第19話 オークナイト
三人は四階層まで特に大きな出来事なく進むことが出来た。四階層もまた三人の敵ではなく、『オークナイト』が現れる場所まで短時間で進むことが出来た。
「そろそろオークナイトが出てくる場所だから気を引き締めていくよ」
「ハルカあの剣を出しておいて」
「分かった!」
ルナは今まで使ってこなかった『オークの牙』を刀身に練り込んだことによって【オーク特攻】の効果を持つ剣を装備してオークナイトに備えた。
「一応ハルカも警戒しておいて」
「分かりました」
三人はオークナイトの奇襲を警戒していたが、その必要はなかった。森の開けたところに堂々と立っている巨漢。全身に鎧を身に着け、背中に大剣を背負った巨大なオークが三人を待ち構えていたかのように立っていた。
「……」
仁王立ちしているオークナイトは他のオークと違い三人の事を見ても威嚇することをしなかった。それどころか攻撃すらも始めようとしなかった。
ただ三人の動向を見続けるだけだ。そんなオークナイトには隙が一切なく何処から攻撃をしても反撃を喰らうそう思わざるを得ない佇まいだった。
「どうする……近付いた瞬間にあの大剣で斬られる未来しか見えないけど……」
「取り敢えず、ハルカのボウガンで先制攻撃してみる?その後は私とホルスでヘイトコントロールすればハルカに攻撃が向かうことはないと思う……多分」
今までの魔物は、前衛がヘイトを集めれば後衛に攻撃をしてくるは無かったが、目の前に立つオークナイトは普通の魔物という括りに入れていいのか分からない程、三人には強く見えた。
しかし近接攻撃が出来ないとなるとハルカのボウガンしか攻撃手段がないため、ボウガンを撃った。
「……!!」
オークナイトはルナの『瞬歩』レベルの速さで、ボウガンの矢を避けるとホルスたちとの距離を一気に詰めた。
その見た目からは考えられない素早さにいち早く反応したのはホルスだ。ホルスは唯一治安組織0の元総帥ジャンヌの速さを見ている。彼女に比べたら天と地ほどの差がある。反応したとはいえ身体はギリギリで動かすことが出来ただけだ。迫り来る大剣の軌道を変えることしか出来なかった。
「やっぱりコイツにヘイトは関係ない!!」
「――っ!!分かったわ!ハルカは少し下がっておいて!!守りきれないから」
攻撃を仕掛けたのはハルカにも関わらず攻撃のターゲットはホルスだった。すなわちこのオークナイトは人間と戦う時と同じように相手の思考を読む必要がある。
「……」
「ぐっ……!!大剣のはずなのに全然隙が生まれない!」
大剣について、まだ新人とも言えるホルスの認識は一度振り下ろしたら隙が生まれる。しかし一定以上の強者からすれば大剣を振り下ろしたことで生まれる慣性など筋力でどうにかなる。
このオークナイトはその一定以上の強者のうちの一人なのだ。
「……」
オークナイトが放つ大剣のリーチを生かした攻撃にホルスたちは、なかなか近付くことが出来ず攻めあぐねていた。唯一オークナイトに届く攻撃はハルカのボウガンによる攻撃だが、オークナイトが着込んだ鎧を突破出来ないことは目に見えている。そのため露出している手の甲を狙ったが、オークナイトの分厚い皮膚に遮られ矢が刺さることは無かった。
ホルスが攻撃を受け止めて、ルナが背後から攻撃しようした。しかし何か感知系のスキルを持っているのか、オークナイトは振り向き大剣で受け止めてきた。
「……」
「『発勁』!!」
このままではジリ貧で、先に体力の切れるホルスたちが負けるのは目に見えている。そのためルナは大剣を破壊しにかかった。
自分の攻撃を受け止めようとした大剣目掛けて、全身のエネルギーを掌から放つ『発勁』をぶつけた。
膨大なエネルギーを受け止めた大剣には大きなヒビが入り、次の攻撃を受け止めたら割れるレベルまで破壊することに成功した。
「……フゴ」
「なっ……!!?魔物が武器を捨てた!?」
「やっぱりこいつには知性というものがある」
オークナイトはヒビの入った自分の得物を一通り見た後、放り捨てた。
オークナイトの知性が垣間見える行動、それ即ちこのオークナイトはただのオークナイトではなく
「なんでよ。順調だったって言うのに……こんな所で……」
「ルナ!!諦めるにはまだ早いよ!僕たちにはその【オーク特攻】の剣がある。それで身体を斬ることさえ出来れば」
「……そんなの分かってるわよ。ただ自分の悲運さを呪ってみただけ」
ホルスの言葉にルナは明るく振舞ってみたが、顔はまだ暗いままだった。それもそうだろう特異魔物は五階層分ほど下の階層の魔物に匹敵する魔物になることだってある。
幸い武器は四階層のオークナイトが使っている物と一緒だったため破壊出来たが、目の前のオークナイトが身に付けている防具は見るからに違う。オークナイトの全身を守る鎧は十階層を守護する魔物『ミノタウロス』の皮膚よりも強固で、四階層を探索しているホルスたちが破壊するのは容易ではない代物だった。
「フゴ」
「ステゴロ……僕たちは剣を使わせてもらうよ」
ホルスの言葉が分かるのかオークナイトは頷き、そして跳躍した。大剣を捨てた分身軽になったのか、今までの比にならないほどの速さで距離を詰めるとホルス目掛けて拳を叩き付けた。
「……!!重い!!」
ホルスは大剣による攻撃よりも軽くなっているだろうと考えていたが、その予想は裏切られ同じ重量……いやそれ以上の重さを感じていた。
モロに攻撃を受けた短剣は耐久力に限界を向かえて木端微塵に弾け飛んだ。得物を失ったホルスに対して、オークナイトは逆の手の拳を鳩尾へと叩き込んだ。
殴られたホルスは吹き飛んだ。体感にして数秒間は空を飛んでいるような気もしていたが、やがて勢いが消えると重力に従って地面へと叩き付けられた。
オークナイトは完全にホルスの息の根を止める為、ホルス目掛けて走り出した。
「ぐっっ!!はぁはぁ今だ!!」
今度こそオークナイトに隙が出来た。ホルスを仕留めるために視野が狭くなっていた。普段だったら気付けるはずの背後に近付く敵対存在に気付くことが出来なかった。
オークナイトの背後に近付いたルナは【オーク特攻】の効果を持つ剣を数少ない露出する場所、うなじへと振り下ろした。
「はァァァァァ!!!」
ルナの剣は遂にオークナイトの身体へと届いた。
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