最終話 平和な一日

 今日はRose新曲のMV撮影で、都内の撮影スタジオにお邪魔している。勿論私は咲羅の付き添いで。

 咲羅がスタッフさんと打ち合わせしているのを遠巻きに眺めながら、じっと私を見つめる視線を感じていた。

 先日のライブで私がアカ姉さんの代役を務めたことについて、よく覚えていないメンバーがいることは知っている。今まではレッスンやリハにいただけだから、みんなからそれほど意識されずに済んだ。

 でも、今回は別。普通だったら、フィオかRoseのメンバーが代役を務めるはずだもんね。アイドルの道に足を踏み入れたとはいえ、部外者の私が代役でステージにたつなんて、嫉妬されて当然。


 だからちょっと――いやかなり気まずくて距離をとっていると、咲羅と琴美さんがってきて、

「樹里も一緒に鬼ごっこやろっ」

「鬼ごっこ!? え、これからMV撮え――」

「いいからやるよ!」

 咲羅が私の腕を引っ張り、強制参加。私は別にいいけど、あんた衣装でしょうが! 万が一にもこけて衣装が破れたらどうすんのよ。自分が運動神経ゼロってこと忘れんな!

 そう言いながら咲羅を止めようとするけれど、琴美さんもノリノリで走り回りながら、全員を巻き込んでいる。

 おいおいおい、台風かよ。

 結局、私たちは何故かスタッフさんも巻き込んで鬼ごっこをした。その様子をしっかりと密着カメラと公式動画用のカメラが収めてました。

 因みに、鈍足No.1とNo.2の駿ちゃんと咲羅は秒で捕まってました。

 ドンマイ。

 一方私は、咲羅の声援を受けながら必死で逃げまくった。もしかして、私が気まずそうにしているのを見て、メンバー交えて鬼ごっこしようなんて言ってくれたのかな、なんて。

 まあ、そういうことにしておこう。物事は都合のいい方に解釈したほうがメンタルにいい。

 ヤバっ。考え事してたら鬼にタッチされそうになってた。


「樹里ー、ファイトー」


 笑顔で手を振る咲羅をチラリと見ながら、考えずにはいられない。

 咲羅はアカ姉さんに、アイドルが歩むのは『茨の道』と言った。血まみれになって歩いていかなきゃいけないって。それなら、咲羅が茨の道というなら、私が棘を全て取り除いてみせる。私が、花道だけを歩ませてみせる。

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