第13話 想いを伝え合う5/6

 咲羅はどんな気持ちでアカ姉さんの話を聞いていたのだろう。

 頬を伝った涙を拭って横を見ると、少し目を伏せて、

「聞いて。私ね、スカウトされたとき、アイドルになるつもりなんてなかった。だけど樹里がアカ姉を推してるって知って」

 チラリと私を見た後、アカ姉さんと視線を合わせた。

「嫉妬してアカ姉の、EndLessの動画を観たの。そしたらアカ姉推しになっちゃった。私、アカ姉に憧れてこの世界に入ったの。だから同じグループになれて幸せだったし、センターを任されて不安だった時も瑠実さんやアカ姉がいてくれるおかげで、ステージでは自信を持ってパフォーマンスができた」

 裏ではダメダメだったけどね、にゃは。

「だから、嫌われてるって感じたときはショックだった。でも、負けるもんかって奮い立たせてくれた」

 微笑んで言ったけれど、どこか寂しさを感じさせた。

 そうだよね。憧れた人から嫌われてるなんて、辛いよね。

 咲羅の目からもポロリと涙が一粒こぼれ落ちた。

「私はフリートークが上手くないから、LIVEの時とか歌番組に出演したときに上手く回してくれて、本当に助かってた。それに、フィオが1位をとれなかったとき、アカ姉さんはバラエティー番組で爪痕を残そうと頑張ってくれてた。だから……ありがとう。フィオを支えてくれて。本当にありがとう」

 涙をこぼしながら笑って言った彼女の言葉は、アカ姉の心に届いた。

「バカだよ、バカ。あんたをおとしめた私に『ありがとう』を言うなんて。バッカみたい」

 しゃっくりをあげながら言うアカ姉を、

「そんなバカバカ言わないでよお」

 涙で頬を濡らしながらも、立ち上がってアカ姉を抱きしめた咲羅が愛おしくて、2人まとめて抱きしめた。


「ねえアカ姉、ファンのみんなって『花道だけを歩かせたい』って言ってくれるでしょ」

 鼻と鼻がくっつきそうな距離で、咲羅は語りかける。

「でも、実際は茨の道ですよね。花なんてどこにもないって思えるぐらい。だけど、ファンの期待に応えるために、私たちは血まみれになってでもその道を歩いていかなきゃいけない」

 アカ姉も私も、静かに彼女の言葉に耳を傾ける。きっと、これは私にも語りかけているから。

「アイドルは青春をかけて、ファンに夢や希望を与えてる。それで救われている人がいる。だから、どんなアカ姉でも応援してくれるファンのためにも、アカ姉にここでアイドルを辞めさせるわけにはいかない。そんなの、私が許さない。それに、あんなことされて許せるほど、私は大人じゃない。でも、ケジメはつけなきゃいけないけど、辞めるだけが責任の取り方じゃない。最後までステージに立って。最後までアイドルにしがみついて」

 力強い口調と真剣な目に、アカ姉の瞳が揺れる。

「アカ姉は……アイドルなんてもう辞めたい?」

 その問いかけに、

「アイドルを続けたい」

 ハッキリとそう答えた。

 私と咲羅は目を合わせて頷いた。これから先、アカ姉には花道ではなく正真正銘の茨の道が待っている。

 だけど、アカ姉にその道を歩んで行く覚悟があるのなら。私たちで守ろう。事務所はきっと辞めさせる方向で話を進めるだろうけど、闘おう。

 そう考えていると、アカ姉さんがそっとカラダを私たちから離して、私に向き合った。

 え、なに。急にどうしたんですか。

 アカ姉さんはそっと戸惑う私の手をとって、

「樹里ちゃん、曽田プロデューサーには用心してね。あの人はアイドルを商品としてしか見ていないから、期限が切れたらどんな手を使ってでも捨てる。それに、咲羅への愛情は異常だよ。あなたが守ってあげて」

 お願い、そんな頭を下げられなくても

「勿論です」


 咲羅と結ばれるその前から、私は全世界の敵から彼女を守る覚悟は決めてます。だから大丈夫です。

 そう伝えると、彼女は何度も見せてきてくれたアイドルスマイルで――涙で顔はぐちゃぐちゃだったけど、笑ってくれた。

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