第44話 和の國の現状
若と呼ばれた男の出自にホルスとルナが驚いている間に戦闘は終わった。倒されたタコの魔物は巨大な魔石と1本の触手を残して消えていった。
巨大な魔石を残したということは、タコの魔物は強い魔物だったのだろう。だがホルスたちには魔石は見えておらず、若と呼ばれた男しか目に入っていなかった。
「ハッハッハ!!歯応えがある相手だったぞ爺」
「若は自由が過ぎまする」
「ガハハ!某は自由を好む。この気持ちは爺でも止められぬぞ!」
出会って間もないホルスたちから見ても爺と呼ばれた男の苦労に同情せざるを得なかった。それほどに若と呼ばれた男は自由だった。戦闘を終えてからも、爺と呼ばれた男を振り回すかのようにタコの魔物のドロップ品である触手をかじっていた。
「うむ、不味い」
「若!クラーケンの触手なぞ噛んではいけませぬ!!」
ホルスたちと話していた頃の冷静さはどこへ行ったのやらと思うほどに彼は振り回されていた。それほどに自由を求める者を止めるのは難しいものなのだろうとルナは思っていた。
二人のやり取りを見ている間に戦闘を終えたトラファルガー船長がホルスとルナの元へとやって来た。
「あの二人の事が気になるのか?」
僕らの目の前に立つトラファルガー船長は遠くで見ていた時よりも身体が大きく見えた。遠近法を考えれば当たり前なのだが、近くにするとその肉体の圧が凄い。
「はい」
「あの二人は協力者を――ってアイツらのことを俺が話すのは筋じゃねぇからな。俺が仲介してやるから自分の口で聞きな」
自分から気になるかと聞いてきたのにも関わらず、『自分で聞け』とは彼もかなり自由な人間なのだろう。
「すいません、どうして和の國の要人であるお二人がヨウフランに行っていたのですか?」
「む、爺よ話したのか?」
「ええ、儂の判断で話しました。彼らなら我らの目的に賛同、協力をして頂けると思い」
「爺がそう判断したのなら、そうなんだろうな」
若と呼ばれた男は爺と呼ばれる男のことを信頼をしているのか、事情を聞いたら直ぐに納得していた。人のこと、それも自分よりも身分が下の者のことを信頼するのはよっぽどの事がないと出来ないものだ。きっと爺と呼ばれる男は何かしらの実績を積んでいるのだろう。
「もし事情を聞くのなら、某の目的達成の協力者になって貰うが、それでもよいか」
王の器と言うのだろうか、彼の質問には有無を言わせぬ圧が感じられた。その圧で事情を聞かないという選択はホルスの頭から消えていた。
「はい」
「うむ、では話そう。爺からも聞いたと思うが、某は和の國将軍徳川義満の息子である徳川義昭だ。ちなみにそっちの男は某の教育係である井伊長慶だ」
「義昭さんと長慶さんですね」
「うむ、そうじゃ。話が逸れたが、某がヨウフランに訪れている理由……そもそも某が訪れたかった街はヨウフランでなければいけない理由はない。某の目的はただ1つ、父上……将軍徳川義満の失脚、それに伴い某が征夷大将軍になることだ」
「……義昭さんは将軍の息子だから、父親が失脚しなくともいつかはなれるのでは?」
「そうだな……じゃが、それでは意味が無い。某の目的は将軍になることではなく幕府の終幕、すなわち倒幕だ」
彼の願望は将軍家の考えとは思えぬ程に異端だ。それも次期将軍である男が倒幕を望むなど前代未聞だ。
「倒幕を望むなら倒幕派筆頭であった立花誾を手伝った方が使用率があったのでは?」
「確かにそうだ」
トラファルガー船長と話していたルナが義昭に質問をした。
立花誾とは前将軍を暗殺し、倒幕派を纏めあげて倒幕を画策していたが、将軍に即位した徳川義満の手腕によって倒幕は防がれてしまった。倒幕派は挙って処刑されたが、立花誾は国外に生き延びて、現在は闇ギルドに所属している。
「だが、奴と某の思想には全く違う点がある。奴は徳川家に成り代わり国を治めるつもりだった。だが某の目的は将軍の位を皇帝に返還し、王政に戻すつもりだ」
現在の和の國の政治は将軍家によって行われているが、国のトップは違う。和の國のトップは、初代皇帝から約100代続く家系だ。しかし皇帝は名だけのトップであり、権威はあっても権力はほぼ無いに等しかった。それを義昭は良しとせず、皇族の権力を戻そうとしているのだ。
皇族に権力が戻るメリットは魔物や外国への対抗での団結力だろう。現状、将軍家だけで国を治めるのは難しいので、ある程度の自治権を有力大名に与えているため、国が纏まって動くことが不可能に近い。しかし皇族に権力が戻れば、元々ある権威と権力を使えば大名らも従うだろう。
デメリットがあるとすれば、長年皇族を不遇な扱いをしてきた徳川家の取り潰しが行われる可能性だ。
そこを考えて義昭は父の失脚を自分の力で行い、自分は徳川家と決別したことを皇族に伝えるのだろう。
「皇族による王政が行われるようになったら、まずは貿易の拡大と海軍の創設を提言するつもりだ」
現状和の國は島国にも関わらず、海軍が大名の子飼いの海賊衆が主なのだ。そんな海軍では外からの圧力には打ち勝てないからこそ、彼は国を1つにして外の圧力に勝つことを望んでいるのだろう。
「ここまで聞いて、主らは某に協力してくれるか?」
ホルスらが出した結論は……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここからはあとがきです。
応援や評価をして頂けると創作意欲に繋がりますので時間があればお願いします。
フォローや感想もして頂けると嬉しいです
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます