第19話 偲ぶ2
咲羅は手紙を見つめたまま、黙り込んでしまった。この席からじゃ彼女の表情は見えないけれど、その背中は震えていて。
あぁ、涙を堪えてるんだ。
だけどね、さくちゃん。泣いていいんだよ。こらえなくていいんだよ。
その想いが通じたのかはわからないけれど、マイクを通して彼女のすすり泣く音が会場に響き渡った。
「グループの柱となって、いつも支えてくれた瑠実さん。いつも遅くまで残って練習していた朱里さん、『自分は遅咲きだけど、こっから咲いてみせる』そう笑顔で言ったいた美亜さん。みなさんは、いつも強がっていた私にとって、支えとなってくれた。どんなに叩かれても、酷い言葉を投げかけられても、ステージに立つ勇気をくれました。もう2度と会えないけれど、あなたたちと過ごした日々は心に残っています。3人は、フィオにとって、ファンにとってかげかえのない存在でした。人は……人はいつか死にます。それはわかっています。でも、いくらなんでも早すぎます。もっと共演したかった。もっと、ステージに立っている姿を見たかった。それなのに、どうして先に逝ってしまったんですか。どうして、どうして――」
彼女が泣きながら必死に手紙を読み上げる姿に、私の頬を大粒の涙が伝っていく。
いつまでも悲しみを引きずらないように、早めに行われた今日のお別れ会。
私も咲羅も、今日で区切りをつけよう、そう思って、覚悟を決めてここに来た。でも、無理だよ。やっぱり受け入れられないよ。
咲羅がフィオでセンターを続けられたのは、間違いなく瑠実さんたちの存在があったから。自分を傷つけながらも、ファンの前に立てたのは、3人のおかげだから。
瑠実さんたちと一緒に練習した日々。部外者の私を受け入れてくれたみんな。
もう2度と会えない。
目をそらしていたその事実が、突きつけられる。
だけど、咲羅が言ったように、いつまでも彼女たちの存在は心に残っている。世間が忘れてしまっても、せめて私だけは覚えていよう。
前を向けなくてもいい。たまに後ろを振り返ってもいいから。
まだ受け入れられないけれど、それでいいんだよね。ゆっくり向き合っていけばいいんだよね。
咲羅のスピーチは続いている。私は
頑張って、さくちゃん。
いつもファンやメンバーの前では偽物の涙を見せる彼女。嘘つきで、性格が悪くて、フィオのことを泥船といったさくちゃん。
でも、今日彼女が見せた涙は、演技じゃない。そう思う。
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