ちゃん!」
「えっ、誰……って樹里さん!?」
「ごめん、ビックリさせちゃって」
そりゃ驚くよね。突然背後から話かけられたら。
「久しぶり。話したいことがあるんだけど、この後時間あるよね?」
強引な口調になっちゃったことも、ごめん。
「ありますけど……なんですか」
ちょっと警戒されちゃってる。うわあ、登場の仕方も言葉のチョイスもミスったか。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
「ここではちょっと」
「……わかりました。歩きながらでもいいですか」
本当はどっかのカフェにでも入って、ゆっくり話したいところだけど、彼女がそう言うならしょうがない。
譲歩することも大事。
「うん、大丈夫」
笑顔で言ったら、戸惑うように視線を
よし、第一関門はクリアかな。
深呼吸をして、笑顔を維持したまま彼女と一緒に歩き出す。
「メッセージ送ってたけど、直接会うのは久しぶりだね」
「そうですね。私、あんまり事務所に行く用事がないので、全く会いませんでしたね」
最初は他愛のない会話から。彼女の警戒心を解かなくっちゃ。
「それで、話ってなんですか」
おっと。彼女からド直球でボールを投げられた。もうちょっと関係ない話をしていたかったんだけどなあ。仕方ない。
「私ね、新しいガールズグループをつくりたいの」
「はい?」
翔ちゃんは足を止めて、
顔に「私に関係ある?」って書いてるよ。
苦笑しながら彼女の目を真っすぐ見て、
「翔ちゃんさ、もう一度アイドルになってくれないかな」
「え……」
戸惑うよね。ビックリするよね。私が翔ちゃんの立場だったら、おんなじような反応をすると思う。
それに、翔ちゃんは「もうステージに立ちたくない」と言ってアイドルを辞めた子だ。寒空の下、彼女が泣きながら感情を吐き出す場にいた私がこんなことを言うなんて、彼女にとっては想定外なんだろう。
「去年、咲羅と一緒に翔ちゃんの話を聞いたとき、感じたの。『この子はまだアイドルを続けたい』って」
私の思い違いだったかな。
言葉を重ねた私に、相変わらず翔ちゃんは立ち止まったまま、口を開こうとしない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます