第7話 グレイウルフ

 * * * * *


 ホルス・ソル 人間 Lv2

 体力 15 → 30

 筋力 08 → 25

 魔力 23 → 33

 防御 09 → 23

 魔防 19 → 29

 速度 13 → 27

 スキル

・《守護する者》

 詠唱 我人を守る道を突き進む

 効果 数分の間、自分が守るべき人数×10全ステータスがupする


 * * * * *

 

 ホルスのステータスは目に見えて変わっていた。まずレベルが1つ上がっていた。レベルが上がるとステータスもupする。基本は元のレベル×10だけ上がる。これは特別なスキルなどがない限り変わることの無いこの世界のルールだ。

 そしてスキルを覚えていた。《守護する者》はルナを助けるため自身の傷を顧みずにゴブリンを倒したことで覚えたものだろう。このスキルは基本的に俗に言う『タンク』のステータスを持つ者が覚えるスキルなのだが、彼は後衛だ。このまま成長すればオールラウンダーになれるかもしれない。


「僕スキルを覚えてましたよ!!」


「それは良かった。私はスキルは覚えていなかったけどかなりステータスがupしてたよ」


「これならグレイウルフにも勝てるかもしれませんね」


 二人は魔石で稼いだお金のうち生活費と更新料を抜いたお金でポーションを三つほど購入し、そのうち二つは集団ゴブリン戦で負った傷を治すために使用した。

 その後二人は今日二度目のダンジョン探索に挑むのだった。



***



 一度目の時とは違いステータスを更新したため、ゴブリンの群れは簡単に突破出来ていた。そして二人は集団のゴブリンが多く居る森を抜けた。森の先はグレイウルフたちが蔓延る平原だ。目に見える範囲には群れは居ないが、何匹も居るのが見えていた。


「近くに居るのを狙おう」


「分かりました。僕が魔法を使って先に行きます。《我人を守る道を突き進む》」


 ホルスの詠唱後魔法が発動した。魔法が発動するとルナの身体が淡く光った。その光は発動者であるホルスに向かって行き、そして濃い光となり彼の体を包んだ。


「これが魔法の力……ルナに守られてるような気がする……この力で僕はルナを守る!!」


 ホルスは警戒してキョロキョロしているグレイウルフの死角を狙い走り出した。その速度は今までの倍近く出ており、走っているホルスも驚いていた。

 グレイウルフが振り返る前にグレイウルフの元に辿り着いた。気付かれていないので、攻撃は避けられることは無いだろうと思っていたホルスだったが、その予想を裏切られることになる。


「えっ!?ウっ……!?」


 気付かれないためにゆっくりと動き首を切り落とそうとしたが、避けられてしまい更に尻尾による反撃を受けて吹き飛ばされてしまった。『守護する者』でステータスが上がっていたので、ダメージは受けなかったが、奇襲は失敗に終わってしまった。

 これがグレイウルフがゴブリンより強い理由の一つだ。グレイウルフはゴブリンに比べて知能が高く、『野生の勘』というスキルを持っている。魔物がスキルを持っているのだろうかという疑問を持つ者も居るだろうが、持つ魔物も居る。十階層を超えてくると魔物たちは何かしらのスキルを持っている。グレイウルフは一階層なのだが『野生の勘』を持っているのは、『野生の勘』は獣系の魔物が全員持つ特殊なスキルだからだ。


「大丈夫!?怪我はしてない?」


「魔法のおかげか大丈夫そうです。でも奇襲が失敗してしまったので、正面からあれと戦うことになってしまいました」


「いつまでも奇襲に頼っていたら結局は限界が来ていた筈だよ。だからいい機会だよ……私たちがしっかり連携する練習になる。今度は私に合わせてね」


 そう言ってルナは向かって来るグレイウルフの牙を短剣で受け止めた。しかしグレイウルフの膂力はルナの膂力を上回っており、押され始めた。

 ホルスはルナをカバーするように横から首に向かって短剣を振り下ろした。野生の勘が働いたグレイウルフはルナから跳び退き、短剣を避けた。


「勘が厄介ですね」


「正面から叩きのめすしかなさそうかな……魔法を使って。今度は一緒に攻撃するよ」


「分かりました!《我人を守る道を突き進む》!!」


 ホルスが魔法を発動するとルナは少し離れたところで二人を警戒しているグレイウルフに攻撃を仕掛けるために走り出した。

 それに合わせてホルスも走り出した。前衛型のルナのスピードに合わせて走れるのは魔法のおかげだろう。自分に迫り来る脅威にグレイウルフは毛を逆立て攻撃に備えた。

 二人の攻撃はグレイウルフを挟撃するものだった。左右から来る攻撃を両方とも受け止める力を持っていないため野生の勘が強いと言っているルナの攻撃を牙で受け止めて、ホルスの攻撃は尻尾で対応しようとした。しかしその考えは間違いだ。今のホルスはルナに迫るステータスを持ち、尻尾などで対応出来るはずがなかった。

 すなわちグレイウルフは今の二人を同時に相手する力を持っていない。ホルスは尻尾を軽く切り裂くとそのまま背中に短剣を突き刺した。

 

「痛みで隙を作っちゃ駄目だよ」


 痛みでルナの短剣を抑えていた牙が緩み、ルナの短剣は自由になっていた。短剣は一度引かれ、無防備な首元へと吸われるように滑らかに振るわれた。それはスキルによるものだと思われるが……ホルスは見ていなかったため、追求されるようなことは無かった。


「やったーーー!!!」


「ふぅ……取り敢えずは最初の壁を超えられたね」


「ルナさんは全然嬉しくなさそうですけど?」


「だってまだ一階層の終盤にも差し掛かってないのよ。この後はグレイウルフの群れが出て来て……それを超えてやっと二階層……二十階層からが中層と呼ばれて……四十階層の先が下層……六十階層より下が深層……八十階層を超えると最深層……プルート旅団は下層の半分くらいまで行っていた……まだまだ先は長いよ」


「……遠いですね。でも僕達なら何とかなりますよ!!」


「……ホルスの言う通りね。私たちは若いんだから父上達の代を超えられるよね」


 中層は中堅旅団がやっとのことで一階層ずつクリアしていける階層であり、深層というのは上位の旅団ですら半分を超えるのは難しく一層、一層の広さがとてつもなく上位の旅団が人員を揃えて、何日もつぎ込んでやっと一階進めると言われている。最深層に至っては現旅団ランク一位の旅団ですら入るのが難しいと言われている。


「超えましょう!ルナさんの父親を!!!」


「……そろそろ敬語をやめにしない?なんか距離が遠い気がするの」


「……そうですね。いやそうだねルナ」


「うん!ホルス!!」


 グレイウルフの戦闘は二人の仲を深める大切な戦いとなった。

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