第38話 決着

 ――十階層


「当たって!」


 徐々に魔石を覆うように回復していくミノタウロスの肉体を見ていることしか出来ない冒険者たち。しかし一人だけ攻撃をすることが出来る冒険者が居た。それはハルカだ。そんなハルカが持つ武器はボウガン。

 ボウガンは弓や魔法と違い、矢さえセット出来ていれば、動かずに攻撃することが出来る。ハルカは衝撃波が来る前にボウガンに矢をセットしていた。

 ハルカが撃ったボウガンの矢はギリギリ露出しているミノタウロスの魔石目掛けて一直線で飛んで行った。

 一直線に進んだボウガンの矢は特異魔物ユニークモンスターミノタウロスの露出している魔石に突き刺さった。魔石に矢が刺さったミノタウロスは遂に回復する力を失って綺麗になった魔石を残して消えていった。


「まさかサポーターが特異魔物を仕留めるとは……」


 十階層の入口でミノタウロスが魔石を残して消える所を見ていたジャンヌは驚きが隠せなかった。サポーターとは、自分で戦えないからこそサポーターをやっているのだ。しかし彼女は衝撃波を受けたことでダメージを負っている身体にムチを打ってミノタウロスを仕留めるために動いたのだ。経験豊富なジャンヌが驚くのも仕方の無いことだ。

 驚きで身体が硬直しているジャンヌに声を掛けるものが一人だけ居た。それは下の階層から階段を登ってきたとある冒険者だった。


「やはりお前も驚くか……時代の流れという物は、分からぬものだな」


「……最強の冒険者……『雷轟』フォルテッシム・モリビス……ダンジョン探索にあまり力を入れていないお前が……何故だ?」


「そろそろ『茨姫』のところにランキングを抜かされそうだったからな……ギルドの仕事をこなしてきただけだ」


 下の階層から登ってきたのは、現在ダンジョン都市ワシンドで旅団ランク一位に位置する『戦神の剣』の団長であり、ワシンド最強の冒険者と呼び声の高い、『雷轟』フォルテッシム・モリビスだった。

 フォルテッシムが攻撃してこないのが分かっていても警戒心を抱かなければ行けないほどに彼の纏う覇気は強力な物で、ワシンドの中でも上澄みの実力者であるジャンヌでさえ警戒心を解けなかった。


「……地上に帰るのなら丁度いい……動くことで精一杯の若い冒険者たちを地上まで護衛するのを手伝ってくれ」


「……まあ良いだろう。若い冒険者の芽を摘むのは俺にも不利益だからな」


 ミノタウロス相手に体力の大半を消耗してしまっているホルスたち冒険者は、ジャンヌとフォルテッシムに護衛されながら地上に帰還することが出来た。

 地上に帰って来た冒険者たちは手に入れた魔石をギルドに提出した。特異魔物の魔石は特殊な力が宿ることがあるので、鑑定のために後日また集まることとなった。

 ホルスは【守護する者】で身体にかなりの負担を掛けた副作用で全身筋肉痛で歩くことすらままならないので、ルナとハルカに肩を貸してもらいながら数十分掛けて、本拠地(仮)に帰ってくることが出来た。

 動くことの出来ないホルスを介護するためにハルカも二人の住む家に泊まることになった。二人の献身的な介護により、何不自由なく一日を過ごす事の出来たホルスだったが、二人の行き過ぎた介護で、翌朝二人と顔を合わすだけで頬を赤く染める羽目になった。


 *****


 翌日、ギルドの一室に集められたのは下の階層に落とされた冒険者たちと何故か招集を命じられていたフォルテッシム。

 ジャンヌとマーリンはその部屋に入室するまでの廊下で闇ギルドについて話していた。


「闇ギルドにA級犯罪者が二人も加担しているのか……かなり戦力が増強された……更には人体実験を行っていることの白状……」


「しかも闇ギルドはホブゴブリン討伐作戦が今日行われるのが分かっているように見えた」


「……儂としては疑いたくないんじゃがな……裏切り者が居るのか冒険者の中に……もしくはギルド内部の人間に……」


「それしかないだろうな。もし冒険者に内通者が居たとしたら直ぐに分かりそうなんだがな……ギルド内部に居たとしたら特定がかなり難しいぞ」


 もし冒険者に内通者がいた場合は、ホブゴブリン討伐作戦の情報は参加した冒険者たちにしか伝えられていないため、参加した冒険者たちに内通者が居ることが分かる。

 しかしギルドの身内が犯人だった場合には、特定がかなり難しくなる。ギルドの情報は厳重な管理がされているが、ギルドの職員、治安組織0の構成員、影の守護団シャドウガーディアンの団員はギルド内を熟知しているため、全力でスキルを使えば侵入することは難しくない。


「内通者のことは置いといて……人体実験の方はかなり厳しいぞ。グーシスを逃した時にも居た仮面の男が『ゼロ番型』と呼んでいた【転移】少女は、行方不明になっていた冒険者の娘の顔にそっくりだった。その少女の額には【転移】を使ってくるエルダーリッチの魔石に似ている何かが埋め込まれていた」


「特殊な錬金術による人体実験の結果が、魔石の力を使う人間……強力な力を持つ者が無限に増えるのか……」


「それをしてこないから、魔石人間を作るのには何か条件があるのは確かなのだが、時間が経てば経つほど我々が降りになっていく」


「はぁ……久しぶりの危機じゃ……じゃが悲観してばかりでもないな……若い冒険者たちはかなり優秀なのが多いから……我々は若い芽が摘まれぬように守っていくのが最善手じゃ……今のヌシは自由の身じゃ。頼んでもよいか?」


「言われなくとも私は守っていくつもりだ。……この身が滅びようとな」


 二人は話を終えると冒険者たちが居る部屋に入室した。

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