第4話 ”伝説へと繋がる道”
「これより、パーティー ”伝説へと繋がる道”の叙勲式をする。パーティーリーダーのフレイル・カラーは前へ」
フレイルがパーティーを代表して壇上に上がると、壇上では宰相が賞状を読み上げている。
なぜこんなことになってしまったかというと、話は一月前に遡る。
* * *
「次はどんなクエストやる?」
一応、パーティーリーダーとして俺が話題を振ることにしてる。正直このパーティーで僕の出来ることなんてそんなものだ。昨日はアルゲン君のやらかしで王都に戒厳令が敷かれ、王都の冒険者ギルドからの直接依頼で異常の調査をさせられた。この王国にいる白金級冒険者の6/7が僕らのパーティーに所属しているわけだし、他の上位パーティーは最近頻発する異常のせいで王国各地で魔獣討伐しに回ってるらしくて、王都にいるのは僕らくらいだ。
むしろ、王都の守りを考えると僕らが王都を離れるのすら不味いかもしれない。まぁ、安心して欲しいのは僕がこの建物から離れたがらない限り僕らのパーティーがどこかへ行くことはそうない。
「じゃあ、隣国のアムール帝国行きませんか?あっちのダンジョンには面白い薬草や鉱石が産出するらしいんですよ!!」
王都にいようと思ってるのはパーティーの中では僕くらいなのかもしれなかった。
「サリーお姉ちゃん、最近だと国境の警備が厳重らしくて手続きだけで一ヶ月くらいかかるみたいよ」
アリーがサリーをたしなめてくれた。
アリーとサリーが名前が似てるのは、二人が姉妹だからだ。お母さんの名前はマリーと言う名前で似たような名前が代々女子の子孫に引き継がれているらしい。
「そこまでして欲しいものではないですねぇ」
サリーは残念そうにしていたけど、何か欲しいものでもあったのかな?
「サリーは国内で手に入る素材だと何か欲しいものないの?」
サリーは一瞬考えたような仕草をすると、「しいてあげれば、ドラゴンくらいですかねぇ」というがドラゴンがよく見つかるような活火山は国境を二つ越えた遠い山脈まで行かないと存在しない。大体、しいて上げレバってなんだよ?ドラゴンだぞ。
サリーが言ってるのは以前に王国内によそからやってきていくつかの村や町を壊滅させていったドラゴンのようなのを指してると思うのだけど。ドラゴンと共存しているというドラグナー公国でもないのに、こんな頻度でドラゴンが現れたら王国が滅亡してしまう。
「ドラゴンが見つかったっていう話は来てないとおもうけど、ステインどう?」
ステインがマジカルパッドを眺めて確認している。
「あるわよ。確定情報じゃないから情報は表に出回ってないけど、ドラゴンらしき魔獣を見かけたという報告があがっているわね。現在、王国騎士団が派遣されて確認してるところね」
サリーは少し興味がありそうなかおをしているので、僕は他のメンバーの様子も確認してみるが、みんな興味があるようだ。
「じゃあ、みんな。次の目標はこのドラゴン退治で良い?」
全員が頷くのを確認して、僕はステインに王国騎士団への根回しとかをお願いして、会議は終了した。
* * *
「とりあえず、ドラゴン退治ならブレス対策をしないといけないけど、まだどんな種類なのかもわかってないし、そういうのは対策できないなぁ」
僕は自分の部屋(聖域)に戻ると頭を抱えていた。
ドラゴン退治に行くと言うことで話は決まったものの、僕はこのパーティーにふさわしくないほど弱いのでどうにか自分の身くらいは守らないといけない。
「この前のメデューサは魔眼封じを持って行けば、あとは近づかなければどうにかなったけど、ドラゴンだと遠くにいてもブレス打ってくるからなぁ」
ドラゴンの特徴は固すぎて攻撃の通らない鱗と大空を舞う翼、そしてブレスだ。先輩冒険者と話したときにドラゴンの何が困るかと聞いたら全員が口をそろえてブレスだと言った。
鱗は攻撃が通らなくて困るけど最悪逃げれば良い。
