第21話 ハルカの危機

 まずルナが狙ったのは一番の強敵であるオークナイトだ。一番厄介なダークバットたちはホルスによって大方片付けられているため、耳栓をするだけで事足りていた。

 ルナが狙った先に立つオークナイトは慌ててルナの攻撃に備えたが、ワンテンポ遅れていた。オーク種に対して強力な攻撃手段となる【オーク特攻】の剣で袈裟斬りを行った。


「『発勁』!!」


 その際に生まれた運動エネルギーを使用して、近くに居るもう一匹のオークナイトへと『発勁』を行った。瞬歩によって生まれた運動エネルギーは相当な物で、オークナイトの鎧を砕き、分厚い皮膚、強靭な筋肉を破壊した。


「はぁはぁ……最初から瞬歩からの発勁を使うのはキツいかも……でもそうでもしないとこの数には勝てない!『瞬歩』!!」




「ルナ……無理してそうです」


「そうかもね。でも今の僕達に出来ることと言えばルナの足でまといにならない事だから、自分のことだけを考えよう」


 ホルスは自分に出来ることは足でまといにならないこととルナと同じような発言をしていた。そんな二人の似通った思考回路にハルカは羨ましく思っていた。戦闘中に不謹慎だと思い直ぐに頭の中から追い払ったが、一瞬思考に気を取られたことで隙を作ってしまった。


「ハルカ!!」


「あっ……」


 ハルカはオークの接近を許してしまった。目の前に居るオークは斧を振り上げた。そしてハルカ目掛けて振り下ろした。

 オークの攻撃はそこまで速くないため、見てからでも避ける余裕は十分にあった。しかしハルカは目の前に居るオークに恐怖して足がすくみ動くことが出来なかった。


「ハルカぁぁぁぁ!!」


 ホルスはオークの攻撃からハルカを庇った。普段だったら受けることの無いオークからの攻撃を背中に受けてしまった。ホルスの背中は斧によって切り裂かれ、かなり出血をしてしまった。


「はぁはぁ……大丈夫ハルカ?」


「それはこっちのセリフですよ!!私のせいで怪我を……」


「自分のせいだなんて思わなくていいよ。僕が不甲斐ないだけだから……あの時特異魔物ユニークモンスターのオークナイトを仕留められていたらこんな事態にはなっていなかったし……僕がこの魔物の大群をやれていたらハルカに負担をかけなくて済んだんだから……気にしないで」


「――っ!」


 今のハルカにとってホルスの優しさは辛かった。明らかにホルスが負った傷はハルカのせいなのにも関わらず自分の責任だと言うホルスに心が傷んでいた。

 ホルスは冒険者をやるには優しすぎる。ハルカは色々なパーティーに入ってサポーターをやってきた。色々な冒険者たちを見てきたが、サポーターであるハルカを守ろうとする冒険者はたまに居たが、それをした冒険者は探索後に身体を要求したりと下心有りきだった。それに比べてホルスは下心など一切なく、善意で庇ったのだ。

 冒険者には人を蹴落としてでも生き残る精神が無ければ生き残れないというのが、ハルカの持論だ。


「――ホルスさんは優しすぎますよ!」


「僕は別に優しくないと思うけど……まあ身内には優しいかもね」


 ホルスはそう言って振り返った。振り返った先にはもう一度斧を振り上げているオークが居た。ホルスは振り返った際に短剣をオークの喉元目掛けて放り投げた。

 ホルスの投げた短剣は、斧を振り上げることで隙だらけのオークの喉へと吸い込まれるように突き刺さった。


「もう大切な人を失いたくないんだ」


「大切な人……」


 ハルカはホルスに大切な人と言われ、考えていたことが一気に吹き飛んだ。ホルスの傷を見て青くなっていた顔は普通に戻るどころか、赤く染っていた。


「私が戦っているのにイチャイチャするのはよくないと思うよ」


 二人の元へと魔物との戦いでだいぶ消耗したルナが戻ってきた。

 周りを見渡してみると数十匹居た魔物たちは、オークナイト三匹、オーク四匹の計七匹まで減っていた。オークナイトが三匹残っているため、まだまだ油断は出来ないが、危機は去ったと言ってもいいだろう。


「はぁはぁ……動けるホルス?」


「うん、だいぶ体力は戻ったみたい……けど魔法は背中の傷に負荷が掛かるかもしれないから使えない」


「……そう。なら私がオークナイトを仕留めるからオークをお願いするね」


 そう言って二人はオークの群れへと走り出した。後衛に控えるハルカもボウガンを構えて援護する姿勢をとった。

 最初に仕掛けたのはハルカだ。ハルカが矢を放つとオークの瞳に突き刺さり、攻撃を受けたオークは激昂した。オークたちのヘイトは一気にハルカへと向かい反撃しようと動き出した。


「隙だらけ!」


「近くの敵に背中見せるなんて舐めてるの?」


 ハルカを狙うためにホルスとルナから気を逸らしたオークたちに二人は襲いかかった。ホルスは二匹のオークの首へと短剣を振り下ろし一撃で仕留めた。それに対してルナは【オーク特攻】の剣を使ってオークナイトの背後から斜めに斬り裂いて、こちらもまた一撃で仕留めた。

 残るオークはハルカの元へと走る隻眼のオークと二人の目の前に立つオーク一匹とオークナイト二匹だけだ。


「さっさとやってハルカの所に行かないと……だから邪魔!『瞬歩』」


 ルナは二匹のオークナイトとの距離を一気に詰めた。


「『発勁』!」


 その際に生まれた運動エネルギーを使い、二匹のオークナイトの鳩尾へと発勁を放った。

 瞬歩の運動エネルギーを身体に放出された二匹のオークナイトは魔石を残して絶命した。ハルカの元へと走るオークを倒すために瞬歩を使おうとした。


「瞬――がはっ、ごほっ、はぁはぁ、なんで今限界が来るの……ハルカ」


 瞬歩の運動エネルギーを発勁で放出するのは、かなりの負荷になる。今のオークナイトへの一撃でルナの身体の限界が来てしまった。

 限界は吐血という形で表された。通常の発勁ではこうはならなかった。瞬歩を行った際に生まれる運動エネルギーを使った発勁は強力な攻撃手段となるが、自身へのダメージも大きい諸刃の剣の攻撃だった。そんな攻撃を何度も行ったルナの身体は普通に走るのも叶わない程に傷付いてしまっていた。

 ルナの認識ではハルカが一人でオークには勝てない。だが自分に出来ることは何も無いため、ただハルカの名前を口から漏らした。


「ハルカぁぁぁ!!」


 ホルスはハルカを救うべく走り出した。目の前に立つオークを簡単に倒すと背中の傷が顧みず『守護する者』を使用して全力疾走した。しかしオークがハルカの元に辿り着く方が速かった。


「フゴォ!!」


 オークは自身の瞳を奪ったハルカ目掛けて斧を振り下ろした。

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