第18話 闇ギルド

 食事を終えた三人は世間話をしていた。その内容としては探索についてがほとんどだったが、一つ気になる情報をハルカが話した。


「ホルスさんたちが倒した冒険者が脱獄したそうですよ……脱獄と言っても闇ギルドが奪い去ったそうですけど」


「――あいつが脱獄したのか……きっとまた戦うことになるんだろうなぁ」


「今の私たちなら簡単に勝てるよ」


「……そうだね」


 ルナは相手のことを軽く見ていた。それもそうだろう、あの冒険者を倒したのはレベルが上がる前のこと。しかしルナは冒険者も自分たちと同じようにレベルが上がること……そして闇ギルドの闇を考慮していなかった。


「取り敢えず今はオークナイトに勝てることだけを考えよう」


「そうね……明日ヨーゼフさんのところで剣を受け取ったら朝イチで挑みに行きましょう」


***


 翌朝。三人はヨーゼフの待つ鍛冶旅団が構える鍛冶屋へと向かった。鍛冶屋に着くとヨーゼフが出迎えてくれた。


「よぉ!待ってたぜ」


 ヨーゼフは三人を鍛冶屋内の奥の応接間へと招いた。三人をソファーに掛けるように言って、さらに奥の部屋から剣を持ってきた。

 ヨーゼフの手にある剣は『オークの牙』を刀身に混ぜ込んだ剣だ。『オークの牙』を刀身に使ったことによって、ルナのような新人の冒険者が持つには高価すぎる価値を持つ強度を持つ剣となっている


「俺も作り終わった時に鑑定を掛けて驚いたんだが、能力が付いたんだ!」


 ヨーゼフはルナたちへと剣の鑑定書を見せた。三人は前のめりで鑑定書を覗き込んだ。そこに書いてあったのは【オーク特攻】。今の三人にはピッタリの能力だった。


「これは……!!私たちにオークナイトを倒せと言っているようなものね」


「鍛冶の神様の期待に答えなくちゃバチが当たりそうだね」


「オークナイトを倒しに行くってことは四階層をほぼクリアしてるのか……すげぇなお前ら!!俺なんてまだ二階層のゴブリンたちに勝てないんだぜ」


 ヨーゼフは少し寂しそうな顔でそう呟いた。なにかあることは察したが、ホルスたちに出来ることは何も無い。慰めすらも嫌味になってしまうかもしれない。自分たちに出来ることはない無力さを感じたホルスたちのテンションは一気に下がってしまった。


「気にすんなって、俺は別に気にして欲しくて言った訳じゃねぇんだ。ただ自分の力は過小評価するくらいが丁度良いって言いたかっただけなんだ」


「……ヨーゼフさんの分も頑張りますね」


「おうよ!頑張ってくれ」


 三人はヨーゼフに別れを告げるとダンジョンへと向かった。

 これから三人が戦う予定のオークナイトは、普通のオークより一回りほど大きい体躯、その巨体から放たれる大剣による攻撃は地面を割る。


「じゃあ行こうか」


「気を引き締めて行くよ」


「予備は私に言ってくださいね」


 三人はダンジョンへと入って行った。


 * * * * *

 ――数時間前『ギルド牢獄』


「お前が闇ギルドの刺客か?私が居るのを知って来たとしたら、とんだお馬鹿さんだな」


「私は貴方が居たのを知っていましたよ。そして我々闇ギルドの障壁となりうる貴女をここで消しておこうと思い参りました」


「ふん……口だけじゃないと期待しているぞ!」


 ギルド牢獄にて臨時看守長をやっている治安組織0の総帥であるジャンヌが監獄前で出会ったのは、白衣を羽織り、仮面で顔を隠した男だ。

 ジャンヌからの質問に正直に答えるとジャンヌは仮面の男目掛けて走り出した。ジャンヌは腰の剣を抜くと仮面の男に斬りかかった。


「私のスキルも分かる前に斬り掛かるのは悪手ではないですか?」


「どんなスキルがあろうと、動く前に感知すればいいだけだ」


 仮面の男が地面に触れると、ジャンヌの足場が消えた。いや、消えたのではなく動き出したのだ。地面は巨大な拳の形となり、ジャンヌへと襲いかかった。

 ジャンヌはパッシブスキルの一つである【危機感知】が発動したので、仮面の男が動かしている地面から生える拳を避けることが出来た。


「お前は錬金術……それもかなり上位のスキルか」


「話してる余裕はあるようですね」


 地面から生える拳は蛇の形へと変わり、ジャンヌへと喰らいついた。ジャンヌは攻撃が来ることは【危機感知】で分かっていたが、わざと避け無かった。

 ジャンヌは蛇に飲まれると土を破壊しながら仮面の男へと無理矢理突き進んだ。やがて土を破り外へと出ると仮面の男の目の前だった。


「なっ!?」


 地面に手を触れるためにしゃがんでいる仮面の男の両腕を切り裂くと仮面の男の目の前に立ち見下した。


「スキルはいい能力だったが、脇が甘いな。闇ギルドについて答えてもらうぞ」


「……ふっふっふっ!!甘いのはどっちですか!!」


 仮面の男が地面に触れていないのにも関わらず地面は動き出した。地面はトラバサミのようにジャンヌの両足に挟み付き、やがて脚を切断した。

 仮面の男はそのままトラバサミを槍に変化させてジャンヌの心臓を突き刺そうとしたが、遠くから0の援軍が来るのを感知したので、撤退を決めた。


「一つ忠告しておきますが、その脚は治りませんよ。私が創り出した特製の呪いが施されていますから」


「……」


 ジャンヌの【危機感知】に感知されなかった少女が仮面の男の隣に現れた。少女は仮面の男に触れると仮面の男と共にその場から消え去った。


「くっ……!闇ギルドの戦力を甘く見ていた私のミスか……」


「総帥!!?」


 治安組織0の総帥ジャンヌの敗北はギルド上層部にも伝わり、ジャンヌは総帥を解任、ジャンヌの部下たちは減俸の処分となった。

 治安組織の敗北は体裁が悪いので伏せられ、闇ギルドによって奪い去られたと事実改変された。

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