2章 オークナイト

第12話 ボウガンの矢

 ――ダンジョン三階層。


「ホルス!そっちに一匹行ったよ」


「了解!」


 ホルスとルナとハルカは三階層でゴブリンの群れと戦っていた。相手はゴブリンメイジ三匹に前衛のゴブリンが五匹の総勢八匹の群れだった。

 五匹の前衛ゴブリン相手にホルスとルナが戦っている間にゴブリンメイジたちは固定砲台となり、魔法を放ち続けていた。何度かメイジを倒そうとしたが、前衛ゴブリンによって邪魔されていた。


「流石に魔法を捌きながら倒すのは難しいな……ハルカ!」


「分かりました!!」


 ハルカが使っている武器は比較的扱いやすいボウガンだ。ボウガンは素人でも扱える代わりにセットするのに力を要するのだが、彼女の筋力は前衛級に高いため、彼女にピッタリの武器となっている。

 ハルカが放った矢はホルスを襲っているゴブリンの脚へと矢が突き刺さった。脚を撃たれ、体勢が崩れているところにホルスは首を切り裂いた。残り四匹のゴブリンたちは、ルナの手によって葬られていた。

 前衛を失ったゴブリンメイジたちは少しでもルナのパーティーに被害を出そうと魔法をハルカへと集中砲火した。


「きゃぁぁ!!」


「ハルカ!!」


 ホルスは急いでハルカの元へと戻り、複数飛んでくる魔法を剣で切り裂いた。その時の撃ち漏らしがホルスの右腕に当たり、二の腕の皮膚を焼いた。

 焼かれた痛みで短剣を手放してしまい、第二陣の攻撃に対する対抗手段を失ってしまった。


「何やってるのホルス!『瞬歩』」


 ルナは新たに手に入れたスキルを使いホルスとハルカの元へと移動した。今にもぶつかりそうな魔法たちを剣で切り裂くとゴブリンメイジの元へと『瞬歩』を使い移動して絶命させた。

 

「ほらポーションを使ってその火傷治して探索を続けるよ」


「ありがとう」


 ホルスはルナからポーションを受け取ると怪我をした二の腕へと振り掛けた。その直後に二の腕に出来た火傷はどんどん消えていき、やがて綺麗な皮膚に戻っていた。


「すいません。私のせいでホルスさんに怪我を……」


「気にしなくていいよ。この怪我は僕の実力が足らなかっただけだし……それに怪我したくらいで武器を離していたら、ここから先やっていけないから今回はいい経験になったよ」


「そうそうホルスの言う通りハルカは気にしなくていいんだよ。元々はサポーターのハルカに攻撃を通しちゃったのがいけないんだから」

 

 自分のせいでホルスを危険に晒したハルカは少し元気を無くしていた。元気付けるために声をかけていた二人だったが、森の奥からやってくるゴブリンの群れによって遮られてしまった。

 やってきたのは、この階ではレアとされているゴブリンがグレイウルフに騎乗しているゴブリンライダーが率いている群れだった。


「運が悪いな……ルナにライダーの相手を頼んでもいい?僕は前衛二匹を仕留めるから」


「分かった。ハルカは援護をお願い」


「……分かりました」


 今回の群れはゴブリンライダー一匹に前衛のゴブリンが二匹、ゴブリンメイジが一匹で構成されている四匹の群れだった。

 さっきの群れの半分以下だが、実力で言うとこっちの方が上だ。ライダーはグレイウルフの素早さに加え、騎乗しているゴブリンが振り回す槍によってグレイウルフの短所である中距離をカバーしている。その実力はゴブリンの数倍の実力を持っているとされている。


「――っ!重い!!」


 グレイウルフの走るスピードに乗せて薙ぎ払われた槍は、ルナの防御では防ぎ切れずに遠くまで弾き飛ばされてしまった。幸い飛ばされた方向には障害物がなかったため、ぶつかったことによる衝撃を受けることはなかったが、『瞬歩』を使ったとしても戦線復帰までに時間が掛かってしまう距離まで飛ばされた。


「クソっ……!!ハルカを守らないと」


 ルナは戦線復帰するために走り出した。



***


 メイジの魔法を捌きながら、前衛ゴブリンと戦っていたホルスはルナが飛ばされたのを横目で見ていたため、ハルカを守れる場所へと移動した。


「ルナが戻ってくるまで僕から離れないで!」


「すいません!すいません!」


「今は謝ってる猶予なんかないよ!相手はライダーにメイジ、前衛も二匹とも残ってるんだから!ハルカは前衛の頭を狙って撃ち抜いて!」


「出来ませんよ!私は器用じゃないからボウガンを使ってるんですよ!」


「出来る、出来ないじゃないんだ。やらないと死ぬだけだよ」


 確かにホルス一人でハルカを守りながら四匹を相手するのは不可能に等しい。もし出来たとしてもどちらかが大怪我をするのは確実だ。

 だがしかしハルカが一匹でもゴブリンを討ち取ったら話が変わってくる。一匹だろうと敵が減ればホルスの負荷が減り、ルナが戻ってくるまでの数分間は耐えきれるはずだ。


「ここでやらなきゃいつやるの!冒険者ってのは死と隣り合わせなんだ!!やらなきゃやられる……これが冒険者ってものなんだよ!!!」


「――はい。やります!!」


「よく言ったね。《我人を守る道を突き進む》」


 ホルスに叱られ、泣きそうになっているハルカだったが、覚悟を決めてボウガンを構えた。

 ホルスはハルカを信用しているのか、ライダーのことをだけを見た。もし自分も弾き飛ばされたらパーティーが各個撃破されて全滅するは必然的。そんなホルスが採った手段は出来るだけ力を受け流すことだった。

 魔法を使って自身のステータスを上げるとゴブリンライダーの攻撃に備えた。ゴブリンライダーはルナにやった時と同じように突進しながら槍を振り上げた。


「ふぅ……はァァ!!」


 槍の動きを見極め、自分に当たるギリギリのところで短剣をぶつけて横に滑らした。短剣によって受け流された槍は地面へと突き刺さった。グレイウルフは急には止まれないため、ゴブリンは槍を離さざるを得なかった。

 ホルスが集中している間、ハルカは三匹のゴブリンと睨み合っていた。


「行けェェ!!」


 ハルカのボウガンから放たれた矢は前衛のゴブリン目掛けて飛んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る