第37話 二人の犯罪者

「人体実験だと?」


「そうだ俺の錬金術は人体実験に向いてるんだ……たとえば……『ゼロ番型』!!」


 仮面の男が叫ぶと急に魔力の流れとともに小さな少女が仮面の男の横に現れた。

 その少女は額に光る石が埋め込まれている。その石は魔石と似たような魔力をしているが、それは有り得ないだろう。魔石から発せられる魔力は主に魔道具の使用に用いられるが、魔石から発せられる魔力は人体には有害なため、魔道具を介して害を取り除いて初めて人間が使用出来る。そのため直接額に埋め込んでの使用など普通は出来るわけない。


「お前の考えている通り、こいつの額に埋め込まれているのは正真正銘の魔石だ。まあ普通の物ではないがな」


「まさか!?お前はここで殺しておかなければならないようだ」


「殺せるもんなら殺してみろ『ゼロ番型』あいつらを連れて来い」


 【転移】を使う少女が連れて来たのは、ギルドで指名手配を食らっている犯罪者二人だった。


「やっと仕事か……お前はジャンヌじゃねぇか」


「ユダ……」


 現れたうちの一人目はジャンヌがまだ治安組織0で防衛局長をやっていた時に局次長としてジャンヌの右腕と呼ばれていた『ユダ』だ。

 ユダはジャンヌの昇進の際に0を辞めており、数年の間姿をくらましていた。そして数年の時を経て表舞台に名が上がったのが、防衛局襲撃事件の首謀者としてだった。

 ユダは得意の【炎魔法】を使って防衛局を焼き尽くし、防衛局員に多数の死傷者を出したためA級犯罪者として指名手配された。


「なんであたしも呼ばれなあかんの?仕事したばっかやのに……」


立花たちばな ぎん!?」


 少女が連れて来たうちのもう一人の方である女性は和の國出身の犯罪者『立花誾』。ユダと同じようにA級犯罪者だが、ユダとは格が違う犯罪者だ。

 彼女は和の國で起こった内戦で敗北した倒幕派の主犯として国家転覆罪として国際指名手配を食らった。

 彼女の罪は倒幕のために現在の和の國最高位である将軍暗殺、幕府の主要メンバーである大名の暗殺だったりと倒幕の為に暗躍していた。しかし暗殺した将軍の息子が優秀であり、国を直ぐに纏め上げて倒幕派殲滅作戦を開始したため、倒幕派は崩壊、幹部たちは処刑されて、主犯であった誾だけは国外に逃げることが出来た。


「あたしの事も知ってんのか……まあここで死ぬんやから関係ないけどな」


 転移の少女によって連れてこられた犯罪者二人はジャンヌへと攻撃を開始した。

 ジャンヌの戦闘スタイルを熟知しているユダは近付かれないように遠距離から広範囲の【炎魔法】を連発していた。


「『蛇行の炎』」


「流石無詠唱の第一人者だな」


 ユダは炎で巨大な蛇を作り出すとジャンヌを襲わせた。蛇は炎で出来ているため触れただけで火傷し、噛まれでもしたら全身大火傷確定だ。

 だがジャンヌもユダの戦闘スタイルを知っているため、剣を使い炎の蛇を切り刻み破壊した。普通は炎を剣で切る事は出来ないが、ジャンヌの剣は魔力が纏ってあるため、魔法の炎を切る事が出来る。


「ユダばかりに構ってええんか?」


 ユダの攻撃を対処していた隙に腰の鞘から刀を抜いた誾が距離を詰めていた。

 【危機察知】で誾の攻撃が来るのを分かっていたジャンヌだったが、その反応速度を上回る速度で接近して来た誾に驚きを隠せなかった。

 誾の初撃はジャンヌの肩から斜めに切りつけた袈裟斬りだ。後ろに身体を逸らすことで致命傷を避けられたものの出血により、少しだけだが動きが鈍くなってしまう。


「《我の癒しは死をも克服する》完全復活リジェネーション」 


 ジャンヌは見切った誾の攻撃を避けながら詠唱をして切り落とした腕をも治すことが出来る【回復魔法】で胸の傷を治した。

 

「よう避けるなぁ。ならこれならどうや?『ギアチェンジ・ワン』」


 誾の速度が一気に速くなった。急な速度アップにはジャンヌも対応し切れず瞼を切られてしまい視界を奪われてしまった。


「ユダ!視界は奪ったで」


 ユダが攻撃してくると思い魔力の流れを感じ取ろうとした瞬間、腹を横一文字に切られてしまった。誾の声は自分から警戒心を外すための陽動だったのだ。

 いくら強力な【回復魔法】を使いこなすジャンヌと言えど切り裂かれた腹を治すのは難しい。なぜなら腹を切られたことにより、血反吐を吐き、言葉を喋るのも難しくなっているため、魔法の詠唱ができないのだ。どれだけ強力な魔法使いと言えど詠唱が出来なければ一般人とそう変わらない。


「ぐっ……ハァ……腹を切られるのはキツいな……まあ分身でこれだけ出来れば十分だろう」


 ジャンヌがそう言うと腹に傷を負ったジャンヌは煙となり消えていった。【分身】というスキルはギルドに登録されているが、本来の【分身】は一撃でも攻撃を食らうと分身は消えてしまうものであり、ここまで有能なスキルではなかったはずだった。


「おいおい、あんだけ強くて分身とかどうなってんねん。それにどういうことやあたしらを呼んどいて相手が分身だったとか……マジで来た意味ないやん」


「まさか分身出来るスキルを持っているなど思ってもいなかった……ユダお前が報告したジャンヌの情報に【分身】なんてスキルなかったぞ」


「俺も知らなかった……隠してたんだろう……もしくは使うまでもない相手としか戦っていなかったのか……」


「……あいつの周りにいた冒険者たちも逃がしちまったし、帰るぞ『ゼロ番型』」


 『ゼロ番型』の【転移】によって仮面の男たち闇ギルドのメンバーはダンジョンから去った。

 そして分身を戦わせていたジャンヌは出来るだけ早く合流するために階段まで一直線でダンジョンを進んでいた。

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