第39話 エピローグ
「少々待たせて済まぬな」
部屋に入って来たマーリンに冒険者たちの視線は集まった。入室して来たマーリンはホルスたちが以前会った時とは見違えるほどギルド長としての貫禄と覇気があった。
「本日集まってもらった理由は
マーリンが指を差した先に居たのは、今回の対ミノタウロス戦でリーダー的存在であったカーニッツだ。
カーニッツは突然指名されたのにも関わらず特異魔物ミノタウロスについての報告をそつなくこなしていた。
「そうか……ジャンヌよ、儂は前線を離れて結構経ってしまったからあまり覚えておらぬが……特異魔物は魔石を破壊しない限り復活してくるのか?」
「いや、いくら特異魔物は通常個体に比べて強化されるとは言え……少年らが出会ったミノタウロスの回復力は常軌を逸している。通常、特異魔物は通常個体の能力を格段に強化しただけだ。少年らに分かるように説明すると……例えば、グレイウルフの特異魔物は他の個体を完全に指揮下に置いて連携力がかなり強化される。群れない魔物の特異魔物は身体能力と通常個体が持つ能力が強化される……特異魔物になったからと言って、通常個体が持つスキルから離れた力を得ることなどありえない……人為的なことが行われない限りだがな」
「やはりそうか……闇ギルドは早いうちに仕留めておかねば……」
ギルド長のマーリンは自分の考えを口にしながらフォルテッシムの方に目をやったが、フォルテッシムは拒否するかのごとく一切目を合わせなかった。
それどころか口にしてしまったことでフォルテッシムを除く冒険者たちからの質問攻めを合ってしまった。
「やはりって何か知っているのですか!!」
「あたしらを騙してたってこと?」
特に今回のダンジョン探索での活躍があったカーニッツとミラがギルド長を疑惑の目で見ていた。
「ヌシらの言いたいことも分かるが……騙すとは心外じゃのう」
「心外ですか……?」
「そうじゃ。ヌシらは死ぬ覚悟もないのに冒険者をやっておるのか?もしそうだったとしたら即刻冒険者を辞めてもらわねばならぬ」
幼女に説教されているガタイのいい男という普通の人から見れば笑われてしまうような状況だが、この場には誰も笑うような人は居ない。それはマーリンから発せられる凄みもあるが、一番は彼女が放った言葉が自分の心にも突き刺さっていたからだ。人間というものは、死の淵に立たねば死ぬ覚悟など理解できない。ミノタウロス戦で死の淵に立った彼らが今まで死ぬ覚悟と思っていたものが、どれだけぬるま湯だったかを知ってしまったのだ。代表して反論したカーニッツらを笑えるわけあるまい。
「黙り込んでいたら分からぬのだが……辞めるのか?」
「……辞めませんよ……辞める訳ありません!」
「ほう、ヌシは死ぬ覚悟があると?」
「死ぬ覚悟なんてありません!!だって僕は目的を達成するまでは死ねませんから!!!」
「……それがヌシの答えか?」
「はい」
マーリンの言葉に反論したのはホルスだった。
ホルスの反論を聞いたマーリンは次の言葉を発するまでに不安になるほど間を空けていた。自分の言葉に間違いはないと思っているホルスでさえ不安になる時間が経った。
「……ヌシはきっと大成するぞ。なぁフォルよ」
「マーリン、俺をその名で呼ぶな」
「フォルたちの世代が初心者の頃も聞いたが……理由は違えど死ぬ気はないとフォルも言っておったわい」
◇◇◇◇◇
『俺は死ぬ覚悟なんていらない!死なないほど強くなるからな!!』
『そんなボロボロで啖呵切っても説得力がないぞ』
『言ってろ!!ババァがひっくり返るくらい強くなってやる!!!』
『――ヌシの覚悟は分かった……じゃが一つだけ納得出来ぬのだが……儂はババァではない!儂をあだ名で呼びたいのなら合法ロリと言え!!』
『うるせぇ!!ババァ!!』
◇◇◇◇◇
「懐かしいのう……あんなにクソガキだったフォルがこんなにも成長しよって……あの頃は儂の拳骨で泣いておったのに……」
「昔を懐かしむのはいいが、お前の口から漏れ出た合法ロリ発言に少年らが引いているぞ」
「なっ!?何故引いておる!!?合法ロリというものは希少な存在で、可愛らしい女性という意味では無いのか!?和の國の知り合いがそう言っておったぞ!!」
マーリンは合法ロリとは可愛らしい女性のことだと和の國の知り合いに教わっているので褒め言葉だと思っているが、知り合いがマーリンをからかうために教えた。知り合いもいつかは本当のことを教えようと思っていたが、真実を教える前にマーリンが和の國を離れたため、彼女の中での合法ロリの意味合いが間違っているのだ。
「まだ間違ったまま覚えてるのかマーリン。俺が言ったババァも酷いと思うが……合法ロリも合法ロリで酷い悪口だぞ」
「なっ!?フォル!お前も合法ロリが変な言葉だと分かっていたのか!!?じゃあなぜ教えてくれぬのだ!!?」
「聞かれなかったからに決まっているだろ」
フォルテッシムとマーリンの呼吸のあった言い合いに冒険者たちはついていけなかった。ホルスたちだけは、やっぱり彼女に威厳なんてものはなかったと思い直していたのだが、そんなことをマーリンが知る由もない。
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