忍者な生活

t studio

第1話 忍者の末裔

 屋上から眺める夜の街並みは綺麗だ。

 そこら中に光が漏れていて、闇夜に紛れるにはちょうどよかった。都会の夜は本当に眠らない。

 ぼくは、黒装束に身を包み、ビルからビルへと飛び移った。

 誰もぼくの存在には気がつかない。

 電気の消えたオフィスビルの窓にぼくはカエルのようにひっついて、遠くの建物に目をやる。

「さて、仕事を始めますか」

 ぼくの目的はこの街の博物館へ行くことだ。ここからだとだいたい一キロほどだろう。

 ぼくは博物館に保管されているご先祖様の秘伝の巻物を取りに行く。

 要するにぼくは、自分の物を取り返しに行くのだ。

 ぼくの家は代々忍者の家系だ。当たり前のように忍術を習う生活を送ってきた。普通の生活に忍術がある物だから気を抜くと学校でも忍術を出しそうになり、怪しまれることがあった。

 ぼくの師匠、つまり父親なのだけれど、科学者をやっている。忍者とは相反する職業だけれど、そのおかげもあって父親は新しい忍者のスタイルを築いた。

 忍術と科学の融合。

 新しいスタイルのおかげでぼくはこうして力いらずでビルの窓にひっつくことができているのだ。ちなみにぼくが着ている黒装束も夜の闇と一体化できるように父親が作ってくれた。夜と同化できる上にすごく軽くて動きやすい。任務に最適。

 

 夜の街は週末ということもあっていつも以上に活気にあるれていた。とういうか、大人たちが浮かれていた。浮かれている大人たちは決してビルの窓なんかを見ることはない。ましてや週末の夜に博物館に向かう人たちなんて知れている。

 せっかくこんなオープンに忍術を披露しているのに。やはり現代人は忙しい。


「よし、移動するか」

 煌めく街並みを堪能したのでぼくはビルの窓から飛んだ。

 父親の発明したこの忍具は、”カエルくん”と名付けられた。安定した粘着力であらゆる壁や窓に対応しているが、その場から離れる際は不思議なことに踏ん張ることもせずにおもいのままに移動することができた。

 父親にどういう仕組みか尋ねてみたが、企業秘密だとのことだった。

 だったらせめて忍具のネーミングだけはなんとかして欲しかった。まあ、誰にも言うことはないのだけれど。



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