第22話 脱出

 オークはハルカ目掛けて斧を振り下ろした。


「行っけぇぇぇぇ!!」


 ハルカは自分目掛けて振り下ろされる斧を紙一重で避けた。ハルカはここまでの探索で、ステータス更新をせずとも成長を感じられる動体視力と反射神経が急激に成長していた。急激な成長は彼女が持つ『冒険者の決意』によるものだろう。

 斧による攻撃を避けたハルカはボウガンを構え直すとオークの瞳目掛けて撃った。彼女の判断は正しい。彼女のボウガンではオークの筋肉を突き破ることは不可能なため、視力を奪うのが一番の得策だ。 


「フゴっ!?」


「えっ?」


 完全に視界を失ったオークは混乱したのか斧を振り回し始めた。ハルカはオークが斧を振り回すのは想定していなかったのか腰を抜かしてしまった。

 だが時間稼ぎは十分だった。


「はぁぁぁぁ!!!」


 全力で走ってきたホルスがハルカとオークの元に辿り着いたのだ。オークの背後に立ったホルスはオークの頸動脈へと短剣を振り下ろした。その傷が致命傷となり、オークは魔石を残して消えて行った。


「ごふっ、ごほっごほっ」


 オークを仕留め終えたホルスは、『守護する者』を使ったことで、更に広がった背中の傷が原因で立っていられず四つん這いとなり、吐血していた。


「ホルスさん!!?」


 ハルカはホルスへと駆け寄った。ホルスは出血多量で気絶していた。ハルカは急いでポーションを振り掛けた。傷は塞がったが、血が足りないことには変わりないため、ホルスを背負うと急いでダンジョンの脱出を目指した。


「ハルカ!?ホルスは大丈夫なの!?」


「一応、気絶してるだけ……だけど出血多量でかなり危ないと思う」


「私も手伝うから急いで帰るよ!!」


 二人はホルスのことを肩を貸して、ダンジョン脱出を目指した。

 四階層の魔物はほとんど特異魔物ユニークモンスターのオークナイトによる咆哮によって集められていたため、出会うことはなかったが、上の階層の魔物には何度かエンカウントしてしまった。その時はルナがスキルを使わずに対応していたが、ルナの体内はかなりボロボロになっているため、動きにキレがなかった。そのため三階層の魔物相手でも攻撃を受けてしまい身体の表面の傷もかなり増え始めていた。


「はぁはぁ……早くしないと」


「でも、ルナも傷が……休まないと……」


「大丈夫だから……私よりホルスの方が酷いんだよ。だから私が弱音を吐くわけにはいかないよ」


 ハルカは一回休むように言ったが、ルナは頑なに進むことを選んだ。

 ルナたちは傷を増やしながらも三階層を突破することが出来た。しかし大量の傷はルナの体力を奪い続けて、限界が近くなり始めた。その結果ゴブリン相手にも接近を許してしまい攻撃を受けてしまっていた。


「はぁはぁ、もう少しだから耐えてねホルス」


 ルナはホルスに声を掛けるとまた上を目指して進み始めた。ここまで来ればハルカのボウガンだけで仕留められる魔物が殆どのため、ルナの負担は減っていた。

 二階層は特に危険な場面はなく楽々一階層まで帰ってくることが出来た。


「あと少しだから頑張ってハルカ」


「ルナこそ」


 一階層ではグレイウルフの群れと出会わない限り負けることは無いだろう。

 二人は励まし合いながら一歩一歩着実に進んで行った。しかし世界は残酷だった。一階層を少し進むと四匹で構成されるグレイウルフの群れとエンカウントしてしまった。


「ハルカ二匹やれる?」


「逆にやれなきゃ私たちの負けだよね」


 三人を囲むようにグレイウルフが近付いてきた。それに対してルナとハルカは、ホルスを守るように背中合わせで、グレイウルフの攻撃に備えた。


「グルル」


 グレイウルフたちは唸り声を上げながら二人の動きを観察していた。二人が間にいる男を庇っているのは、グレイウルフの目から見ても明らかなので、グレイウルフたちはホルスに狙いを定めて様子を様子を見ていた。


「ホルスを狙ってるみたい……私たちから動くのは危険かも、だから――」


「分かった私がボウガンで牽制する」


 そう言ってハルカはボウガンを構えて撃った。スキル『野生の勘』を持つグレイウルフはボウガンの矢を簡単に避けるとハルカへと襲いかかった。


「来たルナ!!」


「囮作戦成功!!」


 これはルナを囮にしたグレイウルフを個別で釣る為の作戦だった。ボウガンを放ったことにより、ハルカにヘイトが向いた。攻撃をされたグレイウルフは反撃するために単独で動いてしまったのだ。これがルナが考えた作戦だった。単独のグレイウルフはボロボロのルナでも簡単に倒せる相手なため、仕留め切る事が出来た。

 仲間がやられたのを見て他のグレイウルフたちも陣形を乱して二人に襲いかかった。


「仲間がやられて焦るのは分かるけど、陣形を乱したらダメだよ」


 ハルカは自分目掛けて走ってくるグレイウルフの額目掛けてボウガンを撃った。先程と違いグレイウルフは冷静ではなく更に距離が近いため、矢はグレイウルフの額に命中し、魔石を残して消えて行った。


「こっちは終わった!」


「私も終わらせる」


 ルナは二匹のグレイウルフ相手に剣を二本使用して立ち回った。一本の剣で攻撃を受け流し、もう一本でカウンター。それを何度か繰り返しているうちにグレイウルフは限界を迎えて、魔石を残して消えて行った。


「はぁはぁ……厳しいなぁ……」


「もう少しだから頑張ろうルナ」


 二人は地面に座らせているホルスに肩を貸すとまた進み始めた。


***


 遂にルナとハルカは気絶しているホルスを連れて、ダンジョンから脱出することに成功した。


「やっと地じょぅ――」


 日が沈み始めている空を見て安心したのか、ルナは気絶してしまった。


「ルナ!?ルナぁ!!」


 気絶したルナを見てハルカは慌てふためいてた。ハルカは二人の血が足りていないのを思い出すと急いで医療系旅団が構える病院へと二人に肩を貸しながら歩いて行った。

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