和の國

和の國ダンジョン

第40話 プロローグ

「……新進気鋭の冒険者らに任せるじゃと?……戦神の剣は主力の大半が下層で訓練中……薔薇の騎士団に至っては幹部級のメンバーによって編成されたパーティーで最深層入りを目指している……ワシンドの二大巨頭が居ないからと言って……特異魔物ユニークモンスターを倒したとはいえ、まだルーキーと言っても過言ではない冒険者らに任せるのは不安が残るぞ」


 ギルドの一室で不安の声を上げているのは、この都市のトップと言っても過言ではない人物だ。その声は連絡用の水晶の形をした魔道具『通信晶』を通して、とある建物に居る人物の者へと届けられていた。


『だが二大巨頭が居ないワシンドから更に上位の冒険者たちを外に出すとなると……他国から攻められるぞ。それに連絡はしたんだろ?ならそこまで危険はあるまい』


「それはそうなんじゃが……何か嫌な予感がするんじゃ……あの日と同じような悪寒が……!」


『……なら私がいんそ――』


「それはダメじゃ!!今のヌシは無所属の言うなれば浪人じゃ。そんなヌシを儂の意思で動かしたとなると戦争を仕掛けたと思われても仕方ない」


『ならどうする?私が推薦するのはプルート旅団、そして――』


「――っ!?プルート旅団はまだ分かる。じゃが何故そこを推薦するのじゃ?一度顔を見たが……あれは冒険者としては軽すぎる。そこの団長は――」


 彼女らの会話は新進気鋭の若き冒険者の行く末を決める重要なものとなっているが、ギルド職員や若き冒険者たちの知らないところで行われているため、若き冒険者たちは自分の意思に関係なく未来をマーリンとジャンヌの手によって決められてしまうのだった。


『あのはきっと伸びるぞ。親のしがらみに縛られる者は自分の力で開放された時のみ大きく成長する。だからあの少女にはチャンスをやらないと行けない……もし面倒事が起こったとしても私が責任を取る』


「ヌシがそこまで言うかジャンヌ……!!……儂としてはワシンドに火種をばら撒くような真似はしたくないのじゃが……そこまで推薦するのじゃったら仕方あるまい……」


 *****


「久しぶり……とは言えないか」


「……昨日の今日ですからね」


「身体の痛みは治っただろうか?」


「えぇ、ギルド長が医療旅団『フローレンス』での治療費を全額負担してくれたので、ダンジョンに潜る前より良くなってるような感じがします」


 医療を専門とする旅団『フローレンス』は強力な【回復魔法】や【生命魔法】の使い手が多数在籍しており、死んでさえ居なければ必ず治ると言われるほど信頼と実績のある旅団だ。ほぼ100%完治する代わりに医療費はかなり高額なのだ。ルーキーが一年間ダンジョンに潜り続くて貯金したとしても足りない程に。

 それをマーリンが負担したことにより、特異魔物ユニークモンスター個体のミノタウロス戦にて疲弊した身体を一日で癒すことが出来ていた。


「そりゃそうじゃろう。フローレンスは医療に関してはワシンド1じゃからな……世間話はこれくらいにして……本日ヌシらを集めた理由じゃが……」


 ギルドからの呼び出しで急遽集まったプルート旅団のメンバーとミラがリーダーを務めるパーティーは急に深刻そうに話しだしたマーリンが何を言うのかと息を飲んだ。


「ヌシらにギルド任務を課そうと思っておる……それも難易度は……S級のじゃ」


 ギルド任務とはギルドから旅団に課せられるノルマである。通常のギルド任務はF級からS級まであり、その旅団の規模や実力に合わせて割り振られる。しかし今回ギルド任務が告げられたのは、団長交代後はF級任務も受けたことの無いプルート旅団と旅団ではなくパーティーであるミラのパーティーという異例の事態だった。


「その内容は……サムライの国『和の國』を治める"将軍"徳川義満にこの文書を送って欲しいのじゃ……一応"通商条約"を結んでおるから大丈夫じゃと思っておるのじゃが……現在の将軍は歴代最強クラスのスキルを持つらしく……武力こそ全てみたいな国になっているそうじゃ……じゃから危険な可能性もあるのじゃが……受けてくれるか?」


「……どうするルナ?」


「私は受けたいよ。……だってサムライの国と言えば和の國独自の製法で作られた"魔刀"だよ!!?冒険者としては一度は見てみたいよ!!」


 ホルスは和の國と聞いて少しはしゃいでいるルナの姿を久しぶりに見た。

 ルナが心の底から楽しそうにしているのをホルスに見せたのは、は初めてホルスという人物と出会い、共にギルドへ向かう時の数分間だけだ。その後元プルート旅団のメンバーであるアビルとぶつかったことで、強くなる決意をしたルナは心からの笑顔を見せることが無くなっていた。そんなルナが和の國の刀について語っている今は心の底から笑っているのだ。そんな彼女の姿を見せられたホルスは危険だからと言って任務を断ることなど出来まい。


「じゃあ受けようか……後になっちゃったけどハルカも受けるでいい?」


「当たり前です。私もプルート旅団の一員ですから!」


 こうしてプルート旅団は和の國へと旅立つことが決定した。

 プルート旅団は簡単に決定したが、ミラの率いるパーティーはS級という難易度から決めあぐねていた。

 ホルスからはパーティーとして迷っているというよりもミラ個人が迷っているように見えた。


「ヌシが迷うのも仕方ない……じゃがヌシの親のことなら儂らが何とかする……じゃから親のことで悩んでいるなら気にせんでよい」


「……じゃああたしらも行きます」


 ダンジョンではギャルっぽく元気なミラだったが、ホルスの目には今の彼女にはしがらみに縛られて自由がないように映った。

 和の國行きが決まったホルスたちは1ヶ月ほどの旅路となるため、必要な物を買うために二日の猶予が設けられた。


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