フラッシュはご遠慮ください

醜いと思いませんか?僕は確かに何人も殺しました。理由ですか?邪魔だったからです。いや、勿論もっと詳しく説明はします。ここだけメディアに切り取られて使われるかもしれませんが。…お怒りのようですね。至極もっともな気持ちです。僕はあの時、あなたと同じ気持ちでした。激昂しましたよ。皆が日和見の外道であったのです。この世の何もを恨んでいました。大通りでの首吊り自殺を誰も止めない。写真を撮る有様。人の人生はエンターテインメントだと笑う癖に、自分はもう許されたつもりになっているんですから。自分が死ぬときに笑われるなら笑えばいいんですよ。皆の死顔を見ましたか?検死の方はもうご覧になったと思います。苦しそうに、驚いて、何も分からないで死んでいましたね。死んだ誰もは、死に方さえ違いますが、きっと寿命で死ぬ時もそんな顔をしているはずですよ。…お怒りにならないでください。分かりもしないくせにほざくなと、そのお気持ちは勿論正しいですが、人の死を笑うような人間が、人の死ぬ様を写真に撮る輩が、自分の情けなさに気付けると思いますか?最後の最後、とどのつまり、今際の際に、ようやく自分の人生がいかにくだらないかを思い知らされて死ぬんです。そういう人たちなんです。でもやっぱりかわいそうですね。きっと皆、不都合から逃げるのばかり得意だったんでしょうから。自分の弱さを認められないで死んだんですから。…死んだのは僕のせいです、それは勿論です。でも気づけませんよ、どうせ。死ぬまで。だって間違ってない、自分は正しいと思ってるんですから。僕は法によって裁かれるべきです。ですから自首しました。少し後に、現場に皆さんの仲間が来たと聞きました。その時僕がいなかったのは、近くのお巡りさんに既に自分がしたことを話して、捕まえてくれと頼んでいたからです。…そうです。はい。僕が周りにそう言いました。お前らが死ぬべきだと。僕も随分みっともないですね。でもあの場の皆より劣っているとは思いませんよ。あ、だからって決して優れてもいません。誰でもそれはよく間違えるんですよ。何ででしょうね。ところで、あなた達が現場について状況を聞いた時、自殺しそうになった人じゃなくてその場にいる他の生きてる人を心配したそうですね。僕はその点だけが納得いかないのです。生きてたってどうしようもないじゃないですか、そんなの。…あ、写真撮影してたことは聞いてなかったんですね。そうですか、すいません。つい感情的になってしまいました。…はい。僕はまず、皆が写真を撮っているのを見つけました。それで、何かあるんですか、と一番後ろの人に声をかけました。その人は、誰かがどうやら死にそうなんですと言いました。見せてもらうと、確かに縄か何かを持って立ちすくむ男性の姿がありました。そこで、近くのホームセンターに駆け込んで、包丁と高枝切りバサミを持ち出しました。お金は払っていません。そこから元来た道を戻って人混みに辿り着くと、まず一番後ろの人を刺しました。前に倒れそうになったので、襟首を掴んで後ろに引いてから、その前の人を刺しました。その人も倒れました。僕を中心に輪ができて、僕が進むと皆離れていきました。高枝切りバサミで男性の首の縄を切って男性が落ちてきました。僕は先ほどの言葉の通り、お前らが死ぬべきだと言いました。人は散り散りになりました。僕は念のため119で男性のことを伝えてから、自首したというわけです。…僕は狂っていますか。狂っているとお思いですか。携帯で写真を撮る人は、狂ってないのですか。でも、僕だけが狂っているわけではないはずです。彼らはもう、僕と大差ない人殺しです。いや、最早僕よりも下劣な生き物に成り下がったかもしれません。端末には善も悪もなくて、ただ使う奴が悪いだけです。人には差なんてなくて、行動が重なって差に置き換わるだけです。法的には僕は罪人ですが、間違っているとは思いません。だからこんな風に、堂々と話しているわけです。腹さえ空かせています。…反省ですか?制度や基準についてはよく分かりませんが、僕は死刑になって然るべきです。殺しをやったんですから。殺したら殺されるべきです。このような意味の法的な反省でしたら、甘んじて受け入れるつもりです。気持ちの上では、そういった気持ちはありません。ただ人を殺して、ただ僕が自首しただけですから。…人の心があるのか?写真を撮ってた人に聞いてみてくださいよ。そのほうがいいですよ。…ちょっと待つことになるんですね。分かりました。

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