第35話 飛ぶ斬撃

 オーガ戦と同じようにカーニッツのパーティーメンバーである女性の魔法を中心にミノタウロスへ攻撃が開始された。

 ミノタウロスは後衛組の攻撃を舐めているのか避ける素振りを見せず、筋骨隆々の肉体で真正面から攻撃を受け止めた。


「全くダメージが効いている気がしないな……そろそろ攻撃範囲内に来るか?」


 まだミノタウロスとの距離がある為、油断はしないものの気は緩んだままだった。

 ミノタウロスはハルバードを構えて横に薙ぎ払った。ハルバードのリーチでは到底届かない距離に居たはずのホルスたちのもとにも斬撃は届いた。その距離から正確なエイムが出来なかったのか、ホルスたちに斬撃が当たることは無かったが、硬いで有名なダンジョンの壁を大きく抉っていた。


「ミノタウロスが斬撃を飛ばすなんて聞いたことがない……!」


 一番の博識者でミノタウロスについてそこそこの知識を持つカーニッツが知らないということから導き出される事実はただ一つ。目の前に居るミノタウロスは通常で現れる守護者ではなく異常事態イレギュラーである特異魔物ユニークモンスターだ。


「目の前のミノタウロスは特異魔物だ!!」


 一度特異魔物との戦闘を経験しているホルスたちを除いた冒険者たちは恐怖し、萎縮してしまった。

 冒険者たちの恐怖を感じ取ったのかミノタウロスはニタリと冒険者たちを嘲笑うような笑みをしてみせた。


「ブモ」


「ッッッ!!!!」


 ミノタウロスから放たれた殺気は萎縮していた冒険者たちの腰を抜かし、戦う気を失せさせた。

 リーダーとして戦闘を放棄する訳にはいかないカーニッツと特異魔物の異常さを知っているホルスたちだけは身体の震えだけで留まっていた。


「お前ら!!立たないと死ぬだけだぞ!!!!」


 それは分かっているが、身体が動かないのだ。ミノタウロスの殺気は生き物としての本能が拒否するほどに濃密で強いものだった。

 カーニッツは仕方なく今立っている自分とホルスたちでミノタウロスに勝つための作戦を考えていた。しかしどんなに上振れしたとしてもミノタウロスに致命傷を与えられる未来が見えなかった。


「くっ……おいホルス……俺らだけであいつに勝てると思うか?」


「……出来る……と言いたいけど無理があるよね」


 それはルナも同感だった。オークナイトの特異魔物でさえも片目を奪うことしか出来なかったのだ。守護者であるミノタウロスの特異魔物ともなればホルス達だけでは手も足も出ないだろう。


「全員で挑んだとしたら……いや仮定など意味無いか」


「あいつが動かないのだけが不幸中の幸いかな?」


「あいつが動かない理由は私たちのことを舐め切ってるだけよ」


 ミノタウロスは笑みを浮かべているだけで、それ以上近付くことも、攻撃してくることも無かった。

 それはホルスたちのことを敵だと思っておらず、いつでも蹂躙出来る相手だと思っている。そこだけがホルスたちに残った勝ち筋だろう。

 しかしホルスたちはミノタウロスの油断を突いたところで縮まるほど実力の差が狭くないことを理解している。だからこそ腰を抜かしている冒険者たちと共に戦えるように説得する必要があった。


「こんなところで冒険が終わってもいいのか!!」


「……そんなの終わっていいわけないじゃん」


 パーティーのリーダーとしてミノタウロスの殺気に打ち勝ちミラが立ち上がった。だがその足は震え上がり立っているのがやっとのように見えた。しかし彼女の勇気は他の冒険者たちにも伝播した。リーダーたちから立ち始めた。リーダーたちが立ち終えると、自分たちも勇気を出さねばと残りの冒険者たちも立つことが出来た。


「ありがとなミラ……お前のお陰で皆が勇気を出すことが出来た」


「そりゃあ私だってリーダーとしてのプライドがあるからねぇ」


 自分の殺気を克服されたのにも関わらずミノタウロスは全く焦った素振りを見せなかった。それどころか戦える相手が増えて嬉しいのか、更なる笑みを浮かべた。


「戦闘狂め……出来るだけ同じ場所を狙って、あの強靭そうな筋肉を突破する。……行くぞ!!!!」


 カーニッツの号令とともに前衛組の冒険者たちはミノタウロスを目指して走り出した。

 ミノタウロスは自分を目指して走っている冒険者たちが居るのにも関わらずハルバードを構えることは無かった。

 遂にカーニッツがミノタウロスの元へと辿り着いた。カーニッツは自身の大太刀を魔力の膜で覆うとミノタウロス目掛けて振り下ろした。


「……ブモ」


 ミノタウロスは攻撃をされてやっと動きを見せた。カーニッツの攻撃を大量の遠距離攻撃を受けても一切の傷が付かなかった肉体で受け止めようとした。しかしカーニッツのスキルを使用した攻撃はミノタウロスの強靭な肉体を切り裂いた。

 ミノタウロスは攻撃が通用すると分かった瞬間に後ろに下がったため致命傷を負うことは無かったが、強靭な肉体に亀裂が入ったことで、弱点が分かりやすい場所に出来た。


「いくら強靭な肉体でも傷がある場所なら攻撃は通用する!!」


 ミノタウロスはカーニッツの後ろから走ってくる冒険者たちを初めて警戒した。冒険者たちを確実に仕留めるためにハルバードを構え、そして斬撃を冒険者たち目掛けて飛ばした。

 冒険者たちは攻撃がやってくることは分かっていたが、いざ攻撃してきたとなると殆どの冒険者は身体が硬直してしまい飛んでくる斬撃を武器で受けてしまった。

 攻撃を武器で受けてしまった冒険者たちは勢いを消しきれず壁まで吹き飛ばされてしまい武器にヒビ、又は破壊されてしまった。


「残ったヤツはこの隙に攻撃を入れるんだ!!後衛は傷の手当てを頼む!!!」


 ハルバードを薙ぎ払い終えたミノタウロスの隙を突くために冒険者たちはミノタウロスに接近し攻撃を開始した。

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