第41話 和の國への道

 出発の日となった。

 ホルスたちはワシンドの東門に集合していた。ホルスたちが身軽な格好だったのに比べて、ミラのパーティーはサポーターを連れていないため、大きなバックパックを背負っていた。


「荷物私が持ちましょうか?」


「……いや、あたしらは自分で持つよ」


 ミラたちが背負う大きな荷物を見てハルカは自分のスキルで持っていくことを提案したが、彼女らは死闘を共にしたとは言え、出会ってそこまで時間の経っていないホルスたちを完全に信用することは出来ず、自分らで持つ選択を取った。


「ミラたちは和の國がどこら辺にあるか聞いてる?」


「いや、あたしらは聞いてないよ。もしかしてルナたちも聞いてなかったりする?……てっきり今回のリーダーになるルナがギルド長かジャンヌさんから情報を貰ってると思ってたけどぉ〜?」


「私がリーダー?」


「そりゃあそうに決まってるじゃん。だってあたしはパーティー1つ纏めるのが限界だもん」


 ミラは軽い感じでルナにリーダーを任せると言った。彼女は軽薄そうな見た目と言葉遣いとは裏腹に探索には意欲的で、人を引きつけるようなカリスマ性も持ち合わせているためリーダーに適しているのだが、彼女の背後にある生い立ちからかリーダーになろうとはしなかった。

 ルナをリーダーに据えた臨時パーティーは和の國へと向かう道を進み始めた。


 *****


 島国である和の國へ向かうためにホルスたちはワシンドが所有している港町『ヨウフラン』へと向かっていた。

 ヨウフランまではある程度舗装されている道なので、特に苦戦することはないだろうと思っていた。


「静かに……この道の少し先に魔物が五匹陣取ってる……どうするリーダー?」


「……私たちがここを無視してあの魔物たちを討伐しなかった時、他の商人とかが被害にあってしまう可能性があるから倒しに行くよ」


「りょうかーい。じゃああたしらも戦闘の準備をしようか」


 ワシンドとヨウフランを繋ぐ街道の最中にミラのスキルによってオークの群れを発見した。

 定期的に魔物の討伐を行っているとはいえ野生の魔物の繁殖力はかなりのものなので、打ち漏らして繁殖した魔物たちが森から出てくることがある。今回遭遇したオークの群れもその類のものだろう。

 ミラのパーティーは戦闘の準備のため武器を取り出した。ミラが取り出した武器は蛇腹剣と呼ばれる鞭のようにしならせることの出来る剣だ。


「ダンジョンではあまり活躍出来なかったから、あたし達に任せてね」


 そう言ってミラはパーティーのメンバーを引き連れてオークに攻撃を仕掛けた。

 まずミラはこちらに背中を向けていたオークの背後から蛇腹剣を伸ばしながら首を締めようとした。オークは首が締まる前に蛇腹剣の刃によって首が搔き切られて絶命した。

 ミラ以外のメンバー達はダンジョンでの冒険で培ってきた阿吽の呼吸による連携で三匹のオークを仕留めていた。


「僕達よりも連携がいいね」


「そうね。私たちは前衛が二人に後衛……しかも正規の後衛じゃなくてサポーターだからかなり偏ってるのよね」


「和の國遠征が終わったら後衛を探しますか?」


「うーん、でも後衛を仲間に入れたとして僕とルナの二人で守りきれる確証がないから……次も入れるとしたら前衛かな……」


 前衛が二人いるからこそサポーターであるハルカは攻撃を受けずに済んでいる。

 しかし後衛をもう一人追加するとなると魔物の討伐は効率よくなるかもしれないが、奇襲を受けた時に二人を守りながら戦うのは一人に比べてかなり難易度が跳ね上がる。だからこそ今はまだ後衛を入れるべきではないと思っている。

 三人が増やすべき仲間について考えている間に戦闘を終えたミラたちが彼らの元へと帰ってきた。

 ミラは首を絞めて相手を仕留めたので大丈夫だったが、ほかの前衛はオークの返り血を浴びており、そのまま街に入れるような格好ではなかった。


「いや〜、だいぶ血浴びちゃったから水浴びしたいな」


「あたしも汗かいてるから、街に行くまでに川でもあればいいんだけどね」


 ミラの仲間であるメルティーナは水浴びをしたいと言っていた。それを聞いてホルスは気付いてしまった。今回の遠征自分以外は女性だったのだ。戦闘だったり食事だったりをしている間は特に気にする必要が無かったのだが、水浴びと聞いて一気に意識して顔を赤くしてしまった。


「どうしたのホルス?」


「い、いやなんでもないよ」


「あっ!きっと水浴びするって聞いて恥ずかしくなっちゃったんだよ」


 図星であったが、気付かれてはいけないと慌てて思い誤魔化そうとした結果、とんでもない言葉を口にしていた。


「ルナの裸を思い出しちゃったからだよ!!」


 ホルスが何を言っているのか理解出来なかったのかミラは数秒間キョトンとしていた。言葉を理解したのか、今度は逆にミラの顔が真っ赤に染まりあがっていた。


「なっ、なっ、やっぱりルナとホルスってそんな関係だったの!!」


「ち、ちが」


 自分の失言に気付いたホルスは慌てて訂正しようとするが、1度出た言葉を無かったことにするのは不可能なので、これから先二人はミラのパーティーからそういう目で見られることが確定してしまった。


「やっぱり先に出るのはルナだよね」


 小さな声でハルカが悲しんでいたが、ホルス、ルナ、ミラが騒いでいたため、誰の耳にも届くことは無かった。

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