第33話 落ちる冒険者たち
冒険者たちの戦闘を見守っているジャンヌの近くにはホブゴブリン相手に勝利出来ずにギブアップした冒険者たちが集まっていた。
彼らの元に寄ってくるホブゴブリンたちはジャンヌの手によって一瞬で倒されるので、彼らの警戒心はゼロに近くなっていた。
「……彼らは大丈夫そうだな……またお前が来たのか闇ギルドの仮面よ」
「私は貴女に両腕に掛かった呪術を解呪して貰いたくて来ました。まあタダではしてくれないのは目に見えているので人質を作ろうと思いましてね。『
仮面の男が二種類のスキルを組み合わせた錬金術を発動した。錬金術を発動した瞬間ダンジョンに地震と思われる揺れが起きた。
目の前の男が錬金術を発動させたことから地震の原因は仮面の男の錬金術だと予想はついていたが、どんなことが起きるかは経験豊富なジャンヌでさえも分からなかった。
「私のスキルは錬金術との親和性がとにかく良いんですよ。その基本的な力は錬金術による大地への干渉の拡張。……私の錬金術はダンジョンにも作用する」
仮面の男が語り終えると大きな音と共にダンジョンに大穴が空いた。それもジャンヌたちが居る場所ではなく今もホブゴブリンたちと戦っている若い冒険者のパーティーが複数居る森の方だった。
ジャンヌは感知能力によって冒険者たちがその大穴に落ちたことが分かっていた。直ぐに助けに向かおうにも目の前には自身の脚を一度奪った相手が居るので動くことが出来なかった。
目の前に居る仮面の男は両腕がないにも関わらず錬金術を発動させたのは両脚が発動元なのだろうと予想はついていた。
「両脚を切ればお前の錬金術を止められるのか?」
そう言ってジャンヌは仮面の男へと切りかかった。庇うべき冒険者たちが居るのにも関わらずジャンヌが攻めてくるとは仮面の男は思っていなかったのか、まともな防御体制を取る事が出来なかった。
ジャンヌの斬撃は仮面の男の胸を切りつけ致命傷にもなりうる傷を仮面の男に与えた。
「痛ってぇ……私の役目は時間稼ぎなので……逃げさせてもらう」
仮面の男の足元がサメの口のような形で隆起した。隆起した地面は仮面の男のことを口に含むと普通の地面に戻ろうとしていた。
もちろんジャンヌは仮面の男が逃げるのを防ごうとしたが、地面に戻る方が早かった。仮面の男を逃がしてしまったジャンヌは仮面の男を追うためには冒険者たちが邪魔なので、ダンジョンから自身の力で脱出するように命令した。
「くっ……今回も逃がしたのか……いや、今回は逃がさない」
ジャンヌは感知を発動して仮面の男のことを探した。探した結果、仮面の男はこの場より数百メートル程離れた場所に居ることが分かった。
ジャンヌは仮面の男に追いつく為全速力で走り出した。その速度は上に向かっている冒険者たちの動体視力では全く追えない程素早く、周りには衝撃波を放つことで自身の存在をアピールしていた。
*****
仮面の男の策略で下の階層に落ちた冒険者はホルスたちを含めて七組。そのパーティーは五階層の初動で先陣を切っていた七組だった。
「……ここは?」
「お前らも起きたか」
ホルスが目を覚ますのとほぼ同時にルナとハルカも目を覚ました。目が覚めた三人が見た光景は六組の冒険者パーティーが真剣な顔で会話をしているところだった。
そしてホルスたちに話しかけてきたのは以前ギルドですれ違ったガタイのいい男だった。その男がこの中でも一番強いのか現状把握するのを仕切っているように見えた。
「ここは何処なんでしょうか?」
「別に敬語で喋んなくていい。俺らとそんな変わんねぇだろ。……ちなみに質問の答えとしては分からねぇってのが答えだ。俺は自分が探索している階層プラス一層分の地図は頭に入れてるが……ここは知らねぇ。つまり七階層より下ってことは確かだ」
「七階層より下……!?今の僕たちじゃあ戻るのも難しいんじゃ!?」
「その通りだ。ホブゴブリンの群れ相手に戦える俺ら七組のパーティーで団結すれば九階層の魔物だろうと一匹ぐらいは倒せるだろうが……群れ相手には難しい。魔物の群れは圧倒的な実力差が無い限り対策が必要だ……だからこそ後ろから攻略するってのはホブゴブリン相手がやっとの俺らにはかなり困難だろう」
「そんな……」
リーダー的存在の冒険者から伝えられた事実にハルカは絶望していた。なぜなら彼女自身の実力はホブゴブリンにも勝てないほどの実力であるため、更に下の魔物の群れなど不可能に等しいのだ。
「だからこそ俺らはこんな作戦を考えていた。それは十階層に向かってミノタウロス攻略を行い、十一階層との間にある
「質問なんだけどさぁ〜。私たちでミノタウロスに勝てると思ってんのぉ〜?」
質問をしたのは女性だけのパーティーのリーダーと思わしき軽装を身に付けた女性だった。彼女の疑問は確かに全冒険者が思っていたことだった。
今ここにいる冒険者たちはホブゴブリン相手がやっとの冒険者たちばかりだ。そんな冒険者たちが赤の他人と連携した所で十階層を守護するミノタウロス相手に勝てる確証など一切なかった。
「思っていない。しかしそう簡単に助けが来るとも思っていない。この場で助けを待っていても近くに寄ってきた魔物との連戦を強いられるだけだ。それならばミノタウロスを倒して安全領域に行くのが一番安全だと俺が思っただけだ」
「……」
改めて過酷な現状を理解して冒険者たちは黙り込むしかなかった。そんななか一番に声を出したのはホルスだった。
「……それなら下に行くしかないんじゃないか?」
「確かお前は……『
ガタイのいい冒険者の質問はホルスのことを見極めるために問い掛けられたものだと彼のパーティーを除いた全員から思われた。
しかし彼が問い掛けた理由は、ただ親切心から来ているものであり、彼は見た目とは反して優しい冒険者なのだ。
「……まだ僕は死ぬ訳にはいかないから。生きられる道があるなら必死にしがみつくのは当然だよ」
ホルスの言葉は冒険者たちの心を刺激した。この場に居る冒険者たちはミノタウロスのことは怖いが、それ以上に死ぬのが怖かった。
ホルスの言葉でミノタウロスの討伐を目標に下へと向かうことが決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます