第43話 嵐
翌朝、ホルスたちは事前に予約しておいた和の國までの定期便へと乗り込んだ。
彼らが乗る船は戦列艦と呼ばれるかなり巨大な戦艦である。定期便に戦艦が使われている理由はヨウフランから和の國までの海域は強力な魔物の縄張りがあるため、ただの客船では一瞬で破壊されてしまうからだ。そのためこの船には魔道具先進国である魔道王朝『マギア』から仕入れた旧式の魔道砲が十門積まれている。
「うっ――」
「吐くならトイレに吐いてね」
「……ごめん行ってくる」
1番酔わなそうなミラが船酔いをしていた。酔ったミラを心配そうに見つめているメルティーナにルナはとあることを聞いてみることにした。
「ねえメルに聞きたいことがあるんだけど」
「ん?どうしたの?」
「ミラの生まれって……」
「流石プルート旅団のリーダーだね。ルナが思っている通りウチのリーダーの出自は――」
メルティーナの言葉にルナは驚かなかった。それはプルート旅団全盛期の頃、彼女がまだ幼い頃にミラの母に会っているからだ。
彼女の母はかなり規模の大きい旅団の団長であり、影響力のある母のせいで彼女の幼少期は成長を望めるような人生を歩めなかった。だからこそ彼女は母の旅団には所属せずに独り立ちして自分のパーティーを作ったのだ。
「私が話したことはミラには内緒にしてね。私が怒られちゃうから」
「分かったよ」
ルナと別れたメルティーナはトイレへと向かったミラを追った。メルティーナの後ろ姿を眺めていたルナだったが、その背中を何処かで見たような気がしていたが思い出せなかった。
◇◇◇◇◇◇
比較的に緩やかな海だったが、前方から来た雷雲のせいで一気に海は大荒れになった。しかし大荒れの海であるにも関わらず船内では特に揺れを感じなかった。流石ヨウフランの退役軍人と言えるだろう。
しかし船の扱いが上手かろうと避けられないことがあった。それは海に潜む魔物だ。海にいる魔物を探知する魔道具を積んではいるが、船の真下に来られたら死角となり反応が遅れてしまう。今回の襲撃は運悪く真下からの攻撃だった。
真下からの攻撃を食らった戦艦は大きく揺れた。嵐にも関わらず全く揺れていなかった船が大きく揺れたことにホルス冒険者や着物を来た者は警戒し、ミラは酔いが悪化して更に吐いていた。
「何かあったのかな?」
「下から押し上げられるような衝撃だったから……魔物かもしれない……」
ルナの予想通りなのだが、相手が海を主戦場とする魔物である以上、海での戦闘を経験したことのないホルスたちでは対処出来ない。そのためこの戦艦の船員に任せるしかない。
「魔物じゃと?なら
「お待ちください若!!」
近くで二人の会話を聞いていた着物姿の少年と初老の男らが甲板に繋がる扉へと走って行った。
「あの二人って和の國の人間ですかね?」
「ここら辺では見ない服だし、そうだと思うよ」
「こんな嵐で大荒れの甲板に出て大丈夫でしょうかね?交友関係的にも」
確かにそうだ。この船はヨウフラン所有の船とはいえ、ヨウフランはワシンド所有の街なのだ。そんなヨウフランの船で和の國の人間のみが死亡したとなればワシンドと和の國の国交に大きな溝が出来てしまうことだろう。
「ルナ」
「分かった。……一応ハルカはここで待ってて」
「分かりました。一応ミラさんのパーティーにも話しておきます」
ホルスとルナはワシンドと和の國の国交のことを思って、和の國の男たちを追って甲板へと向かった。残されたハルカは念の為にミラたちのパーティーへとこのことを伝えたのだが、肝心なミラが船酔いで動けないため、ミラのパーティーが甲板に出ることは無かった。
◇◇◇◇◇◇
――甲板に出た二人だったが、二人が見た光景は驚きのものだった。船を襲っている巨大なタコの魔物を相手に艦長と共に戦って圧倒している少年の姿だった。
「お二人には済まぬことをした。お二人は若を追って甲板へこられたのであろう?」
「――っ!!ええ」
二人は今戦っている少年と共に甲板へ出た初老の男に話しかけられるまで、至近距離に接近されていたことに気付けなかった。
その初老の男は少年が負けるとは思っていないのか、全くもって甲板には目をやらずこちらを見定めるように見ていた。
「あっちの人は心配しなくても大丈夫なんですか?」
「若の実力があれば大丈夫じゃろう。それにトラファルガー提督も居るから負けることは万に1つないじゃろう」
「トラファルガー提督?」
「おっと、退役軍人じゃから提督ではないか」
トラファルガーとはこの戦艦の船長であり、ヨウフランの元軍人であった男である。その男と旧知の仲と思われるこの初老は和の國の軍人か何かだろう。
しかし軍人である彼が若と呼ぶ少年ならばかなりの者ではないのかという疑問がルナの頭に浮かんだが、直ぐに取り消した。もし上位の人間の身内がヨウフランに来ていたとしたら、ワシンドのギルドにも連絡がいっている筈だ。それがなかったということは初老の男が退役後に仕えている人間の子供なのだろうと考えた。
「若の身分が気になるか?若は現将軍徳川義満公のご子息である」
ホルスとルナは驚きすぎて声も出なかった。
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