第32話 ルナの秘密

 スキルを発動したルナは目の前にいるホブゴブリンに発勁を叩き込んで吹き飛ばした。

 発勁を喰らったホブゴブリンは絶命こそしなかったものの肋骨の殆どが折れて息するのですら苦しそうだった。ルナはボロボロのホブゴブリンへとルナの最高火力である瞬歩からの発勁を叩き込んだ。

 更に発勁を喰らったホブゴブリンはついに絶命した。ルナは魔石を残して消えたホブゴブリンに興味などなかった。

 ホブゴブリンの絶命を確認する前にホルスの居る方へと振り返った。ホルスの目に映ったルナは瞳が真っ赤に染まりあがり、人としての理性がないよう見えた。


「……ルナ……意識があるなら返事して」


 普段だったら軽口を言い合っていた二人の間に流れるのはピリピリとした空気感のみ。ルナは何も言わずにホルスとの距離を一歩一歩詰めていた。

 ルナの異様な雰囲気にホルスも気付いてはいたが、仲間であるルナに自分から攻撃するわけもいかないので、ただ警戒するだけにとどめていた。


「……!!」


 ルナは瞬歩で距離を一気に詰められる距離までホルスに近付くと瞬歩を使い距離を一気に詰めた。

 瞬歩の発動を何度も見てきているホルスだからこそ攻撃に反応することが出来た。基本的に武器を持たずに瞬歩を発動した時には発勁を使うので、ホルスはルナの腕を掴み自分から逸らすことで、ルナの攻撃を事前に防ごうとした。

 しかしルナは『野生の勘』スキルでも持っているのか、掴もうとしてくるホルスの手を避けてホルスの下半身へと発勁を叩き込んだ。


「ッッッ!!?」


「……」


 下半身に強力な攻撃を喰らったホルスは膝から崩れ落ちていった。ルナは地面へと落ちていくホルスの顎へと発勁を放った。

 運動エネルギーがほぼなかったとは言え、元々が強力な技である発勁を顎に喰らったホルスは吹き飛ばされ、背中が樹木に激突した。


「うっ……!!」


「……」


 ルナは背中への衝撃で脳震盪を起こしているホルスに容赦ない攻撃を仕掛けた。二連続で瞬歩を使い少し離れたホルスとの距離を詰めると、二回使うことで更に威力が上がるはずの発勁をホルスへと叩き込もうとした。これを喰らったら完全に破壊されることを本能的に感じ取ったホルスは朧気な意識の中で身体を捻って攻撃を避けた。空振ったルナの発勁はホルスの後ろに聳えている樹木へと打ち込まれた。発勁を喰らった巨大な樹木は真っ二つに折れ、巨大な切り株を残して倒れて行った。


「――っ!!」


 二連続瞬歩からの発勁でかなり身体を酷使したルナは吐血して膝を着いた。しかしスキルによって身体を理性なく身体を動かしているルナは身体の限界など無視して動こうとしていた。

 これが最後のチャンスだと思ったホルスはルナへと組み付いた。拘束を解こうと暴れるルナだったが、背中から組み付いているホルスを振りほどくことが出来ずにスキルの活動限界が来たのか、気絶したように眠った。

 ちなみに戦闘音が聞こえなくなったため近付いてきたハルカが勘違いしてホルスをボコボコにしようとするのだが、今のホルスはルナが静まって安堵しているので、近くで見ているハルカには気付いていなかった。


 *****


 「ここは……?」


『ほう……ヌシが今代の先祖返りか……開花はしてないようじゃが……才能はかなりありそうじゃ』


「貴女は?」


『妾か?妾は初代吸血鬼真祖カーミラ・リ・ファニュ……そしてヌシの祖先じゃ』


「吸血鬼真祖のカーミラ!?」


 『吸血鬼真祖』カーミラとはダンジョン都市ワシンド成立数百年前の混沌とした地上で勇者等と同様に後世に名を残した傑物であり、特殊な種族スキルが地上で猛威を振るっていた。

