第18話 ひと時の安らぎ
9月、私たちは4日の東京を皮切りに、神奈川、大阪、神戸、と毎週土曜日デビューライブをこなしていった。
そしてRoseは21日に待望の1stアルバムを発売し、無事に1位を獲得。歌番組ではデビュー曲とアルバムリード曲の『薔薇とは』を披露。27日の歌番組では、『薔薇とは』と『桜の咲く方へ』を披露し、大いに盛り上がった。
勿論、フィオの3人が亡くなってしまった悲しみを抱えながらではあるけれど、彼女たちは変わらぬ笑顔を見せ続けた。
それが3人への
9月28日(火)
咲羅の誕生日。普通にド平日だけど、今日は学校をズル休みさせてもらった。普段どんだけ忙しくても学校をほとんど休んでないんだから、別にいいでしょ。それに、これは私の誕生日プレゼントでもあるんだから。
私の方が先に誕生日がくる。毎年プレゼントを贈り合っていたけれど、今回は付き合って初めての誕生日。なにを贈ったらいいのか悩みに悩んだ咲羅は、「なにが欲しい?」率直に聞いてきた。
考えるのが面倒になったな、と苦笑しながら「誕生日プレゼントはいらないから、咲羅の誕生日がきたら2人でゆっくり過ごしたい」ってお願いしてあった。そしたら咲羅も「私もプレゼントいらないや。一緒にどっか行こ」。
だから今日は仕事も休み、学校も休んだ。私たちは朝から遊園地に行ったり、美味しいご飯を食べに行ったり、はしゃぎまくった。全然ゆっくりしてないな、これ。まあ楽しいからいっか。
3人が亡くなってそんなに日が経ってないのに不謹慎、と思われるかもしれない。でも、いつまでも悲しみを引きずっているわけにはいかない。冷たく聞こえてもいい。
明後日にはお別れ会があるんだから、どうせしまい込んだ悲しみを否が応でも引っ張り出される。事務所所属のボーイズグループも、SorelleもRoseも参加することになっているし、咲羅はグループを代表してスピーチをすることになってる。
だから、せめて今日だけでも苦しみを、悲しみを忘れて楽しんでほしい。そう思って、私はいつも以上にテンションを上げた咲羅を引っ張りまわした。
夕方。流石に疲れた私たちは、沈んでいく夕日を見ながらベンチに並んで座った。
「楽しかったねえ」
人目がないことをいいことに、咲羅は腕を絡ませてきた。いやまあ、人目があってもイチャついてくることは変わらないんですけどね。
「うん、久々に遊園地行ったし、美味しい物食べたし……もう大満足」
そう言った私の頬に、突然柔らかい感触。
「にょっ!?」
「にゃはは、大成功」
「ここ外――」
「人いないからいいじゃーん。にゃはは。樹里ってば耳赤くなってるよ」
そりゃ照れるでしょうが。急にほっぺにチュウされたら。
「んんんんんんっ」
うちの子があざとすぎる! 可愛すぎる! もう無理!
思わず顔を伏せる。そんな私の頬をツンツンしてくる咲羅。やることなすこと全部可愛いってどういうことなの。神様。
「にゃははは」
呑気に笑ってるなあ。それなら、
「にゃっ!?」
「ふふっ、お返し」
猫みたいな素っとん狂な声を上げながら、私と同じように耳を赤く染めた咲羅。いぇーい大成功。
「樹里ったら!」
「おっと」
絡めていた腕をほどいて、拳を振りかざそうとしてきたから、即行で避けて逃げる。
「待ってよお」
必死においかけてくるけど、あなた鈍足なのよ。アイドルに才能全振りしちゃって、運動神経皆無なのよ。
「待ちませーん」
私たちの追いかけっこは、咲羅がすっ転んで半泣きになるまで続きましたとさ。
はい、非常に疲れました。明日は筋肉痛確定です。
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