第13話 防具
ハルカのボウガンから放たれた矢は前衛のゴブリン目掛けて飛んで行った。
しかしその矢は目に突き刺さり、絶命には至らなかった。それどころかゴブリンは怒り狂いハルカ目掛けて襲いかかった。
それを追ってもう一匹の前衛ゴブリンも走って来たのでハルカは二体の前衛ゴブリンを相手しなければならなかった。幸い奥にいるゴブリンメイジはハルカを舐めているのか攻撃してこなかった。
「やらなきゃやられる……やらなきゃやられる……」
ホルスに言われたことを繰り返し自分に言い聞かせていた。彼女は出来るだけ引き付けて確実に仕留めようとしていた。そのような芸当は中堅どころの冒険者ですら出来る者は少ないと思われる。そんなことを初心者と言ってもいい彼女に出来るのだろうか……。
「はぁぁぁぁ!!!」
ゴブリンが自分の命を刈り取ろうと短剣を振り上げた瞬間にボウガンを放った。今度こそ前衛ゴブリンの頭を突き刺し絶命した。しかし前衛ゴブリンがやられたことにより、ゴブリンメイジが詠唱を始め、更にもう一匹の前衛ゴブリンも迫って来ているので、ピンチなのには変わりない。
「最後まで抗う!」
護身用として持っていた短剣をへっぴり腰ながらも構えて前衛ゴブリンを睨み付けた。ゴブリンは睨みに怯まず襲いかかってきた。やはりハルカには短剣でゴブリンに立ち向かう勇気はなく腰が砕けて倒れてしまった。一瞬ホルスの方に目をやったが、彼はまだライダーとの戦闘中で助けに来れるような雰囲気ではなかった。
ハルカは泣きそうだった。彼女が冒険者を始めた理由はお金目的であって、地位だったり名声を求めてでは無い。そんな彼女はサポーターとしての才能があったため後衛として安全に探索をやってきた。
「泣かなくて大丈夫だよ。私が来たからね」
「ぅ〜なさぁん!!」
ゴブリンとハルカの間に入ってゴブリンの短剣を受け止めたのは戻ってきたルナの剣だ。
ルナの姿を見て安心したハルカの涙腺は決壊し号泣し始めてしまった。前衛ゴブリンを一瞬で仕留めると飛んできている魔法を剣で切り裂き、瞬歩で距離を詰めると首を切り裂いた。
「ありがとうございます!」
「泣いている暇はないよ。まだホルスが戦っているんだから」
「はい!!」
ホルスは未だにゴブリンライダーと戦っていた。主要の武器の槍を奪うことには成功したホルスだったが、グレイウルフの素早さとゴブリンの短剣での攻撃によってなかなか有効打を決めることが出来ていなかった。
逆にゴブリンライダーもホルスに有効打を与えられていなかった。その均衡していた戦いはルナとハルカの加勢で一気にホルス側に傾いた。
「一気に畳み掛けるよ!」
「分かった」
「はい!」
ルナの掛け声と共に二人は動き出した。ハルカはボウガンでゴブリンの瞳を狙った。ボウガンのわかり切っている軌道は簡単に避けられてしまったが、その動きをホルスとルナは読んでいた。
逃げた先にはホルスが短剣を構えており、ゴブリンへと切りかかった。その攻撃はグレイウルフは野生の勘で反応出来ていたが、騎乗しているゴブリンは反応出来ていなかった。攻撃を避けるために森の方へと跳躍した。しかしゴブリンは自分の意思に反して動いたグレイウルフに置いて行かれ、地面へと落ちてしまった。
「強い相手だったよ」
ホルスがゴブリンにトドメを刺すとルナも今にも逃げ出しそうなグレイウルフを仕留めきった。
絶命したゴブリンライダーは普通のゴブリンの物よりかなり大きい魔石を残してい消えていった。
「流石に三階層でもレア魔物は強いね」
「レア魔物に勝てたのならこの階層で勝てない相手はいないと思う」
「でも今日は疲れたので帰りませんか?」
「まあ僕も疲れてるし帰ろっか」
***
「じゃあ明日もよろしくお願いします!」
「うん。よろしくね」
ホルスとルナはハルカと別れてから鍛冶を専門としている旅団の店へと向かった。その理由は武器は少し良い物に変えたのだが、防具は量産型のギルドで借りれる物だからだ。
店に着いた二人は別々に自分が購入する防具を探し始めた。
「流石トップの鍛冶旅団だなぁ〜。特殊効果が付いてる鎧とかもあるんだ!これは……【軽量化】の効果が付いてるし、こっちは……【毒耐性】が付いてる!!でも……高いなぁ……」
色々な防具を見ていたホルスだったが、その値段を見て諦めていた。今まで見てきた防具はこの旅団の中でもトップクラスの鍛冶師によって作られた物で、新人冒険者であるホルスの手に届くものではなかった。
ある程度高い防具を見終わると鍛冶旅団の新人が作った物が乱雑に並んでいるコーナーを探し始めた。
「新人さんの作品だけど、みんな性能いいなぁ。うーん、僕は筋力が高くないから軽いのが良いんだけど……」
軽い装備を探しているホルスの目に映ったのは、白銀の軽装防具。防具としてはそこまでの力を発揮出来なさそうな見た目だが、見た目以上の強度と軽さを兼ね備えているこの防具はホルスにうってつけの防具だった。
「これください!!」
「あいよ。十万リルだよ」
「やっぱり高いなぁ……」
十万リルとは普通の人間が節約して1ヶ月程過ごせる金額だった。その高さにボヤいていたホルスだったが、ホルスが全力で魔石集めをすれば一日程度で稼げる金額なので、そこまで高いと感じる必要性はなかった。
しかし貧乏性の彼からしたら高い値段なのだ。
***
「ルナはどんな防具を買ったの?」
「私は動きやすさ重視の軽装防具だよ。ホルスは?」
「僕もルナと一緒で軽装防具だよ。色が白銀でカッコよかったから買ったんだ」
「私と真逆だね。私は黒色で性能重視で買ったから、そこまでカッコ良さは感じられないかな?」
ハルカの買った防具は、不格好とは行かないまでもそこまでカッコよくはなく完全に性能重視の防具だった。その代わり性能は新人が作った中でもピカイチであり、見た目を気にしない人からしたら最高の防具だ。
「今日は疲れたし帰ろうか」
「そうだね。私も眠いしご飯は家でいいかな」
二人は稼ぎが倍以上になった今でも同じボロボロのアパートで添い寝を続けていた。
どちらかが家を変えたいと言えば変えられる稼ぎはあるはずだが、どちらもそのことを話題に出すことは無かった。
「いつも通りルナのご飯は美味しいよ」
「ありがと。私の料理は父上から教わったから、きっと天国の父上も喜んでいるよ」
ホルスはルナの父親を想像していた。強い冒険者だったと聞いていたので、めちゃくちゃ厳つい漢を想像していたため、厳つい漢が喜んでいる姿を想像したら少し吹き出してしまった。
「勘違いしてるかもしれないから言っておくけど父上は優しそうな好青年みたいな見た目だったから、断じて厳つい漢ではないからね」
厳つい漢ではなかったらしい。そしてルナはしれっとホルスの心を読んでいた。
「ホルスの顔がわかり易すぎるだけだからね」
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