第26話 ホブゴブリン

 ――三人が五階層に出るといきなりホブゴブリンが草むらから襲って来た。

 奇襲を食らった三人だったが、混乱することなくすぐに対応することが出来た。それは今までの探索での経験から来るものであり、彼らは確実に成長しているのだ。


「――っ!攻撃が重い……ルナ!膝を狙って!!」


「はぁぁ!!」


 ホルスが言葉を言い終わるよりも先にルナは動き出していた。ホルスがホブゴブリンの剣を受け止めている間にルナは、ホブゴブリンの背後に回り、膝を切り付けた。

 膝を切られたことで踏み込めなくなったホブゴブリンはホルスに押し返され、そのまま胸へと短剣を刺されて絶命した。


「ふぅ……知能があるってのは厄介ね」


「そうだね。あれは完全に僕たちを待っていた感じがあったから……これからは死角を出来るだけ作らないように進んでいかないと」


「まあ油断しなければやられることはなさそう……」


 三人がホブゴブリンへの対応について話している声を聞きつけて少し離れたところにいたホブゴブリンが足音を消して近付いていた。

 剣のリーチ範囲内まで近付くと地面を蹴り、草むらから飛び出した。ホルスにはホブゴブリンが近付いてきていることは気配で分かっていた。上段に剣を振り上げたホブゴブリンの胴へと自身の短剣を突き刺した。しかし急所からは数ミリズレてしまった。ホブゴブリンは刺された痛みに耐え一歩後ろに引くと、そのまま剣をホルス目掛けて振り下ろした。


「ホルス!」


 ホルスの首を切るすんでのところでルナの剣によって受け止められた。ルナは受け止めたホブゴブリンの剣ごと自身の剣を上へと振り上げた。自分の意思に関係なく剣を振り上げられてしまったホブゴブリンは後ろによろけた。


「はぁぁぁぁ!!!」


 ホルスはもう一度ホブゴブリンの胸へと短剣を突き刺した。今度はきちんと急所に突き刺さり、ホブゴブリンは魔石を残して消えていった。

 ホブゴブリンとの戦闘でメインで戦っていた二人は五階層に来てから二匹の魔物としか戦っていないのにも関わらず息が上がっていた。


「はぁはぁ……知能がある相手は……こちらも考えて動かないと……勝てないからだいぶ体力を消耗させられる」


「一々攻撃も重いから受け止めた際の体力消耗がキツいね」


「二人とも大丈夫ですか?ポーション飲みます?」


「ポーションを飲みたい気持ちもあるけど……お腹がタプつくのは戦闘でかなり不利になるし……やめておこうかな」


 ポーションは飲料のため飲める量には限界がある。限界までポーションを飲んだ日には少し動いただけで体力を奪われ、動きのキレもなくしてしまう。傷口に掛けても治るには治るのだが、飲むのに比べて微量なものだ。そのためポーションを使用するのはタイミングを見極めればならないのだ。


「ホブゴブリンこと舐めてたよ。ゴブリンとは似て非なるものだったね。知能の面が特にキツいよ」


「……今度は私たちが先に見つけて最初から三人で掛かろう」


 三人は出来るだけ気配を消してホブゴブリンを探した。森の中は視界が悪いため見つけるのは困難かと思われたが、ホブゴブリンの巨体を隠すには少々物足りず、すぐに見つかった。


「(ハルカが一番槍をお願い)」


「(分かりました……はっ!!)」


 ハルカはボウガンでホブゴブリンの眼球をよく狙い撃った。直線に進んだボウガンの矢はホブゴブリンの眼球に突き刺さった。


「ゴブッ!?」


 ホブゴブリンの鳴き声はゴブリンと余り変わらないように思えたが、若干低いようにも思えた。

 眼球を射られたことで視野を半分失ったホブゴブリンは発狂して剣を振り回していた。


「(こういうのを見るとやっぱり獣とそう変わらないわね)」


「(次の攻撃は僕がする?それともルナ?)」


「(私が行くわ)『瞬歩』!」


 ホブゴブリンを目指してルナは草むらを飛び出した。瞬歩によって一気に距離を詰めると剣で反対側の眼球を潰した。完全に視界を失ったホブゴブリンは発狂しながら剣を振り回した。手負いの獣ほど危険なものはないので、ルナは獣の牙を折るために剣を弾き飛ばした。

 視界と牙を失った獣はただの獲物でしかなくホルスの短剣によって仕留められた。


「やっぱり『獣種』と違って奇襲は結構簡単に成功するから奇襲をやっていくのがいいかな?」


「最初のうちはそれでもいいかも……でも私たちは上を目指すんだから……正面から打ち破る力は必要だよ」


「……今思ったんですけど……魔物との接敵が少ないと思わないですか?」


「うーん、それもそうだね地図見た感じもう五階層の半分くらいまで来てるのに……二匹としか接敵していない……」


 地上と違いダンジョンの魔物はダンジョンが生み出しているため、狩りすぎて居なくなるということがないので、冒険者が近くで無双しているようなことが無い限り、極端に魔物との接敵が少ないということは起こりずらい。一階層とは真逆の状況だ。魔物が減っているのは原因があるのかもしれない。


「少し調査をしておく?」


「まだここら辺なら群れで出てくることは滅多にないから……やっておこうか」


 三人は五階層の半分地点周辺を索敵していたが、ホブゴブリン一匹としか接敵せず、ダンジョンで何か起こっていることは確かだ。

 

「これは流石におかしいよね……」


「ここまで探したのに一匹しか居ないのは……もしかしたら資料にあった通り村が出来てるのかも……もしそうだとしたら一回帰った方が賢明な判断だと思う」


 三人はギルドにこの状況を伝えるために急いで帰還した。帰りの際も五階層でホブゴブリンと接敵することはなく簡単に帰還することが出来た。


 *****


「五階層で極端にホブゴブリンとの接敵が少ないのですか……それでホルス様たちは村ができていると考えていると……」


「はい。五階層を半分くらい進んだにも関わらず二匹としかホブゴブリンと接敵せず、こっちから探しても一匹しか居なかった。これは村がないにしても何か原因はあると思います」


「話は聞いた。私が行こうじゃないか」


「な、なんでジャンヌさんがここに!?貴女はゼロの総帥を辞めてから消息不明だったのでは!!?」


「まあ色々やっていたからな……今の私はただの冒険者……いや登録していないから冒険者ですらない浪人だ。許可さえ貰えればすぐに調べてくるが?」


 受付で行われていたホルスとリリムの会話を堂々とホルスの背後に立ち、盗み聞きしていたのは治安組織0の元総帥であったジャンヌだ。

 ジャンヌは0の総帥をクビになって以降消息不明となっていたため、ギルドに現れたことで騒ぎになり、ギルドが収拾をつけるためにホルスとジャンヌをギルド長室へと招いた。


「ジャンヌよどこに行っていたのだ?」


 ギルド長室に入るとそこには背中を向けた大きな椅子があるだけに思えたが、そこから声が聞こえたので、椅子の背中に隠れる座高の持ち主がきっとギルド長なのだろう。

 そして椅子が回転した。ホルスの目に映ったギルド長の姿は……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る