第27話 ギルド長

 椅子に座っていたのは人間の幼女のような姿をした耳がとんがっていることで有名なエルフだった。


「貴女が派遣した影の守護団シャドウガーディアンに少々手こずってしまったので、雲隠れしていただけだ」


「何言っているのか分からないが、生きているのが分かって良かった」


 普通の会話にも聞こえる二人の会話は皮肉を混ぜられたバチバチの会話だった。

 両者ともに武器を構えるようなマネはしないが、身から溢れ出る殺気はホルスを連れてきたリリムだけでなく冒険者であるホルスでさえ足がすくむ程だった。


「二人ともリリムさんが可哀想なので殺気を出すのをやめてください」


「儂はジャンヌが止めたらやめようでないか」


「仕方ない。……これでいいだろう?」


「うむ、じゃあ儂も引くとしようか」


 殺伐としていたギルド長室はジャンヌが引いたことで元の空気に戻った。安心したのかリリムは腰が抜けて尻餅をついてしまった。


「大丈夫ですか!?」


「は、はい。安心したら腰が抜けちゃって」


 ホルスに腕引いてもらうことでやっと立つことが出来たリリムは部屋から出て受付の業務へと戻って行った。

 リリムの居なくなったギルド長室には殺気までとは行かない覇気が漏れ出始めた。殺気ではないのでホルスの足がすくむことは無いが、警戒してしまうのは仕方の無いことだ。

 

「儂が許可を出すとでも思っておるのか?総帥だったのにも関わらず命令違反を何度もしてきたヌシに許可を出すわけなかろう」


「昔の話じゃねぇか。それに私だって命令違反したくてしてた訳じゃない。自分の信念に曲がったことがしたくなかっただけだ」


「組織に居る以上は上の命令を聞かんのは宜しくないと言っておるのだ」


 段々と殺伐とした空気が舞い戻ってきていた。しかも先程よりも悪化していた。強い殺気を肌に感じとったホルスは無意識に武器を構えてしまった。


「ほぉう、これ程の殺気を身に感じても戦う意思を見せるか……合格じゃ」


「ごうかく?」


「済まなかったな少年。君がダンジョンのホブゴブリン討伐作戦に参加しても良いかどうか試していたのだ。……あー、こちらが勝手に言っているだけだから別に拒否することも可能だ」


「ジャンヌの言う通りじゃ」


 殺気が溢れ出ていた二人は一気に優しさを見せたため、ホルスは混乱で上手く喋ることすら出来なかった。

 ジャンヌの説明である程度の状況を説明された後もなかなか混乱が解けることはなく、完全に混乱が解けたのは、説明から十分経った時だった。


 *****


「ギルドも五階層での異変には気付いてはいたが、どのような変化が起きているかは分かってはいなかったため派遣しようにも出来なかった。じゃが、ヌシらプルート旅団が調査してくれたお陰で五階層に出来たホブゴブリン村の討伐作戦を行うこととなった」


「やっぱり村が出来ていたんですね……」


「影の守護団から斥候を出しておいて裏は取れておる。あとは殲滅を行うだけじゃが、若い冒険者を中心に編成しようとこちらは思っておる。今の若い世代はかなり有望じゃからな……今のトップを牛耳っている旅団を越えてくれればと思って若い冒険者を採用させてもらった。それでヌシは参加するか?」


「……僕個人としては参加したいと思っていますが……一度パーティーメンバーと相談させてもらっても宜しいでしょうか?」


「別に構わん。但し作戦の実行は明後日じゃから明日までに決めてくれ」


 ルナとハルカと相談するためにギルド長室を後にした。部屋に残ったジャンヌとギルド長は部屋から出ていったホルスのことを思い出して話をしていた。


「――あの少年のことをどう思うか?」


「アイツの面影を感じる……じゃからって贔屓なんてものはしないがな」


「少年の話はこれくらいにして……何故影の守護団を私のもとに送り込んできた?」


 演技かと思われていた二人の喧嘩は本当に起きていたものであり、少年が有望そうな冒険者であることに気付いたギルド長が話の流れを変えたのにジャンヌが合わせただけだった。このことから二人は似たもの同士なのが分かる。しかし同族嫌悪からなのか、彼女らはものすごく仲が悪かった。


「ただ儂の嫌がらせじゃよ。ヌシだけ自由になるのは狡いからな」


「はぁ……お前は自分の意思で辞めていないだけだろ……マーリン」


「本当は辞めたいんじゃがな……」


 *****


 ホルスは二人が待つ自宅へと向かった。その際に以前ギルドで会った冒険者とすれ違ったような気もしたが、急いでいたので気には留めなかった。


「――それで僕は参加したいと思っているけど……二人はどうかな?」


「私は着いて行きますよ。だってサポーターですから!」


「……ルナはどうかな?」


「私は……強くなる為にも行く。それに私たちと同じ時期に冒険者になったルーキーが居るのなら見てみたいし」


 三人はホブゴブリン村討伐作戦に参加することを決めたので、装備の整備だったり、ポーションなどの消耗品の補充をするために街へと繰り出した。


「そろそろ防具の交換時期かな?」


「今新品に変えたら防具に慣れてない状態でホブゴブリン村の討伐をすることになるから、討伐作戦の後でいいと思ってるんだけど」


「そうだね。じゃあ武器を研いでもらって、ポーションを買いに行こうか」


 三人は以前【オーク特攻】の剣を作って貰ったヨーゼフが居る鍛冶屋へと向かった。彼は見習いのため、今日もレジ番をしていた。


「久しぶりだな……久しぶりってほどでもねぇか。それで今日はどんな用事だ?」


「武器を研いでもらおうと思って」


「じゃあ見せてみな」


 ホルスとルナは自分の武器をヨーゼフへと渡した。そこには【オーク特攻】の剣が無かったので、ヨーゼフは壊したのかと二人に問いかけた。


「オークが居る階層を突破してもうあの剣は当分使わないから家に置いてあるんだ」


「まあそれならいいか……それでこの武器たちは何時までにやればいいんだ?」


「明日のうちに渡して欲しいけど……明後日の朝でもギリギリ大丈夫かな?」


「まあ研ぐだけだから、明日の夕方に来てくれれば渡せるぜ」


 三人はそれに了承すると鍛冶屋を後にした。三人はポーションを買うために薬師の旅団が運営している薬屋へと向かった。

 薬屋でポーションを買った三人は明後日の討伐作戦に向けて予備の武器を使い三階層で身体を動かした。

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