第36話 守護する者の真価
攻撃を開始したのはいいのだが、ミノタウロスが傷を負った胸を庇いながら動くため、有効打を入れることが出来ていなかった。
「あんだけハルバードを振り回されたら攻撃出来ねぇ……俺のスキルで武器を狙う。もし破壊出来たら追撃を頼む……出来なかった時は後退の援護を頼む」
隙を突くこと後できなかったホルスたちは1度後退した。ホルスたちが攻撃出来ない理由としてはリーチのあるハルバードを無尽蔵の体力で永遠と振り回しているからだ。
カーニッツのスキルであればミノタウロスのハルバードを破壊できる可能性がある。それを分かっているカーニッツは一人でハルバードの破壊に挑んだ。
「『魔装刀・
もとから一度傷を負わされた攻撃を身体で受ける気など毛頭なかった。ミノタウロスはハルバードにカーニッツと同じように魔力を纏わせると振り被り、カーニッツ目掛けて振り下ろした。
カーニッツは魔力を纏わせた大太刀で応戦した。練度で言えばカーニッツの方が圧倒的だったが、膂力だけで言えばミノタウロスの方が圧倒的だ。
「1回見ただけで真似してくるのか……!」
「ブモ……!!」
魔力を纏った武器同士の競り合いは、カーニッツが勝った。カーニッツが勝利した要因としては纏った魔力の密度だろう。纏った魔力の密度が高ければいくら膂力で負けていたとしても武器を破壊するのは要因だ。
「お前のリーチを破壊したぞ……今だァ!!」
カーニッツの号令とともに後退していた冒険者たち、そして後衛組の冒険者たちも攻撃を開始した。魔法使いは胸元を大雑把に魔法で狙い、ハルカのような武器を使った遠距離攻撃をする者はピンポイントで胸の傷を狙った。
前衛の冒険者たちは後衛組の邪魔にならぬように射線から外れながら走っていた。
だがハルバードの破壊からもたらされたものは、いい事だけではなかった。ミノタウロスは武器を失ったことで身軽になった。それを見せつけるかの如く近くに居るカーニッツへとパンチを叩き込んだ。防御をしたのにも関わらずカーニッツは勢いよく吹き飛ばされてしまった。飛ばされたカーニッツは壁に激突したことで意識を失ってしまった。
リーダーの気絶は冒険者たちに動揺をもたらした。しかし走り出したからには止まることは許されなかった。
「《我人を守る道を突き進む》――っ!!?」
魔法を使ったホルスはその効果に驚愕した。今まで使ってきた魔法に比べてステータスの増加量が明らかに増えていたからだ。その理由として現在彼ら前衛組の後ろに控える後衛組の冒険者たちを守る対象として認識しているからだ。
大量の魔力を消耗する代わりに今のホルスのステータスならば以前戦ったオークナイトにも勝てるだろう。しかし彼が全力を出せるのは魔力が持つほんの一瞬の間だけだ。
「ルナ!!援護を!!!」
もとから速いホルスの足が更に速くなったことで事情を察したルナは瞬歩を使ってミノタウロスの元へと辿り着いた。そしてミノタウロスの腕目掛けて全力の発勁を叩き込んだ。
「隙は作ったよ!」
「はァァァァ!!!!!」
腕に真下から発勁を喰らったミノタウロスは体勢を崩されて弱点となった胸が無防備になった。
そこ目掛けてホルスは急激に上昇したステータス任せで短剣を突き刺した。マッハにも達する速度から放たれた突きは莫大なエネルギーを生み出し、爆発した。爆心に居たミノタウロスは胸から上を吹き飛ばされ、ホルスは壁目掛けて吹き飛ばされた。辛うじて魔力が足りていたことで、ステータスが上がったままだったため、大怪我を負うことを避けられたホルスだったが今すぐ動くのは難しかった。
他の冒険者たちも爆発の衝撃波で壁まで吹き飛ばされてしまい怪我を負った者が殆どだった。一番爆心地に近かったルナだけは壁に衝突した衝撃で気絶していた。
「うっ……ミノタウロスは……?」
ミノタウロスは胸から上を失ったのにも関わらず魔石にならずに立ち尽くしたままだった。
「だ、誰かトドメを!!」
胸から上を失ったことで魔物の弱点とも言える魔石が露出した状態だったため動くことが出来る者が居れば簡単に倒せる。だが冒険者たちは後衛組を含めて皆満身創痍で動くことすら難しかった。
爆発から十数秒の時が経った時、胸から上のないミノタウロスに変化が起こった。変化とは露出している魔石から魔力が漏れ出したのだ。魔石から漏れ出る魔力は骨となり、筋繊維となり、元のミノタウロスの形を形成し始めていた。あと数秒すれば魔石を覆いつくし、十数秒で元のミノタウロスになってしまうだろう。
「誰かやらないと……!!」
動くことの出来ないホルスの悲痛な叫びが十階層に響き渡った。
*****
――五階層。
ジャンヌに見つかった仮面の男は逃げることは絶望的となったので、正面からジャンヌを叩き潰す選択を取った。
「私が付けた傷はもう治ったのか?」
「ええ、あの程度の傷なら簡単に治りますからねぇ……まあ両腕は貴女の呪術のせいで治らないんですけどね……だからここで奪ってやるよ」
紳士的な対応をしていた仮面の男は敬語を辞めると一気に声が低くなった。以前の戦闘では感じられなかった殺気が溢れ出し、ジャンヌは少し驚いていた。
「それがお前の本性か……奪えるものなら奪ってみろよ」
それに応戦するかの如くジャンヌからも殺気が溢れ出した。五階層の魔物では二人の殺気には耐えきれないので、二人の近くから魔物が消え去った。
「錬金術の本気見せてみろ」
そう言ってジャンヌは走り出した。
仮面の男はジャンヌを近付けまいとダンジョンに干渉して地面を操った。まず手始めとして地面から壁を作り出しジャンヌのことを押し潰そうとした。
「ダンジョンの壁程度で私は止められないぞ!」
硬いで有名なダンジョンの壁を自身の剣で豆腐を切るかの如く簡単に切り裂いて、仮面の男へと迫った。
「そんなの分かってんだよ……『
仮面の男が行ったのは、地面から土で出来た蛇を作り出し、ジャンヌを中心にとぐろを巻かせた。更にとぐろを巻いた蛇を覆うように地面が盛り上がり、ドーム状の土が出来上がった。
土で出来た蛇とドームは仮面の男の魔力が練り込まれているため、土の壁に比べて破壊するのは難しくなっていた。
「……そろそろガキどもは
「……この程度で私を止められると思ってるのなら……心外だな」
その言葉と共にドーム状の土は一刀両断された。その中から出て来たジャンヌの剣は魔力が纏ってあり、一回りほど大きくなっていた。
ジャンヌ自身も魔力で身体を覆っており、そう簡単に攻撃が通りそうになかった。
「止められるなんて思ってない。ただ魔力を使わせるためにやっただけだ」
そう言う仮面の男の周りにはジャンヌの魔力と思わしき物が漂っていた。
その魔力たちは仮面の男の腰にある小さなタンク的な物に吸われて行った。
「多少魔力を奪われたところで私は倒れないぞ」
「はぁ……分かっていないな。私……いや俺が持つ錬金術のスキルはかなり特殊なんだ。たとえば人体実験に向いてるとかな」
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