第16話 見習い鍛冶師

 再び四階層に挑む三人は『ダークバット』対策の耳栓をギルドで購入して、準備は万全だ。しかし最初に接敵したのは『オーク』だった。

 三人が接敵したオークは右腕で大きめの斧を引きずりながら三人に近づいていた。


「最初はオークか……僕とルナが前衛やるからハルカは僕たちのフォローをお願い」


「分かりました!」


「攻撃来るよ。私が受け止める!」


 のそのそと近付いてきたオークは重い斧を振り上げて、その重さに任せてルナへと振り下ろした。ルナは剣を用いて対応したが、斧の重量を剣の耐久力では受け止め切れず、剣にヒビが入ってしまった。


「くっ……つ、強い!」


「フゴフゴ!」


 幸い斧による攻撃を受け流すことは出来たが、もう剣による防御どころか攻撃すら出来ないだろう。もう剣としての役目を果たせなくなった剣は捨てて一度オークから距離をとった。


「ごめん。武器を失っちゃった」


「予備を出す?」


「……いや大丈夫。同じ武器を出したところで、また壊されるだけだし、『ダークバット』相手に剣は必須だからここで使い切る訳には行かないよ」


「フゴ!!」


 オークは鈍重そうな見た目とは裏腹にそこそこのスピードで三人目掛けて走り出した。スピードに乗って斧を振り上げた。斧の刃先がルナに当たるかと思われたが、ルナは斧の軌道を読み切り少し後ろに下がることで避けた。

 オークは斧の重さに身体を持ってかれてよろけた。その隙にホルスはオークの脚へと短剣を突き刺した。脚に攻撃を喰らったことで、更に身体がよろけ始め、地面へと倒れた。

 

「動けない豚はただの豚よね。『発勁』!」


 ルナは地面へと倒れたオークの心臓があると思える場所へと発勁を叩き込んだ。内側へと攻撃となる発勁を喰らったオークは心臓を破壊され、魔石とドロップ品を残して消えていった。


「やっぱり動きを封じれば強い相手にも勝てるわね」


「オーク単体相手なら勝てるけど……これが群れになるとだいぶ厳しくなるよね」


「でも四階層では群れは出てきませんよね。四階層の最奥で出てくるのは『オークナイト』が個別で出てくるはず……群れになるのは次の五階層からです」


「この階層の壁はダークバット……そしてオークナイトか……」


 噂をしていると森の奥からダークバットの群れがやってきた。その数五匹。先制攻撃をしたのはダークバットだった。ダークバットは遠距離から超音波を発し、三人の鼓膜を破壊しに掛かった。


「耳栓を!」


 ホルスの号令とともに三人は耳栓を付けた。耳栓の力によって超音波の攻撃が通らなくなった。

 主要な攻撃手段を失ったダークバットたちは発達した牙で吸血しに掛かった。


「近接戦なら私たちの方が上手だよ!」


 近付いてきたダークバットたちをルナは予備の剣を使って切り刻んだ。

 超音波のないダークバットは空を飛ぶだけの雑魚に変わるため、ルナ一人の力で勝つのは容易だった。


「あとはオークナイトか……一度ステータスの更新をやりに行こうか」


 今の三人では強敵となるオークナイトと戦うため、万全の準備を整えに一度ダンジョンから退いた。

 ダンジョンから退いた三人はギルドに着くとまずはオークとダークバットの魔石を換金するとオークのドロップ品である『オークの牙』を素材に武器を作るために以前に防具を買った鍛冶旅団へと向かった。


「おお、前回防具を買ってくれた坊主か。今回は武器でも買いに来たか?」


「覚えてるんですか?」


「ああ。まあ覚えてるのは坊主じゃなくてそっちの嬢ちゃんだけどな」

 

 三人の姿を見て声を掛けてきたのは、前回防具を買った際にレジを担当していた若い兄ちゃんだった。若い兄ちゃんはなぜルナのことを覚えていたのかを説明してくれた。


「そっちの嬢ちゃんは見た目がかなり幼いからな。こんな店に来る女性は大人な女性だったり、ゴツイ女性が多いからなぁ……その娘みたいなのは珍しいから覚えていたんだ。坊主は嬢ちゃんのついでだな」


 若い兄ちゃんはガハハと笑いながら教えてくれた。彼の言うことは確かだ。幼い男が冒険者に憧れて鍛冶屋に入ってくることはあっても、幼い女性が鍛冶屋に入ってくることは無いに等しい。

 

「自己紹介がまだだったな。俺は見習い鍛冶師のヨーゼフ・アルガーだ」


「僕は冒険者のホルスです。こっちはルナで、こっちはハルカです」


「ルナです」


「ハルカです」


「そっちの嬢ちゃんがルナで、そっちの女性がハルカね……よし覚えた。それで今日はどんな用で来たんだ?」


「この『オークの牙』を使って武器を作って欲しいんです」


「武器作製の依頼か……うちの鍛冶師に依頼するとなると、かなり高くなるぞ?」


 鍛冶師への武器作製は市販の武器を買うのに比べ数倍に高くなる。その分性能は良くなることが多いが、値段に対して見合わない物が出来ることもあるため、お金に余裕がある旅団が作ることがほとんどだ。


「高いんですか……ルナ、どのくらい予算はある?」


「そこまで高いのは払えないくらいかな?」


「そうか……なら俺に依頼するか?見習いの俺なら安く済むぜ」


「ならお願いします!!」


「あいよ!」


 そこからはどのような武器を作るかの話を進めていった。武器についての話し合いを終えるとヨーゼフは武器の作製へと向かった。武器作製の終了予定時刻は夜だったので、翌朝取りに行くこととなった。


「残った時間はステータス更新をやりに行こうか」


「ステータスの更新は久しぶりにやります」


「そうだね。私たちだってレベル2になってから一回しかやってないし」


 ギルドへ着くとステータス更新を行うために受付へと向かった。

 ステータス更新の受付には先着が居たが見た事のない冒険者三人組だった。現在更新しているのはかなり大きい身長にガタイのいい体つきをした男。その男の一歩後ろに立つ足下まであるコートを着込んで、右手に杖を持った女性。その横に立つのはペストマスクとフード付きのパーカーで顔を隠している男性と思われる冒険者のパーティーだった。

 ガタイの良い男がステータスの更新を終えると受付から去って行った。一度三人の方に視線をやったように見えたが、一瞬だけだったので、特に気にする事はなかった。


「あの人たち初めて見るんですけど、有名なパーティーだったりしますか?」


「あの人たちは、貴方たちと同じ時期に冒険者登録したルーキーです。貴方たちと同じくらいに優良株のルーキーです」


「そうなんですね……じゃあステータスの更新をお願いします」


「了解しました」


 受付嬢は三人からカードを受け取るとステータスの更新を始めた。

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