第14話 酔い

 ――第四層

 ゴブリンライダーを倒した三人に三階層の魔物は敵ではなく順調にクリアすることが出来た。

 三階層を超えた三人は四階層に挑んでいた。四階層に出て来る主な魔物は、超音波を駆使して戦う巨大なコウモリ、『ダークバット』やゴブリンより大きく防御力の高い猪顔の魔物『オーク』だ。


「くっ……!耳が聞こえない……ルナ!ハルカ!」


 ホルスたちが戦っているのはダークバット。ダークバットの超音波攻撃によって鼓膜が破壊され、言葉による連携を行うことが出来なくなっていた。

 連携を乱されたホルスたちは、死角からの攻撃を防ぐことが出来ず、段々とダメージを蓄積しつつあった。


「『瞬歩』!!」


「《我人を守る道を突き進む》!!」


 ルナはダークバットとの距離を一気に詰めるとそのまま羽根を切り裂き、機動力を奪ったところで心臓へと剣を突き刺した。

 ホルスは魔法をつかって自分のステータスを高めると超音波の攻撃を無視して、そのまま短剣をダークバットの心臓へと突き刺した。

 

「ふぅ……今日は一旦帰ろうか」


「えっ……なに?聞こえない!」


「なんですか?聞こえないです」


 三人とも鼓膜がやられているため会話がままならない。そのためホルスは帰ることを提案しようとしたが、それすらも伝えることが出来なかった。

 そして最終的にホルスがとった手段は二人の手を取り、帰還することだった。両手が塞がっている状態でダンジョンに居ることは危険なのだが、運良く強い魔物と出会うことなくダンジョンから帰還を果たした。


「ポーションを使わないと治らない攻撃ってのはだいぶキツいね」


「ええ、私も油断してたよ。遠距離からの不可視の攻撃は防ぎようがなかった。何かしらの準備が必要だったわ」


「そうですね。私が何か持っていけば良かったですね」


「いや、僕たちの事前調査を怠ったのがいけなかったから、次は耳栓でも持っていこうか」


「荷物を持つのは私の仕事なので、買っておきますね」


 今日は昼前にダンジョンを出たので三人で昼を食べに行くことになった。

 向かった先は冒険者御用達の酒場、元冒険者のガルムが運営している『止まり木亭』。まだ昼のため、止まり木亭にはそこまで人は居らず、ほぼ貸切状態だった。


「僕たちはエールを飲むけど、ハルカは何飲む?」


「そうですね……じゃあ私もエールをお願いします」


「親父さん!!エール三つとツマミをお願いします」


「あいよ!!」


 三人はエールとツマミを注文した。エールとは大麦の麦芽を発行させたお酒であり、一般的に冒険者が飲んでいるお酒である。

 

「はいよ。エール三つにツマミだ」


「じゃあカンパーイ!」


「「カンパーイ!」」


 人が居ないため注文した物はすぐに来た。三人は乾杯すると一気にエールを飲んだ。一気に飲んだエールが探索で熱くなった身体を冷やした。


「ぷはぁ……やっぱりエールは美味しいなぁ」


「おいしいれすねぇ〜」


「ねぇハルカってお酒に弱かったの?」


「弱くないれすよぉ〜。ただ酔ったら呂律が回らなくなるだけれすからぁ〜。弱いわけじゃないれすぅ〜」


「それを弱いって言うのよ」


 エールを半分程一気飲みした三人だったが、ハルカだけ酔っていた。ホルスたちはハルカのことについてあまり知らなかった。そのためハルカがここまでお酒に弱いことについて知らず、お酒を飲むことを止めることが出来なかった。

 呂律が回らない程酔ったハルカは自分の内なる気持ちをホルスとルナに打ち明け始めた。


「わたしは……足でまといじゃないれしょうか……わたしも力不足を感じているんれす。……でも二人に甘えてしまっていて……いいんれしょうか……」


「……前も言ったと思うけど僕は君だからこそサポーターに選んだんだよ。僕たちだってまだ未熟者だから……一緒に成長していけばいいんだよ」


「ホルスの言う通り、私たちはハルカだからサポーターを雇っているんだよ。ハルカが居ないと私たちは二階層にもいけなかったかもしれない……だからこれからも一緒に居てくれるかな?」


「――っ!!はいぃ!!……すぅ」


 二人の気持ちを聞いて安心したハルカは寝に入ってしまった。二人はハルカの寝顔を見て笑みを浮かべていたが、彼女の自宅を知らないことに気付くと慌てだした。


「ど、どうしようか。僕たちにはハルカの家分からないし……でも僕たちの家に連れて帰るには狭すぎるし……」


「連れて帰るしかないでしょ……私たちは別に眠い訳じゃないから……流石に夜までには起きるでしょ……多分」


「親父さん!勘定お願いします」


「あいよ!1000リルだよ」


 二人は払い終えるとホルスがハルカをおぶり、自宅へと向かっていった。


「……これから僕たちも頑張って成長しようね」


「何当たり前のこと言ってるの?もしかして酔ってる?」


「そうかもしれないね。家に帰ったらルナの料理が食べたいな」


「……あんまり家には材料がないから……簡単に出来る物でいい?」


「もちろんだよ。ルナの料理が食べられるだけで嬉しいから」


 久しぶりのタラシ発言でルナは頬を赤く染めていた。ホルスから見たら酔っているため赤くなっているようにしか見えていなかったので、気付かれずに済んだ。しかし多少は気付いて欲しいと言う気持ちもあったので、少し複雑な心境だった。


「……タラシめ」


「なんか言った?」


「何でもない。早く帰って味噌汁食べよ」


 世間話を続けているとあっという間に住宅街にあるボロボロのアパートにたどり着いた。


「そう言えば、お隣さんとか見たことないけど住んでる人って居るの?」


「うーん、私も見たことは無いんだけど、大家さんは住んでるって言ってたから……私たちとは生活習慣が真逆なんじゃない?」


 自宅の中に入ると布団と上にハルカを寝かすと味噌汁の準備を始めた。


「うーん、食材がないから明日にでも買いに行く?」


「そうだね……まあハルカが起きたら今日の夜でもいいかな?」


 その後もハルカが起きることはなく、結局起きたのは次の日の朝だった。

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