第6話 専属受付嬢

 押されているルナを救うためにホルスは走り出した。しかし助けようとするホルスを邪魔する者たちが現れた。見通しの悪い林の方向から三匹のゴブリンの群れが現れたのだ。前衛が一匹で後衛が二匹のゴブリンの群れだったため、二人居れば簡単に倒せる相手なのだが、今は自分一人でしか戦えない。更にルナも心配なため、出来るだけ早く決着をつける必要があった。


「お前らに構ってる暇はないんだ!!」


 出来るだけ早く決着を付けようといきなりゴブリンの首筋を狙った。しかし後衛ゴブリンはホルスの邪魔をしようと矢を放った。運悪く一匹が放った矢がホルスの利き腕に突き刺さり、ホルスに激痛をもたらした。

 普通だったら激痛で腕を上げることは叶わない筈だが、ルナを思う気持ちと戦闘中に溢れるアドレナリンで痛みを無視して、そのまま短剣を振り上げた。

 その流れのまま後衛ゴブリンに襲いかかった。矢が刺さってるのにも関わらず、短剣を振り上げたホルスに驚いたのか、無抵抗のままやられていった。


「ルナさん!大丈夫ですか!!」


「グギャ!?」


「隙あり!」


 三匹のゴブリンの猛攻に押されていたルナは小さな傷が増えていた。心配したホルスは大きな声でルナに呼び掛けたのだが、その声によってルナの戦局が好転した。

 ホルスの声に一匹のゴブリンが反応したため、ゴブリンたちの連携に穴が出来ていた。ルナはそこを突き、まず一匹の首を刈り取った。二匹になったゴブリンの連携はルナにとって取るに足らぬ物だったため簡単に倒すことが出来た。


「はぁはぁ……だいぶキツかったよ……って怪我してるじゃない」


「ははは……少し無理しちゃいました。でも悔いは無いですよ。ルナさんを助けようと思っていたら体が動いたんですから」


 ホルスは矢が刺さっている右腕を見ると苦笑しながら矢を引き抜いた。ゴブリンが放った矢には返しが付いていたので、引き抜いた際に怪我が拡がってしまった。アドレナリンがドバドバ出ているホルスは痛みを感じていないのだが、アドレナリンが引いた時に強烈な痛みに苛まれてることになるだろう。


「一旦帰りますか」


「そうだね。かなりの量の魔石になったはずだからステータスの更新でもしようか」


 その後は特に集団のゴブリンに出会うことはなく、単体のゴブリンを各個撃破しながら帰還して行った。



***


「大丈夫ですか!?ホルスさんに至ってはかなり大きな傷ですよ!!」


「五匹のゴブリンの群れに襲われまして……戦ってる途中に三匹のゴブリンにも襲われて……こうなりました」


 ギルドに着いた二人は受付嬢のリリムに事の顛末を話していた。リリムはホルスの傷を見てグレイウルフにやられたのだと予想していたが、予想を裏切られてしまった。

 二人が合計八匹のゴブリンと同じ時間に戦っていたことを知るとリリムは驚愕していた。なぜならゴブリンというものは数が増えれば増えるほど脅威度が増すのだ。八匹ともなるとグレイウルフ一匹を優に超える脅威度になる。そんなゴブリンたちを倒しきった二人は一度もステータスを更新していない初心者と来た。すなわち、二人は才能の塊である可能性が高い。


「……私にプルート旅団の専属受付嬢をやらせていただけないでしょうか!!」


 近い将来彼らが旅団の中でも上位に食い込むと考えたリリムは彼らに自分を売り込むことにした。有望な旅団の専属受付嬢になれば受付嬢の中でもエリートコースを歩むことが出来る。例えば旅団が没落でもしない限り……。

 