 種族スキルとは人間以外の種族が生まれた瞬間から持ち合わせているスキルであり、同種族なら皆同じスキルである。

 しかし吸血鬼真祖である彼女が持っていたスキルは異常事態イレギュラーと言っても過言でない程特殊だった。その効果は全吸血鬼への絶対的命令権を持ち、彼女の瞳に魅入られた者はどんな種族だろうと吸血鬼種に変化させてしまうものだった。それは魔物だろうと例外ではなかった。そんな種族スキルは彼女の持つスキル『魅了の魔眼』との相性がとてつもなく良かった。魅了の魔眼の効果は、同じくらいの実力もしくは格下の相手が瞳を見ると必ず魅了してしまうという物だ。

 確定魅了からの眷属化という最強コンボで、彼女はその時代地上で猛威を振るっていた魔物、ベヒーモスを眷属にして名声を手に入れた。


「そんな貴女が私の先祖……?」


『そうじゃ。まあ妾の子孫など万単位で居るのじゃがな……その中で先祖返りとして吸血鬼真祖に選ばれたのがヌシだったわけじゃ』


「でも貴女は殺されたはずじゃ……」


『うむ。あの憎き勇者とやらに殺されたな。まあ妾は自分の血さえあれば生きていけるからのう。今は貴様らに流れる妾の血の中で生きておる。やろうと思えば妾の血が流れる者じゃったら簡単に身体を乗っ取ることが出来るのじゃが……まあ体を乗っ取ったところで真祖の力を失っておる妾に出来ることはほぼないからな……安心せい。真祖であるヌシの身体は絶対的命令権から乗っ取ることは出来ないからな』


 カーミラから語られた事実にルナは驚愕していた。死んだとされていた伝説の吸血鬼カーミラの生存、今生きる吸血鬼たちは真祖を除いて皆カーミラに身体を乗っ取られる可能性があることなどの事実を聞いたルナは空いた口が塞がらなかった。


『ヌシが弱ってたからヌシの前に出れたのじゃが……本当だったらヌシがスキルを使う前に出ようと思っておったのじゃ……じゃかヌシの父親に邪魔されてスキルを使わせてしもうた。伝えたいことはただ一つじゃ。あのスキルは使えば使うほど真祖の開花近付いてゆく……まだまだ猶予はあるが……今回の使用でも何か変わったかもしれぬ。吸血鬼真祖になったら仲間など要らなくなってしまう……』


 そう言ったカーミラの顔は寂しげだった。直ぐにキリッとした顔に戻ると話を続けた。


『吸血鬼真祖になったら実力は人間と比べ物にならない物になるじゃろうがヒトの世をそう簡単に歩めなくなるやも知れぬ……まあ前回の真祖が百数年前じゃから吸血鬼への排斥が消えてるやも知れぬから詳しいことは分からぬのじゃが……一度なったら戻れぬぞ』


「それでも私はホルスのためなら使います」


『そうか……一つ教えておこう次にスキルを使用した際には今回みたく理性が消えるみたいなことは無いが、見た目の変化は今以上に起こるぞ……もう少しで目が覚めるみたいじゃ……忠告じゃこの後直ぐにこの階層を離れた方が良い――』


 不安になるようなことを言い残してカーミラと真っ白な世界は消えていった。

 目を覚ましたルナがまず見たのはルナが暴れたことが理由ではない紅葉を頬に付けたホルスと頬を赤く染めたハルカの姿だった。


「……目が覚めて良かったよ」


「まだ勝負は終わってないんだから死ななくて良かった……!」


 ホルスは優しげな笑みを浮かべ、ハルカも最初は笑みを浮かべているようにも思ったが、涙の筋が頬を伝っているのが見えたので自分のために泣いてくれたと心が温かくなったように感じた。


「二人ともごめんなさい!!」


 ルナは暴走して傷付けてしまったのに自分のことを心配してくれた二人に悲しくなり、涙を流して謝罪をしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 休載報告しなくてすいません。

 体調が悪くて休載報告をすることを忘れてました。

 一応体調は治ったので、頑張って毎日投稿をしようと思っていますが、学生の身なので投稿出来ない日もありますのでご配慮の方をよろしくお願いします。

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