翼は長所でもあるけど空を飛んでいるときに翼を傷つけられると飛んでいられなくなってしまう。
そもそも、ドラゴンの巨体が飛ぶには翼が小さすぎるそうで、実際にはドラゴンの翼は魔法器官のような物が翼全体で構成されているのだそうだ。だから、ドラゴンは翼を傷つけられるのをいやがるし、翼に傷を付けてやると逃げていく。つまり、翼は弱点でもある。
対して、ブレスは種類によって異なる種類の属性のブレスを最長で1km先まで飛ばすことができる。老竜になればその威力やブレスの種類も多くなっていく。
だからこそ、ドラゴン対策と言えばブレス対策と言っても過言ではないのだ。
とはいえ、ブレスの種類がわかれば魔法具で加護を得ることで、ブレスの威力や速度を弱めることができるが、今回はそれができない。
「全属性防御の加護は弱い割に値段が高いしなぁ」
「そういえば、前良いの買ったような」
僕はベッドの下にしまってある道具箱をガサゴソ探り、やっと目的の物を見つけた。
「これだ。ドラゴンスレイヤー」
* * *
白金級になってすぐ、ある事情でスピード昇格した僕の周りには妖しげな人が多くいた。完全にカモだと思われていたんだと思う。
彼らのほとんどは今では縁が切れていて、中には詐欺罪で捕まった人もいた。
当時の僕はほとんど実績がなかった割に、白金級になったときの褒賞やらで無駄にお金だけはあったので、後で考えると一生分騙されたと思う。
正直、僕だけだったら今でも騙されて良いように使われていたかもしれない。今の僕がいるのは途中でアリーがパーティー(と僕のお金)を管理してくれるようになったからだ。
あのとき、ステインが私がやるって、猛反対したんだけどステインは剣しかできないから、ステインがやっていたらやっぱり今なお騙されていたかもしれない。
今の僕があるのはみんなのおかげだと思っている。
それはともかく、そのときに僕が騙されて買った物の中にドラゴンスレイヤーというのがある。
ダンジョンから見つかった物で、名前は剣に彫られた銘からだという。鑑定師によると、大量の魔力を孕んでいるが普通に使った分には弱い肉体強化の効果があるくらいだ。
しかし、僕が買ったときに受けた説明では、大量の魔力を持ち、ドラゴンに対して使うと絶大な威力を発揮するはずであり、白金級の冒険者が持っておくべき逸品であると言われた。
ドラゴンなんて恐ろしいものに対してそんなに有利の得られる武器があるとはと僕は喜んで買ったけど、実際にドラゴンの前で抜いたときには特に役に立たない剣だった。そのときは、偶然倒せたもののこの剣に頼った作戦を立てていたら危なかった。
そのとき、僕は騙されていたことに気付き、この剣を売った商人のところに行ったが、彼らは欲張って逃げ遅れて、ドラゴンに焼かれて死んでいた。
* * *
それから、この剣はドラゴンスレイヤーと言う名前がついているだけのただの魔法剣だと思っていたのだけど、サリーがその戦闘時の記録を確認していたら、この剣がドラゴンが近くに現れてきてからゆっくり魔力が上がっていたことがわかったらしい。
一般に使用条件の厳しい魔法具の一種には一部の使用条件が達成されそうなときに魔力が上がっていく現象が確認されている。これは実際に使用条件を明らかにするときにも使う方法で、ドラゴンスレイヤーが何らかの原因で使用条件が満たされていなくて一部の機能だけが解放されている状態だということを示している。
「とはいえ、ドラゴンが近くにいればよいということがわかっているだけじゃ、これに頼るのもなぁ」
もう、これなら、風邪をひいて休むしか―
コンコン
ドアがノックされる音がすると扉が開いてステインが入ってきた。
「ステイン。どうかした?何か問題でも起きた?」
「目をキラキラさせても特に問題は起きてないから。そもそも、そんなに行きたくないなら、次どうする?なんて提案しなければ良いのに」