「貴女は私たちが没落しても見捨てないですか?」


「ぼ、没落ですか?一度大きくなった旅団は滅多なことが無い限り没落することは無いと思いますが……っすいません!!!」


 リリムが言う通り旅団は一度大きくなれば没落することなど滅多に起こらない。その理由は大きい旅団には必然的に有望な新人冒険者たちが入団を希望して来る。そんな旅団が没落する理由としては他の旅団との抗争で敗北すること。もしくは団長の耄碌、そして団長の代替わりの失敗だ。

 プルート旅団が没落寸前まで落ちていたのを思い出したリリムは急いで謝罪した。そして自分の気持ちをぽつりぽつりと話し始めた。


「……私はルナさんたちが、これから伸びると思っているから専属になろうという下心もあります。……ですが!お二人の才能に魅力を感じたというのが一番の理由です!!二人の覚悟に惚れたんです!!!」


 リリムの本心を聞いたホルスはルナのことを見つめた。ホルスの言いたいことが分かったのかルナは頭を下げているリリムに声をかけた。


「頭を上げて。……お願いするわね。プルート旅団専属受付嬢さん」


「――っ!!ありがとうございます!!!」


 最初は何を言っているのか分からなかったのか、止まっていたが意味を理解してからは直ぐにお礼を述べた。リリムがまた頭を下げたので、今度はホルスが頭を上げるように促した。


「すいません。仕事に戻りますね。ふぅ……少々ゴブリンの群れの個体数が増えていますね……」


「やっぱりそうですよね。父上が初心者の冒険者を見ている時に聞いた話では一階層では、四匹までの群れしか出ないと……」


「まあ、はぐれのゴブリンが四匹の群れに合流したのでしょう……こちらでも調べておきますので、原因が分かり次第お伝えさせて頂きます」


 通常より魔物が多い群れが生まれる理由としては、二つある。

 まず一つ目は人為的な発生。他の冒険者が倒し損ねた魔物が逃げて合流してしまう。もしくは他の冒険者に害するためにわざと数を減らして逃がすことによって魔物の群れの個体数が増加してしまう。

 そして二つ目が迷宮氾濫スタンピードである。迷宮氾濫とは数が増え過ぎた魔物が自由を求めて上の階層或いは地上に出てきてしまうことだ。

 数多くの冒険者たちが毎日のように魔物を狩っているため、迷宮氾濫が起こるなど無いに等しいのだが、もしも起こったら一階層の魔物だけだろうと大きな被害になってしまう。


「もし迷宮氾濫の前兆だったとしたら、報酬が渡されますので」


 そのため迷宮氾濫の前兆を報告した者には、事前に止めた者として少なくない報酬が渡されることになっている。


「いえ要りませ――」


「ありがとうございます。ステータスの更新に行くよホルス」


 ホルスは報酬の件について断ろうとしていた。しかしルナの大きめの声によって遮られて、受け取ることになった。

 ホルスが情報を伝えただけで報酬を貰うのは違うと考えるのは、付き合いの短いルナでも分かるほど彼はお人好しだ。しかし貰えるお金は貰っておかないとこの世界は生きていけない。


「ホルス、貰えるお金は貰っておいた方がいいよ。ホルスがお人好しなのは知ってるけど、今の私たちはとても貧乏なの。……ある程度お金が貯まるまでは人の事なんて気にする必要は無いよ。まあ犯罪だったり迷惑行為は別だけどね」


「……やっぱり僕は他人だろうと困ってる人が居たら、心配してしまいます」


「……ならさ、私はとても困ってるよ。ホルスが助けてくれないと孤独に死んでいく。……私のことを助けてくれるかな?」


「――っ!!もちろんです!!!」


 この誰が見ても恥ずかしいやり取りギルド内でやっていたため、彼らは悪目立ちしてしまった。周りの冒険者たちは二人の行く末を見守ろうと話しかけるような真似はしなかった。


***


「ステータス更新したら、もう一度潜りますか?」


「そうだね……でも先にポーションを買っておこうか」


「こちらをお返しします」


 更新のために受付に渡していたステータスが見えるカードが返却された。

 そのカードに記されていたカードは……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る