第13話 想いを伝え合う6

 そのとき、私のスマホから着信音が聞こえてきた。こんなときに電話? 一体誰だろうと思って画面を見ると、

「ん、琴美さん?」

 いつもはメッセージなのに電話なんて、急用だろうか。でも、今は……。

「「出なよ」」

 出ようか出まいか悩んでいると、咲羅とアカ姉さんが同時に言った。

 結局2人は憎しみ合っていても仲良しなんだよ。フィオで共に約5年間努力してきた2人の絆は見えにくいけれど、たしかにあるんだよねえ。


 よし、出るか。

 通話ボタンを押すと、

「やっほー」

 何故かビデオ通話だった。画面の向こうで琴美さんは手を振っている。

 疑問に思いつつも、一応こちらもビデオ通話にする。

「今、私がビデオ通話にしているから仕方なくそっちもビデオ通話にしたでしょ」

 笑いながら言われました。琴美さんには全てお見通しでした。

「はい」

 苦笑を浮かべながら返事をすると、

「まっ、そんなことはおいといて」

 おいとくのかよ。

「咲羅ちゃんのママに関する記事、出ちゃったね」

「出ちゃいましたね」

 なるほど、今回の電話はそれに関してか。

「咲羅ちゃんそこにいる?」

「いますよー」

 画面に映らないところから咲羅が返事をする。なんでだよ。こっちに来なさいよ。

「んじゃあさ、ちょっと聞きたいんだけど。公表すんの? しないの?」

 ド直球にきたな。いやまあ、それ以外に聞きようはないんですけど。

「……しようと思ってます。別に嘘じゃないし、もう隠す必要はないかなって」

「ほうほう」

 たしかに、今公表しても「親の七光り」とは言われないだろう。もしかしたら、咲羅ママのマネージャーが曽田さんだったこともバレて、そっちで叩かれる可能性は高いけど。

「じゃあさ、こうなったら、みんなで母親がアイドルだったって公表しちゃおっか!」

 はい?

「あっ、それいいですね」

 待った待った。ちょっと急展開すぎて頭がついていかない。

「樹里ちゃんもそれでいい?」

「えーっと……」

 うん、白状するけど私のお母さんもアイドルでした。あんまり売れなくてすぐに辞めちゃったけど。ついでに言うと、琴美さんのママも。全員ソロで同じ事務所。活動時期はちょっとしか被んなかったみたいだけど、短かったからこそ仲良かったみたい。「もし私が売れて長く活動してたら、バチバチしちゃってたかも」ってお母さんは昔言ってた。

「でも咲羅のママとはレベルが違い過ぎて」

「そんなの関係ないって」

 また画面の外から咲羅が言った。だからこっち来なさいって。

「そうそう。あ、折角の機会だし『ママはアイドル』って曲でも作ってもらおう」

「いいですね! それ」

 待ってってば。私をおいてきぼりにして話を進めるな。

「ねえ、いいでしょ? 樹里ちゃん」

 そんな懇願するように言われたら……

「わかりました! わかりましたよ!」

「「いぇーい」」

 なんでそこでハモるんだ。アカ姉さんが苦笑してんぞ。

「じゃあ、今日の夜にでもSNSで発表しちゃいますか」

「了解でーす」

 ゴリ押しされてしまった感は否めないけれど、多分これで良かったんだろうな。

 あははは、とあっけらかんと笑う琴美さんを見ていると、なんだか心が楽になった気がした。

「ありがとうございます」

「お礼言われるようなことはなにもしてないから」

 それじゃあ、バイバーイ。

 そう言うと即電話が切られた。


 はあ、心は楽になったけどなんだか疲れた。そんな私を慰めるように、アカ姉さんがポンっと叩いた。

 気を遣わせちゃってすみません……。

「よし、じゃあラスボスと対峙しますか」

 いつの間にか私の隣に立っていた咲羅が言う。

 ラスボスって、

「あぁ、曽田さんか」

「そうだよ。樹里、闘いは今からだよ」

 アカ姉さんの顔が一瞬にして強張こわばった。

 私が頷くと、咲羅はドアを開けて廊下にいた彼らに声をかけた。

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