第28話 チームワーク

 ホブゴブリン村討伐作戦当日となった。


「参加するでいいんじゃな?」


「えぇ、私たちは強くなるために冒険者をやっているんですから」


 マーリンの問いかけにルナが答えた。その後ろにはホルスとハルカが立っていた。ホルスの顔はもちろんのことハルカも冒険者としての覚悟がある顔をしていたため、マーリンは満足そうに笑っていた。三人は何故マーリンが笑っているのか分からなかったため、変な人を見る目で見ていた。


「なんじゃ、その変な人を見る目で儂を見て。儂はただヌシらの覚悟を見て笑みがこぼれただけじゃ……それなのにヌシらは笑いやがって……儂が偉いのを分かってないようじゃな……教えてやらねば」


 今度の笑みは、自然な笑みではなくニタリと何か悪いことを考えているような笑みだった。

 その後三人は作戦の開始時間までマーリンが行って来た偉業を永遠と聞かされた。確かに凄いことばかりだったが、ムキになる所などから偉さを感じるどころか幼女の姿をしているのもあり、マーリンからは可愛さを感じていた。


「なんじゃせっかく儂の凄さを語ってやったというのに子供を見るような目をしやがって……まだまだ聞き足りないようじゃな」


「ギルド長。作戦開始時刻まで三十分切ったので、そろそろ三人を解放してあげてください」


「おお、もうそんな時間じゃったか……仕方ないのう。帰ってきたらまた語ってやるから死ぬなよ。若い冒険者よ」


 最後のセリフだけはギルドの長として、この都市の最年長者としての貫禄があった。ただ言い終わったあとは椅子にぐでーと座り込んだため「なんだ見間違いか」と三人とも納得した。

 三人は急いで今回の討伐作戦に参加する冒険者が集まる広場へと向かった。そこには以前ギルドで出会った冒険者や獣人、ドワーフなど多種多様な種族の若い冒険者たちが大量に集まっていた。三人は最後だったため目立つかと思われたが、皆自分のことで必死だったので注目されずに済んだ。


「若い冒険者ども!!」


 一段高くなっている場所に立って声を張り上げたのは、治安組織ゼロ元総帥のジャンヌだ。彼女の一声で冒険者たちは表情が引き締まり、ジャンヌのことを注目した。

 彼女の声には人を惹きつける何かがあり、それはホルスたちも例外ではなかった。今まで二回彼女と会っているホルスだったが、立ち居振る舞いを含めて何もかも違っていた。薬で狂った冒険者グーシスの討伐の際の彼女は何処かホルスのことを見極めるような目をしていてカリスマ性を感じさせるようなことはなく、ギルドで会った際は殺気を出していたためカリスマ性を感じる余地もなかった。


「私は今回のホブゴブリン村討伐作戦を見届ける治安組織0の元総帥であるジャンヌだ。私は異常事態イレギュラーが起こらない限り動くつもりは無いから私のことは居ないものとして扱ってもらえばいい。何か質問がある奴は手を挙げろ」


「……何故ギルド所属でなくなった貴女が見届けをするんですか」


 手を挙げて指してもいないのに発言した男は以前ギルドで会ったガタイのいい冒険者だった。彼が疑問に思うのは当然だった。ダンジョンというものはギルドが完全に管理してあり、潜ることが出来るのはギルドの傘下組織である影の守護団シャドウガーディアンや治安組織0、そして冒険者たちだ。しかし0の総帥を辞めた彼女はどれにも該当しないはずだ。


「ふむ、その疑問に答えるとしたら……私が暇だったからだな」


「暇だったからですか……」


 その傲慢すぎる回答に冒険者たちは皆ドン引きしていた。しかしホルスだけは反応が違った。彼女の実力を知るホルスは圧倒的力ゆえの傲慢さだと分かっていた。


「そうだ。私が暇だったからギルド長に直談判させてもらった」


「……そうですか」


「他には居ないな?なら五階層までは勝手に各パーティー事に進んでくれ。五階層に着いたら村までは私が案内しよう」


 *****


「五階層に昼前までに集合って言ってたけど……結構時間あるよね」


「取り敢えず四階層に向かってオークたちと戦闘でもするのがいいかな?」


「私はそれで大丈夫です」


 三人は四階層まで最低限の魔物の相手しかせず急ぎ早で向かった。そのため集合時間から二時間程度早い時間に五階層に繋がる階段に着いた。

 階段の近くでオークナイトたちを相手にアップを始めた。


「フゴ!」


「ハルカ!」


「はい!」


 ホルスの呼び掛けにハルカは反応してボウガンを発射した。その矢はオークナイトの瞳に突き刺さりオークナイトの視界の半分を奪った。片目を失った生物は距離感なども取れなくなる。


「フゴッ!?」


 オークナイトはホルスを狙って大剣を振り下ろしたが、ホルスとの距離的に大剣のリーチでは届くものではなく空振りした。


「脇ががら空き」


 ホルスがオークナイトの攻撃を引き付けている間にルナがオークナイトの横から奇襲を仕掛けた。彼女の持つ【オーク特攻】の剣で切られたオークナイトは一撃でやられた。


「ふぅ……連携をしっかりすればオークナイトにも簡単に勝てるね……まあアイツを除いてだけど……」


 ホルスが言うアイツとは特異魔物ユニークモンスターであるオークナイトのことだ。あのオークナイトの実力はこの階層……強いては上層の魔物とは一線を画すものだった。中層の魔物としてもやっていける程の実力だったため、今のホルスたちが傷付けることが出来たのは奇跡に近い事だった。


「いつかは勝たないといけない相手だけど……今は目の前の敵のことを考えよう」


 目の前にはオークナイト三匹で構成された群れが現れた。オークナイトはホルスたちを仕留めるために動き出した。三匹とも狙ったのは一番弱そうなハルカだ。


「私が仕留めるよ」


「一匹は僕がやるよ」


 二人はハルカを庇うようにハルカの目の前に立った。ハルカを守ろうとする二人を見てオークナイトたちは標的を二人に変えた。


「はぁぁぁぁ!!」


 ホルスのメインの武器は短剣なためリーチ差で負けているホルスが不利なように思われるが、ホルスの俊敏さでその程度の差は埋まる。

 ホルスはその俊敏さを活かして一気にオークナイトとの距離を詰めると膝裏を短剣で切り、オークナイトの動きを奪った。


「フゴッ!!?」


 動けなくなったオークナイトは悪あがきで大剣を振り回してホルスが近付けないようにしてたが、慌てているオークナイトの剣の軌道は簡単に読めるものであり、完全に動きを読んだホルスが短剣をオークナイトの喉に突き刺すことで決着はついた。


「そっちはどうって、やっぱり早いね」


「まあ【オーク特攻】の剣を使ってるからには普通の武器を使ってるホルスに負ける訳にはいかないわよ」


「そろそろ時間なので降りますか」


 討伐作戦十分前となったので、三人は五階層へと降りて行った。

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