第8話 久しぶりの休日2/4

 そうして唐突に生まれた休日。といっても、学校があったから夕方から暇ってだけだけど。それでもお休みはお休み。

 昨日の夜から「明日はなにしよう」って考えていたけれど、なにも思いつかなかった。

 レッスンスタジオにいなくたって、家にいたら練習したくなっちゃう。外出すべきなんだろうなあ。折角晴れてるし。

 でも、どうしよう……咲羅はRoseの撮影でいないし。彼女がいなかったら、どこに行ってもなにを食べても、楽しくないし美味しくない。

 うーん。

 なにか興味を惹くものがないかスマホをいじっていると、ピロンとメッセージの通知。

 誰だろ。

 そう思いながら開くと、なんとなんと。

「華那ちゃん!」

 さっきまでの憂鬱な気分が一瞬にして吹き飛んだ。急いでメッセージを確認すると、【美味しいパンケーキ屋さんを見つけたので、今度一緒に行きませんか?】だって。

 うわあ、推しからのお誘い。嬉しすぎて鼻血出そう。マジで。

 あー、今日なら空いてるんだけどなあ。今度ってなると、いつ行けるかわかんない。6月入ったらそれどころじゃなくなるだろうし。

 そう思いながら【ちょうど今日空いてるんだけどなあ……華那ちゃんはレッスンあるよね?】と返信すると、電話がかかってきた。

 およよよ、何事!?

 慌てて通話ボタンを押す。

「樹里ちゃん!」

 いきなりの爆音ボイス。申し訳ないけど、耳が痛くなったから、スピーカーにして、スマホから距離をとって返事をする。

「はいはい、樹里ですよー」

「今日行きましょっ」

 なんと、まさかのお誘い。思わず目を丸くする。

「え、華那ちゃん用事はないの。レッスンとか――」

「今日は私もオフなんです!」

 言葉遮られた。まぁいいんですけど、ってオフなんだ。じゃあ今日行けるじゃん。

 この時間からパンケーキを食べるなんて、ちょっとクレイジーだと思うけども。

「じゃあさ、今日行っちゃう?」

「行きましょ行きましょ! この時間なら、お店空いてると思うんで。平日ですし!」

 成程。そりゃそうだ。クレイジーとか言っちゃってごめん。

「OK、じゃあお店の前で待ち合わせで良き?」

「良きです! それでは18時30分にお店で!」

 そう言うと華那ちゃんは電話を切った。おいおい、こっちの時間の都合は無視ですかい。

 いや、別に今から準備しても間に合う時間だからいいんだけどね……。人の話はちゃんと聞こうね……。


 待ち合わせ時間の10分前にお店へ行くと、バケハを被ってマスクをした彼女が立っていた。

 なんでわかるって? そりゃ推しだからさ、いくら変装しててもわかるんだよ――っていうのは半分嘘。

 私が彼女を認識したのと、彼女が私を認識したのは同時だったと思う。そしたら彼女が手をブンブン振って

「じゅ……松本さあああん」

 またまた爆音ボイス。今ちょっと樹里って言いかけたでしょ。やめてくれ。ここ結構人通り多いんだから。実際、彼女の声に反応して、通行人の方々が華那ちゃんの方をチラっと見ていた。

 苦笑しながら、

「お待たせ。あと、大声で名前呼ぶのやめよっか」

「うぇっ、すみません」

 勢いよく頭を下げたせいで、バケハが地面に落ちた。

 今日もクセの「うぇっ」は健在だなあ、と帽子を拾って彼女に手渡しながら思った。

「すみません」

「いや、いいよ。そんなに謝らなくて。あと、敬語禁止ね」

「うぇっ、あ、そうでし――そうだね!」

 相変わらず声は大きいけれど、いっか。そんなところも愛おしいわ。って、そんなこと言ってたら盲目信者って言われちゃうかな。

 それはおいといて、

「じゃあお店入ろっか」

「はいっ!」

「だから敬語ー」

 もう笑うしかない。でもいいんです。可愛いは全ての欠点を覆い隠すんです。だからいいんです……うん。

 私は苦笑しながらお店のドアを開けた。


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