第8話 向き合うべきは自分3/4

 やっと言えた。言ってしまった。けれど、心が少し軽くなったような気がする。

 そんなことを考えていると、

「わっ、えっ、泣かないでよ。さくちゃん!」

「ううううううう……」

 ボロボロと大粒の涙を零し始めた。

「やっと、やっと決断してくれたのが嬉しくって」

 ヒック、ヒック、としゃっくりを上げながら言うから、席を立って彼女の隣に座りなおして背中をさする。

「ごめんね、ずっと待っててくれてたんだね」

「待たせすぎだよおお」

 言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングで抱き着かれる。涙で肩がしっとりと濡れていくけれど、なんだかそれがちょっぴり嬉しい。

 私も咲羅の背中に腕を回して、優しく抱きしめる。すると、

「あっ、樹里は私の隣だからね。ユニットだからね、グループに入るとか認めないからね」

 勢いよく顔を上げたかと思うと、一息で言われた。いや、こんなとこで持ち前の肺活量披露しないで。無駄遣いだから。

 え、というか

「ユニット?」

「それしかありえないでしょ!?」

 肩をガッと掴まれて言われるけど、そうなんですか?

「だって咲羅、フィオもRoseも兼任してるし……あ、でも兼任解除になるんだよね」

 そう、Rose1期生として活動してきた咲羅と瑠実さんが兼任解除になったことは公式動画で告げられていて、瑠実さんはフィオに戻るって既に明言してる。対して咲羅は、どうするのかまだなにも言っていない。


「うん、私はRoseに残る」

 そっか。フィオは卒業しちゃうのか。いちファンとしてはフィオの顔ともいえる彼女がいなくなってしまうことに、寂しさを感じずにはいられない。まあ、どっちのグループを選んだとしても一抹の寂しさは感じたんだろうけど。

 11歳から活動してきたフィオを卒業するっていうのは、彼女にとって大きな決断だったんだろうな。


「いや、それでもグループ活動、ソロ活動、廉くんとのユニットがあるじゃん。それに私とのユニットが加わったら、完全にキャパ――」

「大丈夫。グループ活動については、もうそろそろ終わりにしようと思ってるから」

「はっ!?」

 待って待って待って。今爆弾発言が出ましたけど!?

「Roseには残るけど、年内には卒業するつもり」

「……それ、誰かに相談してる?」

「うん、曽田さんにだけ」

 そうですか、私が2人目ですか。ちょっぴり嫉妬するけれど、他のファンよりも先に知れたことは嬉しいような、嬉しくないような。


「私には樹里さえいてくれればいいの」

 熱のこもった瞳でそれを言われちゃったら、もうなにも言えないよ。というか、胸がドキドキしちゃうからやめて。

 思わず視線を逸らすと、咲羅は私の肩から手を離してコーヒーを一口飲んだ。そしてそのまま前を向いたまま

「私は樹里のためだけにアイドルをやっていきたい。それに、樹里が私以外の誰かの隣にいるなんて許さないんだから」

「熱烈な告白みたいなセリフやめてよ。なんかドラマかアニメみたいだよ」

 何度見ても見飽きない、綺麗な横顔。私を惑わせる美しい貴女。

 あまりにも真剣な口調で言ってくるもんだから、思わず茶化してしまう。そんな風に言われたら、私が心の片隅に隠した気持ちが出てきそうになっちゃうじゃん。


「本気だよ、私は」

 今度はこちらを向いて言われてしまった。図らずも見つめ合う形になるけれど、咲羅の瞳の奥に見えた熱に、心がうずいた。

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