ドラゴン討伐が中止になったのかと期待していたが、そうではないらしい。
「それじゃあ、それこそどうしたの?」
「そろそろ、ステインが不毛な努力をし始める頃かな、と思って」
む、不毛とはなんだ。風邪をひけば行けなくてもしょうがないかで済むじゃないか。
「なんとかは風邪を引かないとかで、全然風邪引かないじゃない」
「僕は馬鹿じゃないし、怖いから高いところにも登らないぞ」
まぁ、馬鹿かは置いておいても、高レベルになると病気に強くなるらしくて、他の物には弱くても、僕が病気になったことは一度もない。
前の冒険と前の前の冒険の前にも氷風呂に入り続けて、身も心も凍るような思いをし続けたにもかかわらず、全く風邪を引かず。終いには修行だと勘違いした案内役の冒険者が同じ事をして、風邪をひいてしまい出発が遅れた。
その冒険から帰ってきた後、その人から「まだレベルが足りなかったみたいです。修行して出直します」と言われた。それからその人は見かけていないから、どこか別の場所でレベル上げにいそしんでるのだろうか。
ともかく、
「たしかに、僕は風邪を引かない、引いたことがない。とはいえ、努力は裏切らないと言う言葉もたしかにある。これまで風邪を引けなかったのは運が悪かっただけなんだ。きっと、次はしっかり風邪をひいてみせる。そのために今度はスラム街に行って風邪っぽい人をたくさん集めて風邪をうつしてもらおうかと思う―」
「それを無駄な努力というの。それから、そういう恥ずかしいことを外でやらないで、白金級冒険者の名前に傷がついちゃうでしょ」
うぐ...
「なら、どうすれば良いんだよ。僕はレベルこそ高いし、白金級冒険者だけど、無茶苦茶弱いし、何かができるわけでもないんだよ。ドラゴンに勝てるわけがないじゃないか」
「そんなフレイルに朗報よ、それを伝えに来たの―そんな救世主キタコレみたいな顔しないで」
朗報?もしかして、ドラゴンじゃなくて、ドラゴン型の人形だったとか?ドラゴン型の家だったとそういうの?
「あのドラゴンね、エンシェントブルードラゴンだったってのがわかったの。これで、属性がわかったからたいさくできるわね。あと、そのドラゴン、今王都に近づいてるみたい。だから、風邪引いても無駄よ」
それだけ言うと、ステインは扉を閉めて部屋を出て行った。
「いや、いやいやいや、何が朗報だよ」
たしかに、属性がわかったから、その属性のブレスを防ぐための加護を持った魔法具は用意できるよ、でもさそれは普通のドラゴンだったらの話でしょ。
エンシェントドラゴンって普通のドラゴンから更に齢を重ねたエルダーより更に古くからいて、この世の神とも等しいと言われる存在じゃん。
そんなの、どうしようもないじゃん。人間の道具でなんとかできる限界を超えてるよ。
夜逃げか?夜逃げしかないのか?
でも、逃げた先で、王都の英雄がよその街に逃げていたなんて話が広まれば、どこにも居場所がなくなっちゃうよ...
「もう、しょうがない。腹を決めてドラゴンスレイヤーに賭けてやる。ドラゴンスレイヤーが上手いこと発動すれば神をも傷つける攻撃ができるって話だし、これに賭けるしかない」
そうと決まれば、決戦だ。
作戦を考えよう。僕が一番戦わなくて良くて、周りのみんながどうにかしてくれそうな作戦を、
そして、僕はなんとしても生き残って見せる!
扉をノックする音が聞こえると、下の階から戻ってきたステインが顔を覗かせた。
「フレイル。そういえば、ドラゴンが来るの、大体一月後位みたい。あちこちで止まっては進み、止まっては進みをしてるみたいで、私たち”伝説へと繋がる道”は王都で待ち構えて、もしもドラゴンが来たら、王都市民の避難の時間稼ぎか退治をしてほしいみたい」
「こんな恐怖をあと、一月も味わえというのか」
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