第15話 目覚め

 翌朝やっと起きたハルカは、周りを見て


「……えっ?」


「あ、起きた?」


「ホルスさん!?……私ホルスさんと……」


「勘違いしているところ悪いけど、私たちはハルカの家を知らなかったから、うちに連れてきただけだよ」


 ホルスと一夜を共にしたと勘違いしたハルカは頬を赤く染めていたが、ルナの一言で昨日の自分を思い出して、今度は恥ずかしさで頬を赤く染めていた。


「起きてすぐで悪いけど、私たちは朝ごはんの買い出しに行くから留守番してもらってもいい?」


「わ、私も着いていきます」


「なら私の服を貸してあげる」


「ありがとうございます!」


 ルナの服を貸してあげたのだが、ルナの身長はかなり小さい方である。それに比べてハルカはモデル体型の女性にしては大きめの身長なため、服が入らなかった。そのため買い物に着いていくのを諦めて留守番をすることとなった。



***


「朝ごはんは食べやすいものがいいよね……お粥とかが安定かな?」


「そうだね……味付けは薄味で……卵も買っておこうか」


 ホルスたちは朝ごはん用の白米を買うために穀物や野菜を中心に売っている大月商店へと向かった。

 大月商店とは元冒険者で『和の國』出身の大月おおつき みことが経営している商店である。

 大月 命はダンジョンで片目を失ったことで冒険者を引退し、冒険者時代に貯めていた貯蓄を使って大月商店を開業した。彼は冒険者の才能より、商才の方があったようで、今ではトップの旅団にも野菜を卸す程大手の商店となっている。


「いらっしゃいませ」


「すいませんお米を買いたいのですが」


「お米ですね。お米のコーナーはあちらになります」


 女性の店員さんに案内された場所には色々な品種の白米が置いてあり、値段も千差万別だ。安い米は10kgを3000リルで買えるような物から高い米では100gで3000リルする物もあった。


「色々な種類があるけど、どれにしようか?」


「私としては、この一番高い『金米』ってやつをいつかは食べてみたいけど……今の私たちにはあの『コスピカリ』くらいがちょうどいいんじゃない?」


「そうだね。僕も『金米』は気になるから頑張って稼ごうね」


 二人はワシンドで最もポピュラーな白米である『コスピカリ』を購入すると今後の食事に使う野菜を買うために移動した。

 野菜売り場は種類こそ多いが、品種に関してはお米の半分以下であった。その理由としては店主である大月命の出身地である『和の國』はお米の一大産地である。そんな『和の國』生まれの彼はお米が大好物であり、こだわりを持っていたからお米だけは世界中から様々な品種が集められていた。


「うーん、昼は野菜炒めにしたら……残り物で餡掛け焼きそばでも作れば……」


 今日の献立を何にするかブツブツと呟きながら野菜を選んでいるルナを見てホルスは何も言わずにカゴを持っていた。

 そんな二人を微笑ましそうに見ている店員たちの視線には二人とも気付いていなかった。


「二人ともお若いですねぇ。新婚さんですか?」


「あっ、えーと、僕たちは同じ旅団の仲間でして……けして夫婦なんかじゃあ!」


 話しかけてきたおばあちゃんに慌てて否定するホルス。しかしルナは否定するホルスを見て悲しくなっていた。

 二人の様子を見て大体の状況を理解したおばあちゃんは少しホルスに助言をした。


「大切なものは失ってから大切だったと気付くことが多いけれども……坊やは失わないようにね。冒険者なら尚更ね」


「はぁ……?心に留めておきます」


 ホルスにはおばあちゃんが何を言っているのかあまり理解していなかったが、ルナはすぐに理解しておばあちゃんの顔を見た。その顔は自分の孫を見るような優しい顔で、不思議と応援されているのが分かった。しかしそれと同時に自分にも言っているんだなと思えた。


「大体選び終わったからレジに行こ」


「そうだね」


 野菜を購入し終えた二人は大月商店を後にした。

 アパートへと帰宅している二人はどちらからともなく手を繋いでいた。ルナはハルカに見られるのは恥ずかしいので、家の少し前で離そうとしたがホルスが握りしめて離さなかった。おばあちゃんの助言で彼の中で心境の変化でもあったのだろう。


「「ただいま」」


「おかえりな……さい?」


 流石に家の中まで手を繋いでいる訳にはいかないので離していたが、二人の距離感は家を出る前より近くなっているのは確かだった。

 そんな二人を見てハルカは胸に棘が刺さったような痛みを感じた気がしたが、一瞬だけだったので気にしないことにした。


「朝ごはんやっちゃうね。ちなみに朝ごはんはお粥だから……あっ、アレルギーあったりする?」


「いえ、特にないです。作るの手伝いますよ」


「じゃあネギを切っておいて」


 二人はお粥作りを始めた。二人が動いているのに自分だけダラダラするのは、宜しくないと思ったホルスは筋トレを開始した。冒険者になってから週間となっている筋トレだが、なかなか筋肉が付いた実感は得られていなかった。


「ふっ……ふっ……ふっ」


 ホルスがやっている筋トレの内容は、器具の要らない筋トレの定番である腹筋、腕立て伏せ、スクワットだった。

 全部100回ずつ終えると二人がお粥を持ってきた。持ってきたお粥は卵が入った定番のお粥の上に細かく切られたネギが乗っけられていた。


「筋トレしているんですね」


「ふぅ……うん。僕は身体が大きくないから筋肉くらいは付けておかないとって思ってね」


「冷めないうちに食べるよ」


「「「いただきます!!」」」


 

***


 三人はお粥を食べ終えると流しに出し、ホルスが洗い物をしていた。

 その間二人はホルスには内緒の話をしていた。


「ねぇ、ハルカは――なの?」


「……どうなんでしょうか。自分でも分からないんです。でも――なのは確かです」


「なら――」


 ホルスが洗い物を終えて戻ってくると何事もなかったように世間話を始めた。


「どうかした?」


「いや、世間話が少し弾んじゃっただけだよ。ね、ハルカ」


「そうだねルナ」


 ハルカはルナへと敬語を止めていた。ホルスもハルカに敬語を止めるように言ったが、そこだけは頑なに譲らなかった。



***


「今日もダンジョンに行きますか?」


「ハルカとルナが大丈夫なら行きたいけど」


「私は大丈夫だよ」


「私も大丈夫です!」


 午後からはダンジョンへと向かうこととなった。


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