第35話 記念日5/6

 てか、サイズピッタリなんですけど。

「いつの間に測ったんですか」

「内緒」

 はぁぁぁぁぁ。うちの子が策士すぎる。あざとすぎる。誰か逮捕してください。私も「内緒」連発したから、人のこと言えないんですけれども。


「ねえ樹里、私にもやってよ」

 ふわりと花がほころぶように笑い、右手を差し出してきた。

 おっふ。マジですか。私にそんな大役やらせちゃっていいんですか。

「ほら、早く」

 んんんん、もうっ。わかりましたよ。咲羅もやってくれたんだしね、私もやらなきゃ。

 手汗がにじんできた手を服で拭ってから、指輪を手に取る。震えてるけど、今度は咲羅は笑わなかった。じっと私の手の動きを目で追っている。

 彼女と同じように、ゆっくりと薬指に指輪をはめた。

「んふふ、これで離れていても寂しくないでしょ」

「うん。いつでも、さくちゃんが傍にいてくれる、そんな感じがする」

「にゃはっ。嬉しいぃ」

 幸せそうに私を見つめてくる彼女の顔を見ているだけで、私も幸せだ。

 今、この瞬間。私は、私たちは世界で一番幸せ者だ。


「あのね、私ね」

 右手をそっと私の右手に重ね、微笑みを浮かべたまま

「決めてたの。日本武道館ライブが決まったら、指輪を渡そうって。これなら、いつも身につけてたって、誰にもなにも言われないでしょ?」

「いや、言われると思うわ」

 冷静に突っ込む。

 気持ちは嬉しいんだよ。すっごく。

「なんでよ」

 ぷうっ、と頬を膨らませてもダメです。可愛いけどさ、ダメです。

「今まで『百合営業』って言われてたこと、知ってるでしょ。お揃いのペアリングつけてたら、これまで以上に言われるって」

「外野の言葉はシカト、OK?」

 わかるけども。その精神大事だけども。

「はいはい、わかりましたよ」

「適当に言わないでよー。絶対納得してないじゃーん」

 そんなことありません。一応納得してるつもりです。これでも。だって、なに言ったって咲羅は指輪を外すことを許さないでしょ。

 わかってるもん。何年貴女と一緒にいると思ってんのよ。物心ついたころから一緒にいるんだよ。恋人になるよりも、ずーっと前から。


 私が黙り込むと、咲羅は重ねていた手を一瞬離して、

「私の傍に、一生いてください」

 真剣な表情で、両手で右手を、今度は包み込んだ。

「なにそのセリフ」

 告白、じゃないな。

「結婚してください、って言ってるようなもんじゃん」

 照れ隠しにちょっと俯きながら言ったら、

「うん。そうだよ」

 駿ちゃんと松岡せんせーに触発されちゃった。てへっ。

 ちょっと舌を出して笑ったさくちゃん。

 おおおおおん。ド直球。バッター三振、アウト。無理、うちの子が愛おしすぎて無理。ホントにもう無理。

「樹里、全部声に出てるから」

「はっ」

 しまった。つい、心の声が全部出てしまった。最悪だあ。

「限界オタクだねえ、やっぱり樹里は。にゃはは」

 ねえ、顔上げてよ。

 そう言われましてもですね、顔真っ赤だから上げたくないんですよ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る