第5話 二日目

 プルート旅団の館はお金がなかった時に売りに出されたため、今過ごしているのはボロボロのアパートの一室だった。

 ホルスは女性と一緒に寝るのは良くないと外で寝ると言っていたが、外は危ないとルナに止められたため、仕方なくルナの隣で寝ることにした。

 ホルスはなかなか眠ることが出来ずに散歩にでも行こうかと思っていたが、背後からルナに抱き着かれ身動きが取れず、気付いたら眠っていた。

 朝起きると背後にルナは居なくて、小さなキッチンの方を見るとなけなしのお金で買ったお肉を切っているルナの姿があった。


「あ、起きた?起きてすぐで悪いけど朝ご飯食べよ」


「はい」


 まだ寝起きなので寝惚けた感じで返事をしてしまったのだが、ルナは寝惚けているホルスを見て微笑んでいた。


「天使だ…………」


「何寝惚けてるの早く食べるよ」


 ホルスの寝惚けてるであろう言葉に軽く流したかのように見えたが、耳が赤くなっていたので恥ずかしかったのだろう。

 朝ご飯は特にイベントらしいイベントは起こらずに過ぎていった。


「今日もダンジョン行くよね?まあダンジョン行かないと食費がないんだけどね」


 ルナの悲しいボケにホルスは涙が出てきそうになり、改めて強くなろうと決意した。

 家に居てもやることが無いので朝早くからダンジョンに向かうこととした。


「今日はどこまで行きますか?」


「取り敢えず一階層の制覇を目指してみる?」


「あまりダンジョンのことに詳しくないんで分からないんですが、一階層に出てくる魔物ってゴブリンだけなんですか?」


「いや、奥の方に行くとグレイウルフが出てくるよ」


 グレイウルフとは鋭い牙と爪を持つ灰色の狼で、動物系の中では初歩の初歩だがゴブリンとは比べ物にならない程強い。ゴブリンの集団に余裕で勝てるようになって、奥に進んだ初心者がグレイウルフに襲われて、大怪我で帰ってくることも少なくない。

 しかし頭はそこまで良くないので、動きを見切る動体視力さえあれば、グレイウルフの単調な動きは簡単に避けることが出来るため、一定以上の強ささえ持てば簡単な相手である。

 だが二人がグレイウルフを楽に倒せる実力があるとは言えない。まずはゴブリンの集団相手にステータスを上げるのが、一番安全な道なのだが……


「冒険しなきゃ強くなれないですよね」


「……そうだね。私たちはそこそこの冒険者を目指してるわけじゃない。トップの冒険者たちを超えるのならだいぶ遅れを取っている私たちは冒険をしていかないと追い抜かすことは出来ないもんね」


 二人はアビルやローズを含めた上位陣の冒険者たちを出来るだけ早く超えるために冒険することを選んだ。

 グレイウルフ相手に万全な状態で挑むには集団のゴブリンを無傷で突破し続ける必要があるのだが、今日中に出来るだろうか……否である。なぜならステータスという物は魔道具で更新しなければ、反映されることは無い。反射神経や動体視力等の内部のものだけは良くなるが、それ以外はそのままだ。ならばステータスを更新すればいいのだが、更新にはお金がかかってしまう。カツカツの二人に一回の冒険で更新に回せるお金はないため数回の冒険をこなす必要があった。

 二人は出来るだけ進み集団のゴブリンを倒すのを効率化して、大量の魔石を稼ぐ方法を選んだ。


「昨日ぶりだね」


「さっき話した通り、集団のゴブリン相手に魔石を集めるで大丈夫ですよね」


「本当はグレイウルフと戦ってみたいけど、怪我したら元も子もないもんね」


 怪我を治すのにもお金が必要になるため彼らは極力怪我はしない冒険をすると決めていた。ため上を見るのではなく自分たちの体に鞭打って、限界まで集団のゴブリンと戦おうとしている。


「前に二体居るよ」


「僕が奥の方を倒します」


「分かった。手前のをやるから奥はお願いね」


 初めての時と同じようにルナが前衛のゴブリンを仕留める作戦となった。

 二人は走り出した。ルナは前に立っている前衛のゴブリンの手首を切りつけて武器を持てなくした。武器を離してしまったゴブリンは反対の手で拾おうとしたが、ルナがそんな隙を与えるはずもなく屈んだ際に下がった首を上から切りつけた。

 同じく走り出したホルスは後衛に立っているゴブリンの足下を狙った。まるで獣のように体制を低くして足首を切りつけた。足首を切られたゴブリン立っているのがままならなくなり、ホルスの方に倒れてきた。ガラ空きとなった心臓に短剣を突き刺し、ゴブリンは魔石を残して消えて行った。


「やっぱり二匹くらいなら楽勝ですね」


「まあ簡単だったけど油断は禁物だよ」


 そう言っている合間に次のゴブリンたちが近付いてきた。近付いてきたゴブリンは五匹の群れだった。前衛が三体の後衛が二体で、全員が武器持ちだった。一階層のまだ中間を少し過ぎたところにしてはイレギュラーと言っても過言ではない編成だった。

 二人はこれは試練だと思うことにして気を引き締め直した。作戦は今までと変わらず、ルナが前衛を抑えている間に後衛のゴブリンをホルスが仕留める。


「行くよ」


「はい!前衛をお願いします」


 ルナが先に走り出した。二人に気付いたゴブリンたちも走り出した。前衛のゴブリンは目の前に居るルナだけに標的を定め三匹同時に攻撃を仕掛けた。

 頭の悪いゴブリンの攻撃は言葉のまんま同時で、ゴブリンの剣同士がぶつかり合ってルナには届かなかった。剣同士がぶつかり合った衝撃でゴブリンたちに隙が生まれたため手首を切ろうとしたが、いち早く体制を整えたゴブリンに邪魔をされたため一度後ろに下がることとした。


「流石に三匹は難しいね」


 ルナが前衛の気を引いているうちにホルスは後衛のゴブリンたちを仕留めるために走り出していた。向かって来るホルスを仕留めようとゴブリンたちも弓に矢を番えて撃ち放った。しかしホルスはこれまでの戦闘で鍛えられた動体視力と反射神経を使って二発の矢を既の所で避け切った。


「グギャ!?」


「ゴブリンは次の矢をセットするのにかなり時間がかかるよね」


 ホルスはゴブリンたちが一度矢を射ると次の矢をセットするのに時間を要するのをこれまでの経験で知っている。その隙を突くかのように近付き二匹のゴブリンの首の動脈を切り裂いた。二匹のゴブリンは魔石を残して消えていた。

 ホルスは三匹の前衛ゴブリンを担当しているルナが心配になり、振り返った。その視線の先には目立った傷は無いものの三匹のゴブリンによる猛攻で押されているルナの姿があった。


「ルナさん!!」



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る